「ミサキ、お前にしてほしいことが決まったから言ってもいいか?」
俺がそう言うと、ミサキ(巨大な亀型モンスターの本体)はニッコリ笑った。
「うん、いいよ。なんでも言ってみて」
俺は心の中で深呼吸すると、勇気を出してミサキにそのことを告げた。
「俺の体の中がどうなっているのかを見てくれないか?」
「えっ? 何? ご主人って、そういう趣味があるの?」
「そうじゃない。まあ、あれだ。今だけ、俺の医者になって欲しいって意味だ」
「なるほど。そういう意味か」
「ああ、そうだ。やってくれるか?」
「うん、いいよ」
「ありがとう、ミサキ」
「どういたしまして。それで? どうして僕に体を診《み》てほしいんだい?」
「あー、それはな、最近『エメラルド』の力を手に入れたから、それがどんなものなのかを確かめておきたくてな」
「あー、そういえば、そうだったね。それで、それは体のどこにあるんだい?」
「それが分からないから、お前に頼んだのだが……」
「えっと、つまり、どういうこと?」
「ほら、さっき俺を抱きしめてた時に体温を測《はか》れただろう? だから、それを応用して……」
「ああ、そういうことか。分かった、じゃあ、ちょっと失礼するよ」
「今ので分かったのか……って、なんで俺の『おでこ』に手を当ててるんだ?」
「僕の【体内調査魔法】は相手に触《ふ》れていないと発動しないし、体のどこにあるのか分からないものを探《さが》すのは容易《ようい》じゃない。だから、脳《のう》に近い場所に手を当てるんだよ」
「なるほど。理解した」
「本当にー?」
「ああ、本当だ」
「そっか。じゃあ、早速……」
「待て。俺の背後から殺気が放たれているような気がするのだが、気のせいか?」
「……う、うん、気のせいだよ」
「おい、なぜ今、目を逸《そ》らした」
「さ、さて、始めようか」
「話を逸《そ》らすな……って、なんでお前は俺のおでこに自分のおでこをくっつけてるんだ?」
「それは、その……こ、この方が手っ取り早いからだよ。じゃあ、始めるよ」
「ああ、よろしく頼む」
ミサキ(巨大な亀型モンスターの本体)は目を閉じると、意識を集中し始めた。しかし、それはすぐに終わった。
ミサキが何かに恐怖《きょうふ》を抱《いだ》いたような顔で後ろに飛び退《の》いたからだ。
俺はミサキの怯《おび》えきった顔を見て少し驚《おどろ》きつつ、声をかけた。
「だ、大丈夫か? ミサキ」
俺が手を伸ばすと、ミサキは俺の手を振り払った。
「さ、触《さわ》るな! バケモノ!!」
俺はミサキの口からそんな言葉が出るとは思っていなかったが、その意図が理解できたため俺は再びミサキに話しかけた。
「人をバケモノ呼ばわりするなんて、意外と失礼なやつなんだな。お前は」
ミサキは我に返って。
「ち、違うよ! 今のは、その……」
「何を見たんだ?」
「……分かってるくせに」
「俺の心臓《しんぞう》を見た……そうだろ?」
「うん、そうだよ……」
「それで? お前はどう思った」
「どうって、そりゃあ、びっくりしたよ」
「だろうな。俺も知った時は驚《おどろ》いたよ」
「ご主人は平気なの? その……蛇神《じゃしん》の心臓が自分の体の中にあるのに」
※ナオトの体の中には『|夏を語らざる存在《サクソモアイェプ》』という神々も恐れる蛇神《じゃしん》の心臓がある。
「うーん、まあ、体の異常は今のところないから大丈夫だと思うぞ」
「本当に? いきなり封印が解けたりしない?」
「それは分からないけど、俺が死なない限りは大丈夫だと思うぞ」
「どうして、そんなことが分かるんだい?」
「自分の体のことだから……かな?」
「……そっか。なら、今はそういうことにしておくよ」
「そうしてもらえると助かる」
「ただし! 危険だと思ったらすぐに中断するからね!」
「ああ、分かってるよ」
「本当に分かったのか心配だけど、あまり時間をかけたくないから再開するね」
「ああ、頼む」
ミサキ(巨大な亀型モンスターの本体)は再び俺の『おでこ』に自分の『おでこ』を当てると、俺の体の中にある『エメラルド』を探し始めた。
____数十秒後。ミサキは、ゆっくりと俺から離《はな》れてから、こう言った。
「ご主人の中にある『エメラルド』は体の中を常に移動していて、動くスピードも方向もバラバラだったよ。そして石言葉どおり、ご主人の体を『安定』させようと頑張っているよ」
「……え、えーっと、それは、つまり……」
「ご主人は『エメラルド』の石言葉の力を何の代償《だいしょう》もなく、使用できているということだよ」
「そうか。じゃあ、体に異常はなかったってことだな?」
「うーん、まあ、悪いところはなかったよ。ピンピンしてた」
「そっか……ありがとな、ミサキ」
「どういたしまして。じゃあ、僕はそろそろ寝《ね》るよ」
「ん? もうそんな時間か?」
「僕は亀《かめ》だけど意外と夜更かしは苦手な方なんだよ」
「そうなのか? 衝撃《しょうげき》の事実!」
「『チ○イカ』のマネかい?」
「いや、無意識……だと思う」
「ふーん、そうなんだ。それじゃあ、おやすみ、ご主人。頑張ってね」
「ああ、頑張るよ。おやすみ、ミサキ」
ミサキが俺に背を向けかけた、その時。
「あっ、忘《わす》れるところだった」
「ん? なんだ? いったい何を忘れ……」
「……チュ」
ミサキが急に俺の『おでこ』に【キス】をした。俺が顔を真っ赤にさせながら、その場で固まっているとミサキは満足げな顔をしながら、こう言った。
「ご主人は本当に……かわいいね♡」
「……!?」
「じゃあねー」
ミサキは、そう言うとモンスターチルドレンではない存在たちと共にミサキの中(巨大な亀型モンスターの外装の中)に戻っていった。(瞬間移動した)
※このアパートはその外装の甲羅(こうら)の中心部と合体している。だから、移動はとても楽なのである。
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