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#執着攻め
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「くそっ!!」
ルイスさんは悔しそうに声を上げ、テーブルの上に拳を叩き付けた。予想以上に大きな音が鳴ったため、反射的に体を縮こませてしまう。
「ルイス、落ち着いて。クレハ様が怖がってる」
興奮しているルイスさんを宥めつつ、レナードさんは私の体を支えてくれた。ルイスさんがこのように激情を露わにしているのには理由がある。私だって行動に移していないだけで彼と同じ気持ちだった。悔しさと怒り……やるせない思いが全てぐちゃぐちゃに混ざり合って体の内側から溢れ出てしまいそう。
「……ごめん。カッとなってつい……」
「いいえ。私も……この湧き上がる感情をどうしたらよいものかと必死に考えあぐねているところなのです」
私たちはついさっきまでレオンの部屋で調査報告を行なっていた。その最中だ。一番隊の兵士が緊急の報せを持って帰ってきたのだった。
同席しても構わないと許可が出たので、私もその場で報告を聞けることになった。内容はレンツェで起きたトラブルに関する続報だ。
慌ただしく部屋を出入りしていた兵士たち。レオンとセドリックさんの態度。もとより不穏な雰囲気は漂っていたのだ。これは決して良い報せではない。漠然とそう感じてしまった。悪い予感ほど当たる……ルーイ様とそんな会話をしたばかりであったが、今回もそれが的中してしまうことになる。
「まさか……バルカム司祭が自害するなんて」
バルカム司祭の訃報――――
兵士たちがレオンの命令でレンツェに赴いた時点で、司祭は派遣先の教会から姿を消していたらしい。捜索はすぐさま行われた。ニコラさんに続いて司祭までも行方知れずにするわけにはいかない。兵たちは追い込まれていたが、意外なことに司祭はすぐに見つかった。ただし、最悪な形で……
報告を受けたレオンとセドリックさんはすぐにレンツェへと向かうことになった。私は自宅での待機命令を下される。更に、ルーイ様と可能な限り一緒に行動することも約束させられた。クラヴェル兄弟は引き続き私たちの護衛だ。
リアン大聖堂での調査もしばらく中止になりそう。嫌な予感を抱いていたのは皆同じだが、さすがに司祭の死の報せには動揺を隠しきれないでいる。
私たちの間に重苦しい空気が流れていた。言葉に詰まり沈黙する時間が長くなっていく。そんな中、この状況にいち早く順応し、冷静に考察を行なおうとしている人物がいた。
「俺たちが報告に行った時、既にレオンとセディには司祭がいなくなったという情報は入ってきていたんだな。ふたり共見るからに態度がおかしかったから、相当厄介な問題が浮上したのだろうとは思ってたけど……まさか、バルカム司祭が自殺するなんて結果になるとは……」
「ルーイ様……」
バルカム司祭が自殺なんて……こんな展開全く考えていなかった。レンツェに逃げたかもしれないなんて言われていたが、司祭は襲撃事件に関与していたのか?
自ら死を選ぶなんて相当のことである。それほどまでに思い詰めていたのだろうか。そうだとしたら一体何に……
「さっきの一番隊の報告だけじゃ詳しいことはまだ分からない。すぐに自殺だと判断されたとこを見ると遺書でもあったのか……俺もレオンたちと一緒に行きたかったな」
自分の目で確認したかったとルーイ様はぼやく。火急の知らせだったので、司祭がどのような状況で亡くなっていたかなど、詳細には触れられていなかったのだ。
「先生。お気持ちは察しますが、今はどうか堪えて殿下とセドリックさんの帰りを待って下さい」
「分かっているよ、レナード君。言ってみただけだから。クレハと一緒に家で大人しくしているよ」
柔らかく微笑むルーイ様を見て、レナードさんは胸を撫で下ろす。結構本気で言っていたと思うけど、無理やりついて行くことが出来ないのはルーイ様も理解している。
今でこそ、私とルーイ様は堂々と捜査に参加させて貰っているが、レオンが本心ではそれを望んでいないというのは何度も言われてきた。特に私が介入する事には相当葛藤していたのだ。私たちを危険な目に合わせたくないと考えつつも好きにさせてくれていた。しかし、今回……レオンがルーイ様にまではっきりと待機を命じた。それは、彼の余裕が無くなっているという表れでもある。
「自殺じゃなくて万が一他殺だったら……犯人がまだ近くにいるかもしれないってことになる。そんな場所に先生や姫さんを連れてくわけにはいかない。ボスの気持ちも汲んでやってね」
「はい、これまで散々自由にさせて貰っていますから」
リアン大聖堂と違ってレンツェには女神の加護も及ばない。更に『予言者』なんていう得体の知れない者の存在が明らかになったばかり……レオンや皆が警戒するのは無理からぬことだ。
「自殺か他殺かの議論は一旦置いておくとして、今このタイミングで司祭が死んだということについて考えてみようか。俺たちは確実に真相に近づいている。司祭の死はそれに無関係とは思えない」
「犯人側が相当追い詰められているってことだね」
ルイスさんの言葉にルーイ様は頷いた。『予言者』がネルとティナと同じようにバルカム司祭も利用していたとすると、彼の死は仕組まれたものである可能性が浮上する。自らの存在はひた隠しにして、他人に罪をなすり付けて逃げるつもりなのだとしたら……そんなこと絶対に許してはいけない。
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