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「蘇枋さん!!」
…?
振り向くとそこには、楡井くんが立っていた。
「楡井くん。どうしたの?」
と尋ねると
「やっぱり、蘇枋さんには言っておかないとい
けないことがあるんです。」
「言っておかないといけないこと?」
正直今はすぐに帰りたいが、無視をするわけに
はいかない。
「桜さんの話桐生さんから聞きましたよね?」
「あぁ…うん。聞いたよ。」
「蘇枋さんが目を覚ました少しあとに桜さんが
1度目を覚ましたんです。その時に言っていた
んです。」
「おい、オレに、もしもの事があったら…」
「桜さん!大丈夫ですから!絶対、助かります
から…」
「にれちゃん。」
「っ……」
「オレが死んだら、絶対、蘇枋にだけは言わな
いでくれ。」
「はい?どういう、ことですか?」
「あいつ、記憶ねぇんだろ。話してるの…聞
いた、だから…俺のことは何も話さないでく
れ。」
「っでも!」
「わかったよ。」
「桐生さんっ?!」
「オレたちは桜ちゃんの意思を尊重するよ。」
「あ…りがとな。」
泣いている。本当に辛そうな顔をして。
「今までのこと、桜さんとの事、何も、覚えて
ないなんて……」
22になってまでこんなに泣きじゃくってい
る。相当大事な人なんだろう。
「桜さんと蘇枋さん、恋人同士だったんです
よ。2人とも凄く楽しそうに、し、幸せ、そう
に…過ごしてました…。」
僕が同性と付き合っていたなんて…なら、も
しかしたら……!
「楡井くん。その人、どんな人だった?」
「さっ桜さんは、優しい人でしたよ。学校や街
のみんなのために体を張って、本当に頼れる人
でした。」
そんな人と僕が、
「素敵な人だったんだね。写真となはない
の?」
楡井くんはポケットからノートを出し、その中
から一枚の写真を取り出した。
「この、人です。」
その写真の真ん中に写っている顔を真っ赤に染
めた彼は、夢で見た彼に似ていた。いや、多分
本人だ。
恋人…。そうか。僕は記憶喪失になっても彼の
ことを忘れられずにいたんだ。
「ッ…」
言葉が出てこない。思い出したいのに、思い出
せない、大切なことなのに。大切な人なのに。
気が付けば雨が降っていた。
「蘇枋、さん…?」
俯いたままで返事ができない。何も覚えていな
いはずなのに、苦しい。
涙が溢れ出して止まらない。
「大丈夫ですか…?」
「ごめん…。」
「記憶、戻ったわけではないんですよ
ね…?」
「うん…ごめん…何も思い出せない…。」
なんでだろう。辛い思いをするくらいなら、思
い出したくない。でも、それでも、
「楡井くん、僕どうしたらいい…?」
一瞬楡井くんが驚いたような顔をした。
「蘇枋さんっ…。」
「ごめんね…わかるわけないよね…笑」
笑って誤魔化した、つもり。でも多分今は笑え
てないと思う。
「大丈夫ですっ!っ…でも…オレも、何度か
調べたことはあったんですけど…蘇枋さんの
場合、十分な治療法が確立していないんです
よ……」
「そうなんだ。まぁ、簡単に治るようなもので
はないんだろうなとは思ってたから。ありがと
うね。」
その日はずぶ濡れになりながらもすぐに家に
帰った