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結局アヴェルド殿下は、助からなかった。
ネメルナ嬢は、急所をついていたようだ。衝動的な犯行であるようにも思えるが、その辺りの冷静さなどが少々妙ではある。
「とりあえず話は聞いているが、ネメルナ嬢は何も答えはしない。黙秘を貫いている」
「黙秘ですか……」
「喋るとは思えないな。まあ、どの道極刑にはなる訳だが……」
アヴェルド殿下を殺害したことによって、ネメルナ嬢にはまず極刑が下されることになる。
それは、まず覆らない事柄だ。いくらアヴェルド殿下に非があったとしても。
そもそもの話、ネメルナ嬢の現在の立場はとても悪い。父親であるオーバル子爵も、三人もの人間を殺害しているからだ。
「オーバル子爵の方も極刑になるのでしょうか?」
「ああ、それも覆りはしないだろうな。これに関しては、ネメルナ嬢以上にそうだといえる。何せ、三人も殺している。メルーナ嬢のことを考えると、未遂もある。あなたがラフェシア嬢に掛け合ってなかったら、彼女もまず間違いなく暗殺されていただろう」
イルドラ殿下の言葉に、私は息を呑んだ。
メルーナ嬢がもしも被害を受けていたらと思うと、心が苦しくなってくる。
彼女の方がどう思っているかはわからないが、私の方は既に友人だと思っている。友人を救えたことは、喜ぶべきことだろう。
「まあ何はともあれ、今回の事件に関わる者達には全員裁きを下せそうだ。兄上にも天誅が下ったということだろう。今まで好き勝手してきたツケを払ったともいえる」
「やはりネメルナ嬢も、薄々勘付いていたのでしょうか?」
「本人が口を開いてくれない以上、それがわかることもないのかもしれないな。まあどの道、兄上がひどいことをしていたことは事実だ。その点に関して、俺はネメルナ嬢に同情している。もちろん、浮気は許されることではないが……」
ネメルナ嬢は、色々な意味で愚かだったといえる。
ただ彼女の一番の間違いは、アヴェルド殿下に惚れてしまったことだろう。
彼など入れ込んでいなければ、もっと違う結果があったはずだ。大体、アヴェルド殿下のどこに魅力があったのか、今となっては疑問である。彼女は、浮気しているという自覚もあった訳ではあるし。
「結局の所、本心からアヴェルド殿下を慕っていたのは彼女だけだったのですね……」
「……言われてみれば、そういうことになるか」
「そんな人は滅多にいない訳ですから、きちんと受け止めてあげれば良かったと思うのですが」
「まあ、それができないから兄上は兄上だったのだろうさ」
私の言葉に、イルドラ殿下は苦笑いを浮かべていた。
アヴェルド殿下は、本当にどうしようもない人だったといえるだろう。
馬鹿は死ななきゃ治らないなんて言われることもあるが、彼の場合はどうなのだろうか。あの世では少しくらい、まともになってくれていると良いのだが。
◇◇◇
「王家には、誇りというものがあります。人の上に立つ。それは簡単なことではありません。他の人には許されていない特権階級、それが王族です。その地位に就いているからには、その地位に対する振る舞いが求められます」
部屋の窓際に座る女性は、ゆっくりとそう呟いていた。
その言葉には、心なしか元気がない。それは当然だ。彼女は息子を失ったのだから。
「つまり、アヴェルドは愚かなことをしてその報いを受けた。それだけのことです。とはいえ、私はあれの母親、人並みに悲しんではいます」
私の目の前にいるのは、この国の王妃様だ。アヴェルド殿下やイルドラ殿下の母親である彼女とは、何度か話したことはある。
とても凛々しく、真の通った女性。それが私が王妃様に抱いていた印象だ。王妃として、このような人になりたい。私もかつては、そう思っていた。
そんな王妃様の凛々しさというものは、今でもそれ程変わってはいない。
息子を失ったにしては、冷静過ぎる程に落ち着いている。そういった所も、流石は王妃だということだろうか。
「しかしながら、別にあなたに対して恨みを抱いてはいません。これに関しては、ネメルナ嬢に対しても、でしょうか。私はあなたに謝らなければなりませんね」
「いえ、謝罪など私は求めていません。今回の件について、王妃様に非があるという訳でもないのですから」
「私の育て方が悪かったとも考えられます」
「お言葉ですが、あれは個人の問題であると思います。イルドラ殿下や他の弟君が、アヴェルド殿下のようにひねくれていないのですから」
私は、王妃様からの謝罪の言葉を受け取るつもりはなかった。
そんなことをされても、私は嬉しくはない。私が今回の件で謝罪して欲しいとしたら、アヴェルド殿下本人ということになるだろう。
その本人はもういない訳ではあるが、だからといって代わりに謝られたくもない。それははっきりと言って、意味がないことだ。
「リルティア嬢、あなたは凛としていますね」
「え?」
「あなたなら良き王妃になると、思っていたのです。その考えは、今でも変わっていません。私の後任……という言い方は不適切かもしれませんが、そうなってもらいたいものです」
「それは……」
王妃様の言葉に、私は少し面食らっていた。
私の時期王妃への道は、既に途絶えているはずだ。それを持ち出されて、私は少し固まってしまう。
「これから夫から話があると思います。どうか、よろしくお願いします」
「話……?」
私は思わず、首を傾げていた。
王妃様は一体、何を言っているのだろうか。私にはそれがわからなかった。
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