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「あれ?……お、おいオマエ、パストだろ?ボウズもいるじゃねえか!こないだぶりだなあ!俺のこと覚えてるか?って、ボウズは2回酒屋で会ったくらいじゃ覚えてねえか」


知恵モノの特徴、それはあまりにも精巧な模倣にある。多くの人間を生きたまま喰らい、食った人物が記憶していたよりも多くの情報を引き出す。


「いきなり話題を聞かなくなったと思ったら……オメェ、なんで光聖冠なんかに捕まってんだ?」

「それがよお、聞いてくれよ。コイツら、俺の狩猟に同行してな……そんときに、俺の不手際で…仲間が、食われちまって…全員…それで……」


涙声で下を向き、壁越しに拳を握りしめ体を震わせる挙動は、まさに人間と遜色ない。

ただ、目の前の人物は仲間が全員死んだところで涙の一滴も落とさない。素人の狩猟師を囮にし、20人以上を犠牲にしてきた男だ。

それでも狩った人狼は三桁を越え、“泰狼”すら屠ったという。聖人を装って希望を語り、若者を集めては潰す。

そういう奴だった。


「じゃあなんだ、人狼が逃げてお前だけが残ってた。そんでお前は人狼だと思われて閉じ込められちまった、ってぇとこか?」

「そうだ!そうなんだ……ここの連中、何言っても聞かねえし、バケモノが、むりやり、いろんな魔術で、俺を拷問してきて…お願いだ!出してくれ!!お前なら分かるよなぁ!?俺が本物だって分かるよなぁ!?」


人を多く食らった人狼は、整合性を意識するあまり、曖昧でいい情報さえ食らった他の人間の知識と照合し、詳細に物事を語り過ぎてしまう。

初対面になら通用するが、交流のある人物に効くことは稀だろう。


「私からも質問です。ラバワンズのリーダー、ストルド。あなたが囮にしてきた人数は何人ですか?」

「ぁ……そ、そうだよな……お前にはあのとき、酷いこと言っちまったもんな…お前は、俺のことを」

「釈明ではなく人数を聞いています。答えてください。いつも言っていたじゃないですか」

「…46人だ」

「……わかりました。それならここから出すべきですね。このクリスタル、ぼくの義足でも蹴り飛ばせば」

『ちょちょちょ、ちょっと待ってよぉ!?コイツは人狼!うそつき!見ててよ!?』


私の言動に焦ったのか、ヴァンピールは急いで箱の天井に張り付く。上部には通気口があるのか、羽の皮膜を引っ張って破き、箱の中に血液を垂らしはじめた。

『イタタタ…ほら!正体を現せ〜!』


「悪魔が……悪魔ごときが、おれ、おッ、オ おれの、俺の邪魔あしやがってええええええええええ!!!!!!!!!」


「アー、もうちょい楽しみたかったなぁ」

「ヴァンピールさん……今のは我々が知恵モノを選定するときの決まりみたいなものなんです。彼のことは知っていましたから、やる必要は無かったんですけど」

「フートなら乗ってくると思ったからな!」

『えっ、え〜!?じゃあぼくの血液は〜!?先に言ってよねぇ…イテテ』


人間と人狼の決定的に違う点、それは黙秘が出来ないこと。

なぜか人狼は、聞かれたことに対して無言でいることができない。

それは死体だけを食って、言葉らしい言葉を一言も発することが出来ない人狼も一緒だ。


「ちゃあんとオメェがここにある本読んどきゃ分かっただろうよ。にしても面白ぇや!大嫌いなクソ野郎がまぁさか知恵モノ如きに喰われちまったとはなァ!?こりゃあ今日の酒は格別に旨いぜ!!」


透明な檻の中で暴れる人狼は、奴と共に行動していた一味の姿に目まぐるしく変わっていく。


「おい悪魔。コイツが言ってたテメェ等の同行中ってのは本当か」

『それは本当だよ、報告書もあるから。あ!でも誤解しないでね。同行は同意を貰ってから毎回してたんだ。そしてたまたま、彼が率いてたチームが崩壊する現場に立ち会った。そういうこと』

「信用できねぇがコイツらは近々終わると踏んでたからな。聖人の裏が表に出てきて、囮が手に入らなくなってたからよぉ!」


『殺す、殺す殺す殺す殺す殺ス!!!!!』


人狼が壁を叩いても、まったく割れる気配がない。それどころか、皮膚が擦れ腕から血が出ている。

その血を背景に透明だった壁の表面から、徐々に蜘蛛の糸のように細く薄い線の紋様が浮かび上がっていた。


「ん?この壁…よく見ると魔術式が書かれているんですか?」

『よく気付いたねぇフートくん。そう、これは加えた力が跳ね返っちゃう魔術。だからこんなに薄いクリスタルでもビクともしないんだ。ただ、外側から力が加わると割れちゃうんだ…』

「だから焦ったのですね。申し訳ないことをしました」

『いいんだよ。ここに居るのに、寝てばっかのぼくが悪かったからさ。これからは勉強するよ』


私の前に飛んで戻ると、羽の皮膜は綺麗に塞がっていた。

喋るだけでなく不死性の片鱗まで見ると、悪魔であるのかもしれないという実感が少し沸く。


「悪魔、コイツは処分しねぇのか?」

『ん〜とね、実はもう一通りの実験と記録は終わっちゃってるんだ。あとは眠らせて狩猟協会に渡して〜って感じかなぁ?でも報告書かくのが億劫でねぇ。はやくどかしたいんだけど』

「最後にもう1つ質問だ。このクリスタルの箱、幾らする?」

『えっと、ドワーフに特注して、アラクネに魔術式を書いてもらって…金塊3つ


言い終わる前にヴァンピールさんを懐に入れて正解だ。


放たれた銀の弾丸は、血塗れのクリスタルを焦がし、溶かして、鋭く尖った破片をも巻き込みながら獲物の核に抉り込む。


私は、相棒が心臓を撃ち抜く瞬間が、堪らなく好きだ。


かも……ッ!?』


遅れて響く発砲音を追いかけるかのように、弾丸の円に沿って集中線を描きながら箱は崩壊し、四方八方へ弾け飛んだ。


「あっ……ぶねぇ〜!粉々になるかと思ったら、めっちゃデカイ破片飛んできたじゃねえか!刺さらなくてラッキー!!!」

「大きな破片、手で払って砕いてるの見ましたよ」

「こんな時まで目ぇ開けてんじゃねえよ!閉じろ!」

「目を開けられない状況を作らないでください」


『…も、もしくは、作業期間も含めたら、あと金貨850枚、いるかも……』


「………………働くか」

「はい」

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