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「ふう……」
陽が落ちてすっかり暗くなった空を見上げながら、千鶴は溜め息を吐く。
(……何だか、すごい話になってきちゃったなぁ)
蒼央のおかげというのは分かっているが、まさかここまで話が大きくなるとは千鶴自身予想外過ぎて驚きを隠せずにいた。
(西園寺さんは評価してくれてるけど、私、本当に大丈夫なのかな……)
撮影の時はトントン拍子に進んでいたものの、レッスンでは常に怒られてばかりの千鶴。
それに噂ばかりが大きくなり過ぎたせいか、同じレッスン生からは好奇の目で見られて友達すら出来ない状況もあり、口には出さないものの落ち込む日が増えつつあった。
手すりによりかかり、星のない空をひたすら眺めていると、
「どうした? 他にも不安があるなら隠さず口にしてみろ」
後ろからそう声が掛かったので千鶴は慌てて振り向いた。
「西園寺さん」
休憩をしに来たのか、蒼央は千鶴から少し離れた場所に立つと、シャツの胸ポケットから煙草の箱とライターを取り出して煙草に火を点けた。
「不安なことなんて、何も無いですよ?」
「そうか? その割には随分浮かない顔をしてると思うが」
「…………っ」
千鶴は迷っていた。今ここで弱音を吐くべきかどうか。
しかも、相手は他でもない自分を評価してくれている蒼央だからこそ、尚更話しづらかった。
「……すみません、嘘です。不安は、あります。先程言ったように、やっぱり、期待され過ぎると……本当に大丈夫かなって……」
それでも、このまま心に溜め続けていても解決しないと分かっていた千鶴がぽつりぽつりと話し出すと、蒼央はそんな彼女の胸の内を黙って聞いた。
「私、レッスンではいつも怒られてばかりなんです。周りからも、西園寺さんに評価されてる割に大したことない……なんて、噂されていたり……」
千鶴の話を聞いていた蒼央は自分のせいでプレッシャーを感じていることを改めて知った。
「……そうか。俺のせいでお前には随分やりにくい思いをさせてるようだな。すまない」
「そ、そんなっ! 西園寺さんのせいじゃないんです! 私がもっときちんと出来れば問題ない話ですから!」
「いや、お前は十分頑張ってるはずだ。ただな、俺が思うにお前は、型にはまるのが苦手なんだと思う」
「……え? それはどういう?」
蒼央の言葉の意味が分からない千鶴は思わず聞き返す。
「要は決められたことをするのが苦手なんだと思うが、どうだ?」
「…………」
「例えば、レッスンは決まったことをひたすら練習するが、撮影は個性を表現する場だろ?」
「はい」
「お前の場合、決められたことをしようとすると、無意識に変に肩に力が入るのかもしれねぇな。リラックス出来ない、常に緊張している状態で臨んでいるんだと思うが……思い当たる節はねぇか?」
「……言われてみれば、失敗しないようにしなきゃとか、また怒られたらどうしようって思って、焦ってミスをすることが多いかもしれません」
「だろ? 撮影の時は自由に出来ているから上手くいく。ただそれだけのことだと俺は思う」
「……そう、なんですね」
「それを周りは一緒くたにしてお前が出来る人間かそうでないかを決めているから、くだらねぇ噂がたつ。しかし、そんな噂をしている連中はお前が雑誌に載ったのを見た時、必ず間違いに気づくはずだ。だから、堂々としていればいい。レッスンなんて、その都度直せば問題ない。繰り返せば身体が自然に覚えるだろうからな」
蒼央のその言葉に、千鶴の胸のつかえは一気に消えた気がした。
千鶴はずっと感じていた、撮影とレッスンではやりにくさが違うことを。
(私は型にはまるのが苦手なんだ。そっか、そうだったんだ)
そして、千鶴は自分が昔から決まったことをやるのがイマイチ得意では無いことに改めて気づいたのだ。