俺はカンゾー (ダンジョン) に指示を出し、神社の真下に地下秘密基地を建設していた。
まず、転移スペースを持つ玄関口から幅2.5m・高さ3mの廊下を一本真っすぐに通す。
その廊下の左側を各個人の部屋に、右側をリビングや食堂といった供用スペースに仕上げていこうとおもう。
個人部屋の広さは六畳ほど、シャワー・トイレ・クローゼット付で、とりあえず10室で作るようにした。
部屋の内装を仕上げた後は、入口に木製の扉をつけて、ベッド・机・椅子などといった家具類を大まかに作っていく。
この基地づくりは向う (クルーガー王国) のダンジョンでも度々やってきている。
”ダンジョンが理解しやすいイメージ” というのがどのようものか分かっているので、スムーズに作業を進めることができた。
あとは……、
閉鎖空間だと気が滅入りそうなので、ダミーの窓を壁に2ヶ所ほど設置することにした。
一方は上の境内を映しだし、もう一方は石階段から望む景色を映すようにする。
勿論、リアルタイムの映像である。
希望によって、映し出す方向や場所を変えることも可能だ。
水と温泉は地下から汲み上げているので、お風呂は天然温泉かけ流しの大浴場にした。
厨房も大きく作ったし、食堂はみんなでパーティーもできる広さだ。
ランドリー室には乾燥機能つきの洗濯機を配置する予定にしている。
そして、みんながゆったりと寛げる広いリビングルーム。
んっ、照明 (灯り) や空調 (エアコン) ?
そういうのは全部カンゾー任せだな。
食品を置いておく保冷室や勝手に氷が出てくる冷凍ストッカーだってある。
う――――――ん、快適快適! (まだ住んでいません)
だけど、いくつか問題もある。
地下だとスマホの電波が届かないのだ。
そこで、明日以降になるがレピータ (電波増幅器) の設置を検討している。
屋外アンテナからケーブルを伸ばしレピータに接続すればどうにかいけるはずだ。
あと、家電を使うから100Vのコンセントが必要になってくる。
こちらも今のところは、上の神社から引いてくるしかないだろうね。
ああ、そうか!
テレビのアンテナもいるなぁ。パソコンを使用するならWi-Fiルーターの設置もしないと。
(向こうのクルーガー王国と違って日本はいろいろと面倒だよな~)
地下秘密基地への出入りは転送台座を介して行うことになる。
外に通じる転送台座は、母屋の勝手口 (裏口) の側に置かしてもらうことにした。
母屋の裏側なら垣根に覆われているし、目立たずに行き来することができるだろう。
ちなみに、その転移台座からはダンジョン・カンゾー各階層へ転移することも可能である。
この転移台座には認識阻害の結界を張ってあり、関係者以外は使用できなくしている。
いよいよ明日から茂 (しげる) さんのダンジョン探索とレベリングがスタートする。
茂さんはこの神社の宮司である。
いろいろと忙しいとは思うけど、これも神社の為、気合を入れて頑張ってほしい。
ダンジョン関連も数年後には整備されていき、一般人が探索者として出入りし始めるかもしれない。
そうなれば、一攫千金を夢見る者もたくさん出てくるだろう。
それとは逆に、身の程を知り諦めていく人間もいるだろう。必死にしがみつこうとする人間もいるだろう。
また、そうした者をカモにする人間も……。
ダンジョンがあるということは、そこには必ず人が集まってくる。
その集まってくる人間は善の者ばかりではないのだ。
よからぬことを考える輩も、かならず混じってくるだろう。
そんな輩の矛先が、いつ、この神社へ向けられるともしれない。
だから自衛できるだけの力は持っておく必要があるのだ。
一般人がダンジョンに入るようになったら、神社の境内には防犯カメラが必要になってくるだろう。
場合によっては『影』を常駐させてもいいけど。
まあ、その時になって考えればいいかな。
おっ、夕飯ができたようだ。
居間のテーブルには卵焼き・コロッケ・ウインナー・ナポリタンまである。
その他にもいろんな料理が並んでいく中で、最後に登場したのが、大皿に沢山並んだ ”おむすび” だった。
なるほど、お箸が使えない者もいるからね。
ご飯だけを皿に盛られても、『なんじゃ こりゃ?』ってなるよな。
それに、おむすびは手で食べられる日本のソウルフード。
みんながおむすびに手をのばして、美味しそうに食べていれば、お米を知らない者でも自然と馴染んでいくよね。
………………
夕飯をみんなで頂いたあとは、地下秘密基地の案内かたがた温泉大浴場にてひとっ風呂浴びる。
~~~ カポ――ン ~~~
入浴後は冷えたビールと扇風機が欲しいところだよなぁ。
メモして、明日には用意するとしましょう。
俺は涼むため、Tシャツにジャージ姿で表に出てきた。
シロも一緒についてきて、目の前でブルブルしている。
ふぅ――、あついあつい!
サンダル履きでペタペタと参道を歩いていると、誰かが階段に座っているのが見えた。
んっ、誰だ……?
あんな所に座っていたら、蚊の餌食にされるぞ。
変な心配をしながら近寄ってみると、茶トラ猫 (チャト) を膝に抱えたマリアベルであった。
「隣、良いか?」
背中に声を掛けながら、俺はマリアベルの隣りに腰を下ろした。
「…………」
「電話はしたのか?」
「できる訳ないでしょう。死んだ人間なんだから」
「まあ、そうだよなぁ……。兄弟とかは居ないのか?」
「居るわよ、妹が一人。えっと5年前になるから……今年17歳ね」
「その妹さんと連絡はとれないのか?」
「だからどーやってよ!」
「い、いや、フェイスブックとかのSNSは何かやってんじゃないかと思ってな」
「あ、そ、そうね。明日にでも調べてみるわ」
俺はマリアベルが撫でているチャトに目を移し、
「なんだ、お前もちゃんと小さくなれるのな」
すると、チャトは返事をするように「ウニャン」と鳴いてマリアベルのお腹に頭を擦りつけていた。
「実家は東京だったか?」
「そう、豊島区の千早。学校も歩いて行ってたわ」
「おー、千早かぁ。知ってるぞ! 東長崎駅だったか」
「え、そうよ。西武池袋線のね。でも、なんで知ってるの?」
「ああ、高校を出たあと東京の専門学校に行っててな。大学に通ってた友達がその辺のアパートに住んでたんだ」
「じゃあ、転移で連れていってよ。おねがい!」
「お、おう、連れていってやるぞ。ただ、距離があるから転移ではちょっと無理だな。満月の夜なら行けそうな気がしないでもないが……」
「……そう、無理なの……」
「まあ、その、なんだ。俺がちゃんと連れていってやるから。気を落とすな、なっ!」
「うん、ありがとう」
そう言ってマリアベルは俺の頬にそっとキスしてくれた。
そして翌朝……、いや、まだ夜中だ。
3時を少し回ったとこだな。
――朝ダンジョンである。
メンバーは俺とシロ、茂さん。そして飛び入りでキロが一緒についてきた。
なぜ、そうなったかは………… すまん察してくれ。(汗)
時間もないので、さっそくダンジョン・カンゾーの2階層へ転移した。
先頭は案内役のシロ、続いて偃月刀を両手に構えた茂さんだ。俺とキロは少し離れてついていく。
前では茂さんがへっぴり腰でスライムやコボルトに対応している。得物 (偃月刀) に振り回されるといった感じだな。
あまりに酷いようなら、軽い槍でも持たせるかな?
そんな茂さんを眺めながら、こちらはこちらで、カンゾーと打ち合わせをしながら進んでいった。
宝箱や低階層のドロップ品 についても検討していくつもりだが、最初に潜るのは自衛隊か機動隊になるだろうから、そこまで急ぐこともないかな。
………………
そろそろ7時になるか……。初日はこれぐらいにしておこう。
汗をかいた身体はシロの浄化でスッキリ爽やか。
朝食を済ませると、茂さんは神職が着る平服に着替えて、社務所へ移っていった。
廊下を歩く際、少しよろけていたが大丈夫だろうか?
レベルがあがってくれば安定するとは思うけど。
さて、遅くなったけど、散歩に行かないとシロがうるさいからね。
希望者を募ると、メアリーの手があがった。
じゃあ、今日は3人で行きますか。
メアリーにはとりあえず光学迷彩を掛けてついてきてもらった。そのうち、犬耳と尻尾だけを隠せるように頑張ってみるから、待っててほしい。
まずは、いつものように牛丼集めからだね。(ぶれません)
牛丼も12個と大漁にゲット。しかもスマホ予約なので待ち時間なし!
だけどメアリー。
一緒に店内へ入るのはいいけど、涎をたらすのは勘弁してね。周りには見えてないけど。(笑)
散歩が終わると、獣人組と軽く朝稽古。
場所はもちろん地下訓練所。
広さはバスケットボールのコート程で、照度は日中ぐらいの明るさに調整してある。
どぶんと朝風呂につかり汗を流したら、慶子 (けいこ) が来るまで母屋の居間にて待機する。
時計が10時をまわったところで、ようやく慶子が顔を出した。
まずは金の地金やネックレスといった物の換金しにまわり。
そのあとは買い物の手伝いをお願いした。
市内の移動についてはカンゾーが転移で飛ばしてくれるので、とても楽になった。
飛行場も新幹線の駅も主要な所はだいたい10キロ圏内にあるのでかなり便利だ。
地図と座標を教えるのに、けっこう骨が折れたが、大切なことなので丁寧におしえた。
こちら (日本) の場合、ちょっとでも座標にズレがあると車にひかれちゃうからね。
そうやって地金の換金を終えたあとは、電気店・家具屋・ふとん屋・ホームセンターなどをまわって生活に必要なものを買い揃えていった。
8月7日 (金曜日)
次の満月は8月28日
ダンジョン覚醒まで30日・90日
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