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さてと、俺は俺のすべきことをするとしようか。そう思った直後。


「よう、マスター。やっと私の番みたいだな」


背後から声がした。俺がそちらを向くと、そこにはゾンビ型モンスターチルドレン|製造番号《ナンバー》 一の『カオリ』が立っていた。


「あ、ああ、そうだ。次はお前の番だぞ……って、目の色が変わってないな」


「ん? ああ、そうだな。あたしは、ここに来る前はこの世界をぶらぶらしてたから、その影響《えいきょう》かもしれねえな」


「そっか。なら、何もしなくてもだいじょう……」


「おい、マスター。あたしがこのまま何も頼まないとでも思ってたのか?」


「え、えーっと、それは、つまり」


「あ、あたしもマスターに何かしてほしいな……なんて」


いつも不良っぽい口調で話してくるカオリ(ゾンビ)が頬《ほお》を真っ赤にした状態で、こちらをちらちらと見てくる。

やっぱりカオリも女の子なんだなと思った瞬間《しゅんかん》であった。


「それで? カオリは俺に何をしてほしいんだ?」


「え? あー、えーっと、そうだな……」


「何にするのか迷っているのなら、待つぞ?」


「い、いや! そんなことはない! あっ、そうだ。なあ、マスター。あたしと戦ってくれないか?」


「戦う? 俺と?」


「ああ、そうだ! 今のままじゃ、あたしはこの先足手まといになるから……」


「そうか? 今のままでも、かなり強いと思うが……」


「いや、あたしはもっともっと強くならないといけないんだ!!」


「それは、お前が『憤怒《ふんぬ》の姫君』だからか?」


「それもある……けど」


「けど?」


「あたしは、マスターにふさわしい存在になりたいんだ……」


「……そうか。うーん、まあ、お前がそこまで言うのなら」


「いいのか!」


「うおっ! お、おい、いきなり顔を近づけるなよ」


「あっ! す、すまねえ、つい」


「いや、今のは別にお前は悪くない。俺がびっくりしただけだから。えーっと、それで? 俺は何をすればいいんだ?」


「え? あー、そうだな。じゃあ、とりあえず外に出ようぜ」


「そうか。よし、分かった」


彼がそう言うと、二人は外に出た。


「それで? 俺は何をすればいいんだ?」


俺たちが向かい合って立っている草原からは気持ちの良い夜風と月明かりによって普段《ふだん》とはまた違った風情《ふぜい》を感じられた。


「マスターは、鎖《くさり》を全部出して、あたしの攻撃《こうげき》を防《ふせ》いでくれ!」


「え? それだけでいいのか?」


「マスターのその力は、大罪の力を封印できちまう、いわば、あたしを含《ふく》む『大罪の力を持つ者《もの》』にとっての天敵だ。そんなマスターが相手なら、あたしも進化できるってもんだぜ!」


「そうか。なら、いいのだが」


「よし、決まりだな! それじゃあ、行くぜ! マスター!」


「えっ? もうやるのか? 準備運動とかは……」


「いらねえ!」


「勝敗の基準は?」


「どちらかが疲《つか》れ果てるまでだ!」


「俺は動いてもいいのか?」


「ああ! いいぜ!」


「そっか。なら……やるか」


俺は、服を破《やぶ》らないように鎖《くさり》を出す場所を自分で決めてから、こう叫《さけ》んだ。


「『|大罪の力を封印する鎖《トリニティバインドチェイン》』!!」


銀色の十本の鎖《くさり》が腰《こし》の辺《あた》りから出現したかと思うと、彼の目は赤く染まり、髪《かみ》は黒から白に変化した。

少しの間、白いオーラが彼を包み込《こ》んでいたが変身が終わると同時に、ふっと消えた。

この力は魔法もスマートフォンもスキルも使えない彼の唯一《ゆいいつ》の武器であり、相棒《あいぼう》でもある。


「へ、へへ、やっぱすげえよ、ミカ……じゃなくて、マスターは」


鉄○のオ○フェンズを知ってるのか……。


「それじゃあ、行くぜ! マスター!」


「ああ、お手柔《てやわ》らかに頼む」


カオリ(ゾンビ)は両拳《りょうけん》を地面に叩《たた》きつけると、こう叫《さけ》んだ。


「固有武装『|火山の力を司りし手甲《ボルケーノ・ナックル》』!!」


その後、カオリの両肘《りょうひじ》の手前までマグマのようなものが這《は》い上がってきた。

彼女は何かを持って戦うより、自分の拳《こぶし》で戦う方がしっくりくるらしいので固有武装は『手甲《てっこう》』なのである。


「さあてと、やるか! マスター!」


「全力でかかってこい。ただし、無茶はするなよ?」


「へへ、忠告、ありがと……よ!」


カオリは、ありがと……を言う時、大地を踏《ふ》みしめ、よ! で走り出した。


「えーっと……鎖《くさり》よ! 目前《もくぜん》の敵《てき》の攻撃を防げ!」


「防げるもんなら、防いでみやがれええええええええ!!」


カオリの一撃《いちげき》が俺に直撃《ちょくげき》する寸前《すんぜん》で、一本の鎖《くさり》がカオリの攻撃《こうげき》を受け止めたかと思うと、次は二本の鎖《くさり》が彼女の脇《わき》の下と、おヘソがある部分に巻きついて、そのまま空中に放り投げた。


「くそ! まだだあああああああああああああ!!」


カオリ(ゾンビ)は、片方の手甲に魔力を集中させて、火炎弾《かえんだん》を放った。


「へえー、あんなこともできるのか。すごいな」


俺は、そう言いながら鎖《くさり》を操作《そうさ》した。


「あらよっと! ホームラーーーーーーーン!!」


俺は火炎弾《かえんだん》を十本の鎖《くさり》で縛《しば》ると、そのまま遥《はる》か彼方(かなた)に投げ飛ばした。

その直後、カオリは着地と同時にこちらに向かって全速力で走り始めた。


「これでも、くらえええええええええええええ!!」


そう言いながら、片方の拳《こぶし》に魔力を集中させている。

なるほど、先ほどの火炎弾《かえんだん》を俺に直接ぶつけるつもりだな。よおし、それなら、こっちにも考えがあるぞ。

俺は瞬時《しゅんじ》に思いついた秘策《ひさく》を試《ため》してみることにした。


「あっ! カオリ! お前の後ろに……」


「その手は通じねえぞおおおおおおお!!」


俺めがけて突進《とっしん》してくるカオリを見て気づいたことは、俺の話を最後まで聞く気がないことであった。

しかし、それでも俺は自分の秘策《ひさく》を信じ、実行し続けることにした。


「……お前の後ろに、なぜか全ての『ガ○ダム・フレーム』が集結してるぞおおおおおおお!!」


俺がそう言うと、カオリ(ゾンビ)は。


「なにい!? どこだああああああああああ!!」


急ブレーキをかけながら、自分の背後を見た。

だが、そこには何もなかった。

そして、カオリが我に帰った頃には、もう戦闘は終わっていた。


「ほい、隙《すき》あり」


「あいてっ!」


俺は鎖《くさり》を全て体の中にしまった状態(じょうたい)で、カオリの頭にチョップをした。


「くそ! あたしの負けだ! 好きにしやがれ!」


「どうしてそうなるんだよ。まったく、お前ってやつは」


「な、なんだよ! あたしは負けたんだから、何か命令しろよ!」


「誰《だれ》から教わったんだよ、そんなこと……まあ、いいか。じゃあ、ちょっと失礼してっと」


俺はカオリ(ゾンビ)を『お姫様抱っこ』した。


「な……! マ、マスター! 恥ずかしいから、やめてくれよ!」


「何言ってんだ、お前と初めて会った時にもやったんだから、もう慣《な》れただろ?」


「あ、あの時とは状況《じょうきょう》が違うだろ! それに……」


「それに?」


「大好きな人にこんなことされたら、ダメになっちまうだろうが……」


「……え、えーっと、それじゃあ、帰るか」


話を晒《そら》しやがった……。


「おい、待てよ、マスター。上までどうやって上がる気だ?」


「え? あー、それなら、大丈夫だ。チエミの加護があるからな」


※チエミとは体長十五センチほどの妖精のことである。


「え? じゃあ、なんでさっきは、あたしに……」


「そりゃあ、カオリにそうしてもらいたかったからだよ。イヤだったか?」


「そ、そうかよ。まあ、そういうことにしといてやるよ」


マスターがあたしを頼ってくれた! やっほーい!


「よし、それじゃあ、帰るか」


「ああ、よろしく頼むぜ! マスター!」


「おう、任(まか)せとけ」


こうして、アパートに戻《もど》った俺たちは、それぞれの役目(俺は残りのモンスターチルドレンの相手をすること、カオリは寝《ね》ること)を果たすことにした。

ダンボール箱の中に入っていた〇〇とその同類たちと共に異世界を旅することになった件 〜ダン件〜

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