テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
#執着攻め
221
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「予言者か……それはまた大層な人物のご登場だね」
ルーイ様と私の報告を聞いたレオンはつくづく嫌気が差したと言わんばかりのため息を吐く。セドリックさんとクラヴェル兄弟からも困惑がひしひしと伝わってきた。
「ニュアージュの魔法使いについて調べるだけでも大変だったのに、今度は予言者だって? もういい加減にしてくれよって感じだな」
「ルイス、投げやりになっちゃダメだよ。仮説でしかなかった黒幕の存在を確定させただけでも大きな収穫だ。その予言者とやらを捕まえてしまえばいいんだからね」
「捕まえればいいと簡単に言うが、一筋縄ではいかないだろう。予言者は魔法とは別の未知の能力を持っているそうじゃないか。それにより唯一の手掛かりともいえる少女たちから正体に繋がる証言を得る事ができない。闇雲に手を出せばしっぺ返しを食らうのはこちらだぞ」
セドリックさんは予言者に対してかなり慎重だ。レオンやクラヴェル兄弟が割と直情型なので、バランスを取る意味でも冷静な思考を心掛けているのだろう。
「ルーイ先生。予言者の持つ力について、貴方の見解を聞かせて下さい。我々は打ち勝つことができるのでしょうか」
勝てるか……だなんて、レオンにしてはかなり弱気な発言だ。さすがの彼も予知能力だなんて聞かされて怖気付いてしまったのかもしれない。
ルーイ様は皆の反応を静かに観察していた。彼自身もネルとティナの話を聞いて予言者に対しての警戒を一層強めたように思う。レオンの問いに彼はどのように答えるのだろう。
「まずは……大前提として『未来予知』なんて能力は存在しない。ネルとティナは信じきっていたみたいだけどね。万が一そんなものが使える人間がいたら、そいつは世界を創造した神よりも格上ということになってしまうね」
私が予知について質問した時と同じで、『あり得ない』とルーイ様は鼻で笑った。彼が予言者の予知能力についてはっきりと否定を示したことで、レオンたちの深刻な表情が僅かだけど弛んだ気がした。
「じゃあ、予言者って奴はただのペテン師? 施設の女の子たちは上手いこと騙されたってことになるのかな」
予言者というのはネルとティナが勝手にそう呼んでいたにすぎない。彼女たちは命を救われたこと……そして、身の回りで起きた出来事を言い当てられたことで、その人物を『予言者』だと疑いもしていない。あり得ない現象を目の当たりにして恐怖心すら抱いていたのだ。
命を助けられた事への恩義と未知の能力に対する畏怖の念……ふたりが持つそれらの感情を巧みに操り、予言者は彼女たちを手駒にしていた。恩を売る事で犯罪に巻き込んだのだ。ペテン師とは少し違うかもしれないが、碌でもない人物であるのは間違いない。
「予言者がネルとティナの身に起こる出来事をある程度知っていたというのは事実だろう。だがそれは未来予知なんて能力によるものではないし、分かる範囲にも限度がある」
「その仰りようですと、先生は予言者の持つ力の正体の検討がついていらっしゃるのですね?」
「まあな……俺も今の時点で断言はできない。下手にここで決めつけると捜査を妨げる雑音になりそうだからな。もう少し確信を得てから伝えさせて欲しい。予知能力なんてものは無いってことだけ理解しておいてくれ」
「分かりました。そういった分野に関しての考察は先生にお任せ致します。我々では到底お役に立てないでしょうし……」
ルーイ様は時間の巻き戻しについてはまだ説明する気はないみたい。でも、予言者を確実に捕えるためにはいずれ話さなければならない時が来ると思う。彼なら上手くまとめてくれるだろうけど、私の秘密に関わることだ。どうしても不安を感じてしまう。
「そうなると、予言者……という呼び名は不適切になりますが、他にいい呼び方もないので今はこのまま続けます。予言者が『ネル』と『ティナ』の言動を縛っている方法も先生はお分かりになりますか?」
「残念ながらそっちも恐らくとしか言えないが、ふたりは予言者によって非常に強い暗示をかけられているのだと思う。彼女たちは命の恩人である予言者を敬い、信頼していたからね。そこにつけ込まれたんだろう」
リアン大聖堂はメーアレクト様の領域だ。魔法の類いを使えば女神の監視に引っかかる。よって、ネルとティナの言葉を縛っているのは魔法ではない。催眠術のようなものではとルーイ様は考えている。
「魔法でないのなら解くことも可能ではないのですか?」
「暗示というのは受け手側が相手をどれだけ信頼しているかで効果に大きな差が出るらしい。思い込みの力は強力だ。ネルとティナの暗示を解くには、予言者に対して抱いている信頼を崩さなければならないだろう。
信頼を崩す……か。名目は保護であるけど、ネルとティナは軍に連行されたのと変わらない。私たちに抱いている感情は決して良いものとはいえないはずだ。説得は難航しそうだ。
「問題の少女たちはシャロンのいる二番隊で保護しているんだったな?」
「はい。先生のご采配で……」
「英断です。後少し……我々が『ネル』と『ティナ』に接触するのが遅かったら……取り返しのつかないことになっていたかもしれない」
「レオン……?」
彼は苦渋の表情を浮かべながら俯いた。傍にいるセドリックさんの眉間にも深く皺が刻まれていた。ふたり揃って何かに耐えているかのような……複雑な面持ちをしている。
彼らの様子に戸惑って言葉に詰まってしまう。そんな時だ。慌ただしく響き渡るノックの音で静寂は破られたのだった。