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「モデルの才能を生かすも殺すも、全てはカメラマンの腕にかかっていると俺は思ってる。アンタにはそれだけの才能がある。だから、それを存分に生かす為に、俺がアンタの魅力を最大限引き出す」
「…………」
あまりに突然で突飛過ぎる話に驚き、言葉を発することすら忘れていた千鶴。
「俺に全てを委ねろ。必ず、お前を日本の……いや、世界の頂点に立たせてやる」
蒼央のその言葉に、千鶴の胸は震えた。
そして、そんな風に言われたのは初めてで、そこまで自分の為を思ってくれることが嬉しくなった。
「あの……そんな風に言って貰えて、もの凄く嬉しいです。ご期待に添えるよう頑張りますので、これからよろしくお願いします!」
この人に付いていけば間違いない。
千鶴はそう確信して、蒼央に頭を下げた。
「私からも改めて、西園寺くん、これからよろしく頼むよ」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
こうして蒼央はフリーカメラマンから一転して、佐伯が運営する【サエキプロダクション】専属のカメラマンとして、主に千鶴の専属カメラマンを務めることになった。
この話は瞬く間に業界へと広まり、様々な企業やモデル、カメラマンたちの間でも話題となり、そこから一気に千鶴の名も知れ渡ることとなると、早速いくつかのファッション雑誌の編集社からオファーが舞い込んで来たのだ。
「千鶴、凄いぞ。一度お前をうちの雑誌に載せたい、使いたいとオファーが沢山来ている」
蒼央が専属カメラマンになってから数週週間後、佐伯は倉木と共に千鶴のスケジュールを組むのに苦労していた。
これはとても嬉しいことではあるが、事務所としては他のモデルも売っていく為に慎重に事を運ばなくては勿体ない事情もあって優先順位を考えるのに必死だった。
この日は夕方になると、レッスンを終えた千鶴やフリーでやっていた頃に受けていた仕事をこなして来た蒼央も混じえて今後について話を進めていたのだけど、依然として平行線のまま。
それどころかあまりに話が大きくなり過ぎていることもあってか、千鶴にいつもの元気が見られなかった。
「正直、声を掛けてもらえるのは嬉しいですけど、期待され過ぎるのはちょっと不安です……」
千鶴がそう不安を漏らすのも無理は無い。今は噂ばかりが一人歩きをしている状態で、世間的にはまだ千鶴の存在を知る者はいないばかりか、モデルとしてやっていけると評価をしてくれているのはあくまでも、蒼央と佐伯と倉木の三人だけなのだから。
「まあ不安があるのは仕方の無いことだ。けど、何処へ行ってもお前らしさを出せば問題はないよ、千鶴」
「そうそう。千鶴なら大丈夫だから自信を持ちなさい」
「……はい、ありがとうございます。あの、少し外の空気を吸ってきても良いでしょうか?」
「ああ、構わないよ」
「では、失礼します」
普段はあまりプレッシャーを感じることのない千鶴だが流石に今回はそうもいかず、少し不安が大きくなってしまった彼女は気持ちを落ち着かせようと社長室を出て屋上へと向かって行った。