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花斗の寝静まったリビング。
「ひとりで寝れる」と言った花斗が本当にひとりで寝てしまい、少しの寂しさが襲う夜。
「赤ちゃん、つくろうか」
温かなハーブティーを淹れてくれた壱月は、リビングに座る私にそれを差し出すなりそう言った。
「え!?」
大声がもれ、慌てて口を両手で覆う。
壱月は笑うでもなく、真剣な顔をしていた。
「これは冗談じゃなくて、かなり真剣に考えているんだ」
「……うん、ごめん」
なにを謝っているのだろう。
あわあわしながら、私は壱月の淹れてくれたハーブティーに口をつけた。
優しくて、ほっとする味だ。
「お義姉さんのこととか、花斗が言うからというわけじゃなくて、けっこう前から思ってたんだ。愛音ももう三十過ぎてるわけだし、ふたりめが欲しいなら、あんまり遅くならないほうがいいだろう?」
それは、そうだ。
花斗が成長した分だけ、私も壱月も歳を取っている。
子どもを産むには、実際リミットだってある。
「でも、愛音の仕事のこととか、将来の理想とか、そういうのも大事にしたいと俺は思う。愛音、俺と再会してからもどんどん成長してるし、そういうところを本当に尊敬してるから――」
私はカップから口を離し、つい壱月を見つめた。
それに壱月が気づいて、言葉を止めてしまう。
「どうした?」
「あ、ううん。私が成長できるのは、壱月がちゃんと見ていてくれるからなんだけどなって、思っただけ」
「……そうか」
それで、壱月の頬がほんのり赤く染まる。
ふふっと笑うと、壱月はキョトンとした。けれどそれは一瞬で、すぐに真剣な顔をする。
「それで、俺は俺なりに、未来のことを考えていたんだ。その中には、愛音との赤ちゃんを育てたい、という思いもある。けど俺には、愛音の気持ちを踏みにじった過去がある。だから、なかなか言い出せなかったんだ」
「うん……」
相槌を打ちながら、彼の心に触れられたようで、温かいものがじわんと胸に沁みてくる。
「愛音と籍を入れてから、実は少しずつ調べていたんだ。NALJの育休制度のこととか、引っ越しするなら子育てしやすい街がいいなとか、小さい赤ちゃんを抱っこしている男性を見ると、手足ちっちゃいなあとか、愛音は全部ひとりで抱えて生きてたんだよなあ、とか――」
「壱月、それはもういいよ」
後ろめたさとか、そういうのはいらない。今が幸せだから、私はもう大丈夫だ。
けれど、壱月の中には、どうしても消化しきれない部分があるかもしれない。
私が、旦那の手を、家族の手を借りて子育てができるのがうらやましいと思っていたあの期間は、壱月にとっては経験したことのない未知の期間なのだ。
だから代わりに、私は口を開いた。
「もし壱月が乳児のお世話したら、最強のパパになる思う。ピカイチの行動力で、おむつ替えもミルクもささっとやってくれそうだよね。離乳食も全部手作りで、段取りよくなんでも出来ちゃいそうだもん」
言いながら、そんな未来がはっきりと想像できることに気がついた。
それくらい、私たちは、もう家族になっているんだ。
「愛音先輩の育児の知恵は借りたいけどな。でも、もしそんな未来を愛音も想像してくれているなら」
言いながら、壱月が私の手を握る。
「俺はいつでも覚悟はあるし、もし愛音もいいなって思ってくれているなら」
握られた手に力がこもる。
はっと壱月を見上げると、真剣な瞳に私が映っていた。
「俺は愛音に、もうひとり産んでほしいと思う」
真剣な顔つきは、花斗を授かったあの夜とはまったく異なる。彼の覚悟が、そこにきちんと見えた。
そして、私の心は壱月と同じだ。だから――。
「うん、いいよ。いいなって、私も思う」
コメント
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うわああああ第97話!😭💕 壱月さんがハーブティー淹れながら「赤ちゃんつくろうか」って真剣に言うシーン、マジで心臓ぎゅってなったよ…!! しかも育休制度とか調べてたとか、離乳食の段取りまで考えてるとか、細かい準備してるのが伝わってきて「この人、本気だ…」って震えた。愛音さんの「最強のパパになる思う」って返しも優しさに溢れてて、ふたりの未来がちゃんと重なった瞬間が尊すぎました…✨ 夜のリビングで交わす大人の会話、沁みるよ〜🌸