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昔むかし、あるところにアリがおりました。アリはとても働き者です。朝から晩まで休むことなく、真面目に真面目に働きます。巣にはたくさんのアリがおりました。彼らは1匹も休むことなく、ただただ一生懸命に働きます。食べ物を探して西へ東へ歩き回り、自分の体より大きなものでも頑張って運びます。
「やぁ、アリ君。きれいな羽根だね。部屋に飾るのかい?」
「いえ、これは食べ物です」
「あぁ、そうか。これは失礼」
こんな具合で、唯一の欠点は冗談がいまいち伝わらないことでした。アリは目標をかかげて真っ直ぐに働きます。真っ直ぐ過ぎてつまらないなどと言われてもアリには意味がよく分かりません。よく分からないから怒ることもなく働くのです。彼らの幸せは食べ物があって、温かくて、巣にいるみんながつらい思いをせずに過ごすことでした。だから、この日も、どこからか流れてくる音楽が耳に入りましたが、アリにとっては風が草を揺らす音と大して変わりませんでした。そもそも興味が無いのです。まして、きれいだとか、悲しいだとか、そんな感想を抱くこともありませんでした。ただ、キリギリスがバイオリンを弾きながら歌っているという事実だけがそこにありました。ただ、一言。キリギリスを見て妙に心配になったアリは、ただ一言だけ、言葉をかけることにしたのです。
「キリギリスさん、そんなふうに歌ってばかりでは冬になって困りますよ。食べ物を探した方がいいですよ」
なぜそんなことを言ったのか、そもそもなぜ心配になったのか、アリにはとんと分かりません。キリギリスは歌うのをやめると、まぶしそうに陽射しに目を細めてから言いました。
「食べ物なんてそこら中にあるのに、君たちはその場では食べずに集めるばかり。なんでそんなに溜めこもうとするんだい。少しは休みたいと思わないのかい。美しい景色を見たり、音楽を奏でたりしようとは思わないのかい」
アリは少し考えてから答えます。
「僕らの巣には外に出れない子どもたちやそれをお世話する仲間がいます。みんなのために僕らは食べ物を持ち帰らないといけません。それに寒い寒い冬が来たら食べ物が少なくなります」
「そうなんだ、すごいね」
キリギリスはそう言ったきり黙り込んでまた歌い始めました。アリは軽く頭を下げるとまた歩き始めます。後ろからはキリギリスの歌が聞こえます。アリはその声に、少しだけ胸のもやもやを感じたのでした。