テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
本編外伝
落花の断罪
― 宵闇の伏見、銀輪の共鳴 ―
千本鳥居の朱色が夜の闇に溶け出す、伏見の山裾。
そこは観光客の喧騒とは無縁の、どろりとした怨嗟が渦巻く異界と化していた。
「……椿。何度言えばわかるんですか。抜刀のタイミングが早すぎます。解析が終わるまで待機と言ったでしょう」
梅の凛とした声が、通信機越しに響く。彼女は白銀の瞳を凝らし、宙に浮かぶ幾何学的な解析陣を指先で操作していた。その細い指には、先日手に入れた銀の指輪(※番外編「四条の灯火、四つの指輪と今夜の献立」参照)が、月光を反射して冷たく光っている。
「あはは、ごめんごめん。でもさ、梅ちゃん。この怪異、なんだか悲しい匂いがするから、早く楽にしてあげたくて」
大きな背中を揺らし、椿が闇の奥を見つめる。彼の右手、人差し指に嵌めた指輪の深紅の石が、殺気に呼応するように脈動を始めた。
「ヤバい、マジでデカいのが来るよ☆ 椿、右! 桐っち、影から押さえて!」
蓬が椿の死角をカバーするように桃色の結界を展開する。彼女の細い指先でも、同じ銀の輪が桃色の妖力と混ざり合い、激しい光を放っていた。
「……了解。……逃がさない。……一瞬で、終わらせる」
影の中から現れた桐の群青の瞳が、獲物を射抜く。
四人の指にある銀の指輪が、一蓮托生の術式を媒介に共鳴し、四人で一つの巨大な鼓動となって戦場を支配した。
「……解析完了。……椿、やりなさい!」
「了解。………【落花】」
椿が深い紺色のマントを翻し、一閃する。
巨大な怪異は、断末魔を上げる暇もなく、数千、数万の赤い椿の花びらへと姿を変え、夜の伏見を静かに埋め尽くした。
嵐のような戦闘が終わり、静寂が戻る。
椿は刀を納め、右手の指輪をそっと唇に寄せた。
「……みんな、怪我はない? ……よし、帰って梅ちゃんのだし巻き卵、食べようか」
戦場に似つかわしくない穏やかな声。
四人の指に宿る銀の輪は、血よりも濃い絆を証明するように、闇の中でいつまでも誇らしげに輝いていた。
「……一蓮托生の絆を宿した銀の指輪。その指輪が、戦場で四人を繋ぐ『共鳴の鍵』になるとしたら、どんな奇跡が起きると思いますか?」
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!