必死に抗議の声を上げているナッキに対して、聞いているのかいないのか、当のヘロンは例の如く、口元を歪(いびつ)に引き上げながらヘラヘラした表情で返す。
「えええ? もうとっくに痛くはないでしょう? 本当にオーバーだなぁ、ナッキ様はぁー!」
「なっ! お、オーバーだってぇっ! 馬鹿言っちゃイケないよぉっ! 今この瞬間だって打ち据えられたおでこを中心にして、全身の隅々まで痺れる様な痛みがぁ! 痛み、ん? んん? 痛く、無い? 全く痛く無、い? いいやそれ処か、内側から新たな力が湧き上がってきているぅ! 何だコレェッ! 凄い凄いぞぉっ! ムフンッ!!」
言っている間にも、ナッキご自慢の大きな胸鰭と背鰭、尾鰭が一回り大きく成長した様である。
普通生き物の部位は見て判るように成長する事は無い、異常事態である。
それこそ深刻な健康被害を予測して、厳重な経過観察を経なければならない事態であろう。
だが、この『美しヶ池』には、幸か不幸か医療に熟知したメンバーは皆無だったのである。
この場に集った面々は、自らの主人の更なる進化に、掛け値無しの賛辞を送り続けるばかりであった。
調子に乗ってポージングを披露し続けているナッキに掛けられる声は、格好良いですだとか、又強くお為りになってぇだとか、抱いてっ! だとか…… そんな声に満たされていたのである。
一転、ヘロンの周りには鳥族達が集まってギャーギャーグワグワケーケーと、けたたましい声を上げ続けていた。
一番聞き取りやすいヘロンが答える声はこんな感じである。
「そう? やっぱ凄い? 俺って優秀だろぉ? そうだろそうだろ! わははは、忠臣? まあ、そうだなぁー、忠臣の中の忠臣って言えば、俺位だろうな、ぁー? わははは、わーはははっ!」
大変嬉しそうにしているのであった。
ムキッムキッ、ムキリムキリとポージングを繰り返していたナッキに対してサニーが声を掛ける。
「ねえ、ねえナッキィ! 何かトンボ達? ドラゴ達も嬉しそうだよぉ!」
「えっ? トンボ達もぉ? 嬉しいじゃないのぉ! んでもさっ、サニーってトンボの言葉が判るようになったのかい?」
まだムッキッーとやっているナッキに答えるサニー。
「うん、殆(ほとん)どは羽音しか聞こえないんだけどね、何でも『ブブブブブンっ! やはりティターブンの様だ、ブーンブン我等がお仕えするブンブン、ブブブブいいや過ぎるブンブン、かのブンブン王の様だ! ブンブンブンなら、理想ブンブンな事この上ないブンっ! ブンれしいっ! 嬉しすぐブーン!』とか繰り返しているよぉ!」
ナッキはふざけたポーズを即座に止めて、サニーに向かって言う。
「サニー、凄いじゃないの! この短時間にそこまで理解しちゃうなんてぇっ! こりゃ益々、ヘロンの存在価値が下がる、って言うか地に落ちるじゃないかぁっ! んんーん、最高だねぇ!」
酷い言い様である、しかし自業自得な部分が過分に感じざる得ない言葉だとも言えるだろう。
だってヘロンってアレだからね、アレ……
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