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かめちょん
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かめちょん
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#短編集
🙂
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ヘリオトロープ⑬
若井side
俺たちは会社までを少しだけ遠回りして、小さな看板に、鉄板ナポリタンって文字を見つけて、その看板にそそられて少しレトロな喫茶店に入った。
入ってみれば、ナポリタンはプラス100円で大盛りになるし、食後の珈琲もプラス200円で付く
藤澤さんは大盛りにして、これ本当に大盛りか?特盛だろってくらいのありえない量のナポリタンに目を輝かせながらペロリと食べていた
藤澤「あー、美味しかったぁ〜」
若井「藤澤さん……めっちゃ食べるんですね」
藤澤「あはっ、それよく言われるんだよぉ、食べるの好きすぎて昔より10kgも太ったから量を調節しなきゃいけないんだけどね」
昔より10kgって……今でも太ってないのに……昔はどんだけガリガリだったんだよ……
若井「なんか色々と……意外です」
藤澤「元貴と出会った頃なんて僕、苦学生だったからあんまりご飯たべれなくてガリガリでさ、元貴にガイコツ!って言われてたからねぇ」
そうだ……この人は……
元貴の昔を知ってるんだ
若井「……む……昔から元貴は……辛辣だったんですね」
今の俺にはそう返すので精一杯だった
昔の元貴を知っているのは羨ましい
でもそれを今更どうこう言っても過去になんて戻ることなんて出来やしない
今俺の知る元貴のことでしか返す言葉はなかった
藤澤「それで……若井はさ……元貴とどうしたいの?」
若井「え、なんですか……突然」
藤澤さんはソーサーの中の珈琲を見つめたまま、俺に質問を投げかけてきた
藤澤「そのままの意味だよ。元貴と付き合いたいとか思ってんの?」
そんなの思ってるに決まってる
でも藤澤さんは俺の答えを待たずに言い返しようのない言葉をぶつけてきた。
若井「思ってま」
藤澤「悪いけど無理じゃない?……だってさっきの話みたいに俺はさ、元貴のことを若井よりたくさん知ってる。何が好きで何が嫌いか。どんなことに興味があって、何色が好きかとか……俺の方が元貴のこと知ってるんだよ。君はどう?…………若井は元貴の何を知ってるの?」
若井「……」
俺は……元貴のことを何も知らない
正直、色々と知っている藤澤さんが羨ましくてたまらない
藤澤「病気のことも知らなかったもんね……昨日みたいに自分で吸引出来なくなった時はそれを知ってる人に頼るしかないのに……君はそれを知らなかった……元貴にとって若井はどんな存在なんだろうね……必要……なのかなぁ?それなのに若井は元貴を求めるの?…………俺の言ってる意味……わかるよね?」
元貴にとっての俺の存在意義
何も知らない、何も教えてもらってない
それを考えると俺は元貴にとって必要じゃない存在かもしれない……
でも
若井「それを決めるのは元貴であって、俺や藤澤さんじゃ、ない」
必要か必要じゃない、なんて俺にはわからない
だって俺は元貴じゃない
その答えは元貴しか知らない
若井「今言えるのは…………元貴がどう思ってるか分かんないけど、俺には元貴が必要ってことと、元貴にも俺が必要だと思ってもらえるようにすればいいだけ」
珈琲を見つめていた藤澤さんがこっちに目線を向けた
いつものニコニコ顔じゃなく、いつになく真剣な眼差しで
藤澤「中途半端な覚悟で元貴を振り回すなよ」
若井「……中途半端なんかじゃない。それに中途半端かどうかなんて、それも藤澤さん関係ないし、俺はそんなつもりじゃ」
藤澤「俺から見たら覚悟も責任も取れないくせに中途半端なんだよ。ただ元貴が好きって気持ちで元貴の傍に居るだけじゃあ、無理なんだよ、普通の恋愛じゃないんだ、君はそれをわかっていない」
若井「………………藤澤さんから見たら、俺は中途半端かもしれません……確かに元貴を好きって気持ちだけで……好きな物も何も知らない」
藤澤「わかってるなら諦めなよ、君は普通の恋愛が出来るんでしょ?わざわざこっちに来る必要はない」
普通の恋愛、か……
若井「藤澤さん、普通の恋愛って……なんですか?」
藤澤「……それは……男女が恋をして……」
若井「俺も元貴に恋してます」
藤澤「だからそれは」
若井「何が違うのか俺にはわかりません」
藤澤「……こっちの世界はさ、ノンケの君が簡単に踏み入れる場所じゃないんだよ。いくら多様性の時代になったって言っても、世間はそんなに甘くないんだ………君の知ってる恋愛とは違うんだよ……街中で手を繋ぐことも出来ない……そんなことしたら好奇な目しか見られないんだよ」
若井「……」
藤澤「街中で手を繋ぐ、抱き締める……たまたま寄ったカフェでふたりが愛し合ってる言葉も周りを気をつけなきゃいけない……若井の知ってる男女の恋人が出来ることは何一つ出来ないんだよ……自分たちだけが世界に居るわけじゃない、必要以上に周りに気を使う努力も必要になるんだよ……それなのに君は馬鹿の一つ覚えのように元貴元貴元貴って……」
俺の知らない世界……
ただ、全く考えていなかった訳じゃない
藤澤さんの言う通り外では男友達を装って生活をしなければならない
若井「俺だって多少は分かってます、でも」
藤澤「『でも』も『だって』もいらないんだ。俺はそう言う言葉が出てくることが覚悟も責任も足りないって言ってるんだよ」
若井「…………じゃあ……藤澤さんなら出来るって言いたいんですか?」
藤澤「……そうだね、今の俺なら元貴を幸せに出来る」
今?
藤澤さんは今って言った……
若井「あの、藤澤さん……今って」
ピリリリリ(携帯の着信音)
俺が藤澤さんに聞こうとした時、藤澤さんの携帯が鳴った
藤澤「失礼……はい、藤澤です、……はい、今、若井くんと昼食を食べ終わったところです……はい……はい……これから戻ります……失礼します」
ピッ
藤澤「時間切れだね、戻ろっか」
若井「いや、待ってっ、まだ話がっ」
藤澤さんとの会話は会社からの帰還命令によって強制終了させられた
会社までの道のりは、もうこれ以上話す気はないってオーラを放つ藤澤さんに何も声をかけれずだった
喫茶店での会話で、藤澤さんが俺に言いたいことはわかってる
覚悟や責任
それが今の俺には足りたい
でも、何より気になったのが
藤澤「……い、……わ……い、……若井ってばっ」
若井「えっ、はいっ」
藤澤「んもうっ、何度も呼んでるのにぃ」
若井「す、すみません……考え事……してました」
藤澤「……ふふ、色々言っちゃったけど……決めるのは若井だから」
そう
何より今は
俺が覚悟と責任をもって元貴と向き合うこと
若井「……はい……」
藤澤「じゃ、僕はこっちだから」
若井「え、藤澤さんうちの会社に戻らないんですか?」
藤澤「さっき僕の会社の方から電話があって、トラブルで戻るんだ……僕が電話してたのさえ気がつかないだなんて相当考えこんでたんだねぇ。笑」
若井「……すみません」
藤澤「そっちの係長にはまた後で連絡するけど、一応若井からも伝えといて」
若井「わかりました」
藤澤「じゃ、またねぇ」
若井「あ、あのっ」
藤澤「なにぃ?」
若井「あ、ありがとうございました」
藤澤「 」
最後に何か言いかけたけど、いつものようにニコッと笑い、後ろ手に、手をヒラヒラさせながら藤澤さんは行ってしまった
・
・
・
若井「課長、戻りました」
課長「おー、若井くーん、お疲れさま……あれ?藤澤くんは?」
若井「なんか自社の方でトラブルがあったみたいでそちらに行きました。また課長の方にはまた連絡するって言ってました」
課長「そっか、そっか、彼はやっぱ優秀なんだね……じゃあ今日の下見の件はチームのみんなに報告よろしくね」
若井「はい…………あの、主任いないみたいなんですけど……」
課長「あぁ、大森くんね。なんか部長に呼ばれて行ったんだよね……ってなんかずっと戻ってこないけど、トラブルか何かかな……」
若井「……そうなんですか……わかりました」
部長に呼ばれるなんて……元貴に何かあったのだろうかと思いながら、自分のデスクに戻るとパソコンに付箋が貼られていた。
『↓やれるところまでやっといて。中身見ればお前なら多分できるから』
付箋にはそう書かれていて、矢印の先にUSBメモリーが置かれていた。
俺が帰って来た時に元貴が居ないことを見越して何をするかの指示を元貴は出していてくれた。
元貴が部長との話が長くなることを予測していたなら、きっと大事な話なんだろうと思いながらUSBをパソコンに挿し、中身を確認する。
若井「……まじか」
元貴は俺を買いかぶりすぎだ
元貴が振ってきた仕事は、花江さんや武智さんがやっても良いレベルの仕事内容だった。
若井「やれるところまでねぇ……がんばりますかっ」
元貴に任された仕事をこなす為に俺はキーボードを叩いた
コメント
4件
覚悟を試す 若井さんに大森さんを任せて大丈夫なのか 値踏みはしますよね 大森さんが大切なんだなぁ…と と、同時に過去の自分への戒め 過去の大森さんへの贖罪 色々なものが垣間見えます くぅ〜〜…………(´Д⊂ヽ 若井さん頼むよぉっ!
このエピソード、すごく心に響きました……。藤澤さんの「普通の恋愛じゃない」という言葉と、それに対して若井くんが「俺も元貴に恋してます」と返す場面、胸がぎゅっとなりました。自分の気持ちは確かなのに、周りの目や現実の壁を突きつけられる苦しさが伝わってきて……。でも最後に「覚悟と責任をもって元貴と向き合う」と決意する若井くんが、とても強く見えました。元貴が仕事を任せてくれているところも、信頼の証でじんわりしました。続きが本当に気になります🌷