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「お腹すいた……」布団の中で小さく呟いたまなみに、そらとは眉をひそめた。
「……お前、さっきまで真っ赤な顔で隠れとったくせに、急に飯の話か」
「だってお腹すいたんやもん」
「……ほんまマイペースやな」
そう言いながらも、そらとはため息をつきつつ立ち上がる。
まなみは布団にくるまったまま、上目遣いでそらとを見上げた。
「そらと、朝ごはん作ってくれるん?」
「は?なんでおれが」
「えー、お泊まりした時はいつもそらとが作ってくれよったやん」
「……昨夜のあとに“いつも”とか言うな」
「なんでぇ?」
「……いろいろ思い出すっちゃろが」
顔を逸らして耳まで赤くなったそらとを見て、
まなみは小さく笑いながら布団から抜け出した。
キッチンに並んで立つふたり。
エプロン姿のそらとは、手際よく卵を割りながらまなみに言った。
「なに笑っとん」
「そらとって、なんか旦那さんみたい」
「はぁ!?誰が旦那や」
「だって、エプロン似合っとるもん」
「……煽っとるんか」
「煽ってない、ほんまやもん」
唇を尖らせて言うと、そらとはちらりとまなみを見て、
ため息混じりに目元を緩めた。
「……ったく。お前、ほんまそういうとこあざといっちゃな」
「無自覚やもん」
「無自覚が一番たち悪いっちゃって昨日も言うたやろ」
「ふふっ、また言いよる」
「もう一回言わせたいんやろ?」
「……ちょっとだけ」
そう言ってにこっと笑ったまなみを見て、
そらとは卵をかき混ぜる手を止めて深く息を吐いた。
「……おれ、ほんま限界近い」
「え、朝から?」
「おう、朝から」
「……んふ、我慢して?」
「知らん、飯終わったら考える」
テーブルに並んだ朝ごはんは、ふわふわの卵焼きと味噌汁。
一口食べたまなみは、ほっぺをふくらませながら嬉しそうに言った。
「おいしい~!そらとの卵焼きすき~」
「当たり前や。おれが作ったんやけん」
「そらと、将来いい旦那さんになるよ」
「また言いよるし……」
「ほんまやもん」
「……おれ以外の男にそれ言うなよ」
「言わんよ?」
「ほんまか?」
「そらとが旦那さんやもん」
無自覚にそんなことを言うまなみに、
そらとは一瞬で箸を止め、じっと見つめた。
「……まなみ」
「なに?」
「……その言葉、あとで後悔すんなよ」
「え、なんで?」
「……部屋戻ったら教えたる」
そう言って笑うそらとの声は、
やけに低くて甘かった。