コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
今回は第2話の「王になる日」です。
「まさか俺が、、、王になるなんてな。」
神谷蓮は、自分を囲む民衆の歓声をぼんやりと聞きながら、その現実に戸惑いを隠せなかった。異世界に転生してから数年。彼は冒険者として成長を遂げ、多くの仲間と共に国を脅かす強大な敵を倒すという偉業を成し遂げた。その功績から、民衆の支持を受け、王座に就くこととなったのだ。
「これが異世界転生の“成功”ってやつなのか?」蓮は玉座に腰を下ろし、豪華な王冠を手に取りながら呟いた。しかし、その心中には晴れやかな満足感よりも、どこか不安定な違和感が漂っていた。
蓮が異世界に転生して以来、彼は自分の成長を通して徐々に周囲から認められていった。剣の扱いは未熟だったが、セラの助言や冒険の中で出会った経験豊富な戦士たちの指導を受け、抜群の身体能力と頭脳で次第に戦術を習得していった。
とくに、大陸を襲う“闇の軍勢”との戦いでは、蓮のリーダーシップが発揮された。戦場では、仲間を守るために命を賭して戦い、多くの危機を乗り越えた。セラの癒しの力と蓮の指揮によって、多くの兵士が命を救われ、彼の名声は一気に高まった。
そんな彼の姿を見た王国の指導者たちは、蓮こそ次代の国王にふさわしいと判断し、民衆もまたそれに賛同した。結果として、蓮は異世界での頂点に立つ存在となった。
だが、王としての生活は彼の想像以上に窮屈で厳しいものだった。冒険者として自由に動き回ることに慣れていた蓮にとって、王宮での書類仕事や、貴族たちとの複雑な駆け引きは苦痛以外の何物でもなかった。特に、王としての判断が民衆の生活に大きな影響を及ぼすことへのプレッシャーは計り知れないものがあった。
「蓮様、次の議題についての意見をお聞かせください。」 侍従長が差し出す膨大な資料を前に、蓮は深いため息をついた。「これが、俺が望んだ人生の結果なのか……?」
そんな中、彼は次第に自分が“自由”を失っている感覚に囚われ始めた。異世界に来たばかりの頃は、未知の冒険に心を躍らせ、成長を楽しんでいた。しかし、今の生活はそれとは正反対だった。責任に押しつぶされ、過去の夢や目標がどんどん遠ざかっていく。
ある夜、蓮は王宮の庭園で一人物思いに耽っていた。月明かりの下、花々が静かに揺れる中で、彼の頭には幼少期の父との記憶がぼんやりと浮かんでいた。科学キットで実験をした父との幸せな一瞬――そして、家を出ていく父の背中。「俺は、父のようにはなりたくない」と、蓮は思った。
「随分と重い顔をしているな。」 突然聞こえた声に振り返ると、そこには剣士グレイが立っていた。彼とは数年前の冒険で別れたきりだったが、まるで何事もなかったかのように現れた。
「グレイ……久しぶりだな。どうしてここに?」 「お前が王になったと聞いてな。見に来たんだよ。」
グレイは意味深な笑みを浮かべながら続けた。「だが、お前が追い求めていたのは本当に“王”という地位だったのか?それとも、もっと別のものだったのか?」
その言葉に、蓮ははっとした。自分が本当に望んでいたものは何だったのか。この世界で自由に生きること?仲間と共に冒険を続けること?あるいは、過去の自分や父との関係を埋めること――?
「この世界は、ただの舞台だ。」 グレイの謎めいた言葉を聞いた蓮は、その真意を問い詰める前に彼が去ってしまうのを見送るしかなかった。
グレイとの再会以降、蓮はさらなる違和感に苛まれ始めた。夢の中で何度も繰り返される景色、覚えのある出来事や会話。それらが現実と夢の境界を曖昧にし、彼の心を蝕んでいく。
「俺は……本当にこの世界に属しているのか?」
異世界での成功と王としての責務が交錯する中、蓮の心の中で次第に湧き上がる疑念。それはやがて彼を更なる試練へと導いていく。