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──静かだ。 異様なほど、静かだった。
玉水線の車内は、ついさっきまで人々のざわめきで満ちていたはずだ。
だが今は、重たい空気と誰かの浅い呼吸音しかない。
俺──|白川涼介は、額ににじむ汗を拭った。
何が起きているのか、頭の片隅で理解し始めていた。
それでも、心の底から湧き上がるざわめきは抑えられない。
【メインシナリオ#1:生存の誓約】
難易度:F
条件:生命を一つ以上殺すこと
制限時間:10分
報酬:|コイン300
失敗した場合:死亡
突然頭の奥に直接響くその声は、感情の欠片もなかった。
機械的で、容赦がない。
涼介「……生命を、殺せ?」
声に出してみた途端、胸の奥がずしりと重くなった。
殺す。
それは人間かもしれないし、虫かもしれない。
──いや、生命なら何でもいいのだろう。
俺は視線を落とした。
床を、甲虫がゆっくりと這っている。
小さな命。
それでも、このシナリオの条件を満たすには十分だ。
靴底が、甲殻に触れた。
わずかな抵抗。
ためらいは……ない。
ぱきり、と硬い音が響いた。
【生命を殺害しました】
【追加報酬:|コイン+100】
心は動かなかった。
これは感情ではなく──手順だ。
その時、低く笑う声が聞こえた。
前方の座席から、赤いパーカーを着た若い男が立ち上がる。
片手には光沢の鈍いナイフ。
口元には、不敵な笑み。
???「へぇ……効率がいい方法だな、お兄さん」
|赤城龍真
俺は、この男の“未来”を知っている。
そして、できるだけ関わらない方がいいことも。
「でもさ、虫なんかより──」
龍真は顎で後方の乗客を示す。
「──こっちの方が早いだろ?」
悲鳴が上がる。
龍真の眼は愉悦に濡れていた。
涼介「やめろ」
龍真「は? 正義感か?」
俺は視線を逸らさず言う。
「いいや……俺が気に入らないだけだ」
わずかに、龍真の口元が歪む。
そのまま、刃先を下げた。
「……つまらねぇな。まぁいい、今日は気分じゃねぇ」
彼が座席に戻ると、空気はさらに重く沈んだ。
──こいつは、放っておけば必ず誰かを殺す。
そうならない保証は、この世界にはない。
俺は深く息を吐いた。
(始まった。……そして、終わるまで止まらない)