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私は、玉座の間に来ていた。
そこには、王族の面々が並んでいる。イルドラ殿下、ウォーラン殿下、エルヴァン殿下、それから第五王子のオルテッド殿下、王子が揃い踏みだ。
当然のことながら、玉座には国王様がいる。彼は私のことを、その鋭い目で見つめてきた。
「リルティア嬢、良き来てくれた。私は君に伝えたいことがある」
「伝えたいこと、ですか?」
「今回の件は、我らが王族の失態としか言いようがない。まずは、それについて謝罪するとしよう。君及びエリトン侯爵家には、迷惑をかけた」
「いえ、お気になさらないでください」
国王様の謝罪も、私にとっては求めていないことであった。
王妃様もそうだが、お二人とも随分とも真面目である。そういった所は、イルドラ殿下達と似ているといえるかもしれない。
例外だったのは、アヴェルド殿下だ。この二人から、あの不真面目の塊が生まれたことが信じられないくらいである。
「今回の件において、君は大いに活躍したようだな。メリーナ嬢から聞いたが、彼女を救ったのも君だと聞いている」
「……救ったというのは、大袈裟な話です。彼女を助けられたのは、偶然でしかありません」
「偶然であったとしても、君が人を助けたことは事実だ。それにそもそも、良い方向に導ける偶然を君が手にしていたというなら、それは君の才能だろう。それは素晴らしいことだ」
国王様は、私のことを高く評価してくれていた。
それ自体は、嬉しく思う。ただ私は、話の雲行きが少し怪しいことを感じていた。
よく考えてみると、周りの王子達の態度も妙だ。皆、少し暗いというか、何かを考えているといった感じだ。
「我が妻も、君には王妃としての資質を感じているようだ。そこで私は、君のことを次期王妃としたいと思っている」
「じ、次期王妃、ですか?」
国王様の言葉に、私は驚くことになった。
同時に私は、王妃様の態度の意図を理解した。彼女はきっと、事前にこのことを聞いていたのだろう。
それに、王子達の態度も理解することができる。次期王妃が私ということは、次期国王も既に決まっている可能性が高い。それが誰であるかは、大いに気になっていることだろう。
「まあ、驚くのも無理はないことか。しかしリルティア嬢、話は君がただ王妃として決まったという訳ではないのだ。君にはもっと大きな役割を担ってもらいたい」
「え? それは一体、どういうことですか?」
「君には、次期国王を決めてもらいたいのだ」
「……は?」
そこで私は、思わず間の抜けた言葉を発してしまった。
国王様は、一体何を言っているのだろうか。その理解が追いつかず、私はぽかんとするのだった。
「……父上、何を言い出すかと思えば」
国王様の言葉に固まっていた私は、イルドラ殿下の声に少しだけ冷静に考える力を取り戻していた。
しかし冷静に考えても、訳がわからないことだった。私が次期国王を決めるなんて、一体どういうことなのだろうか。正直、まったく理解することができない。
イルドラ殿下も、きっとそれは同じなのだろう。彼は鋭い視線を国王様に向けている。
「リルティア嬢に次期国王を決めさせるなんて、正気ですか?」
「もちろんだ」
「それを決めるべきは、父上の役割なのではありませんか? それを放棄しようというのですか?」
イルドラ殿下は、どちらかというと父親の責務について怒っているようだった。
確かに、王妃様もそのような旨の言葉を述べていた。人の上に立つ者には責任が必要だと。
私としては、自分が選ばれたことが重要なのだが、確かにそちらも考えるべきことかもしれない。国王様は、一体どうしてしまったのだろうか。
「イルドラ、確かにそれは現国王である私の役目ではあった。しかしだ、私はそれに関して一度失敗している」
「失敗……兄上のことですか?」
「ああ、私の目は節穴だったとしか言いようがない。アヴェルドを次期国王にしていたら、この国は大いに混乱することになっていただろう。それは私の大きな過ちだ」
国王様は、ゆっくりと言葉を発していた。その口調からは、後悔が読み取れる。
アヴェルド殿下のことを、かなり気にしているようだ。それは確かに良い選択だったとは言い難い。ただ仕方ない面もある。アヴェルド殿下は、結構巧妙に事実を隠していた訳だし。
「私は最早、自身の目を信用することができない。そもそもの話、私は父親だ。息子達のことを考える際に、どうしても贔屓目が入る。それは恐らく、良くないことだろう」
「だからといって、リルティア嬢に任せるなんて……」
「リルティア嬢のことは、信用できると思っている。イルドラ、それはお前も同じではないのか?」
「それは……」
国王様の言葉に、イルドラ殿下は言葉を詰まらせていた。
彼から信頼してもらえているという事実は素直に嬉しい。ただ、ここで納得されると私としては少し困ってしまう。
「彼女ならば、真に王として相応しい者を見極めてくれるはずだ。私はリルティア嬢に判断を委ねたい。次期王妃として、彼女には自らの伴侶を決めてもらいたいのだ」
国王様は、私の目を真っ直ぐに見つめてきた。
その瞳からは、真摯さが読み取れる。本当に心から、私に頼んでいるのだろう。
それに私は、再度固まってしまう。この身に余る要請に、私は大いに混乱するのだった。
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