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むぎちゃ
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コメント
1件
うわあ…このエピソード、すごく良かったです…。江戸が突然現れて、あの1868年の回想シーンになる流れがもう切なくて。特に「まだ、生きとるわ」って江戸が言うところ、私の心臓ぎゅってなりました。名前が変わっても魂は消えないって、そういう想いをこんなに優しく描けるのあるてみすさんだからだなって思います。東京の夜景の中で二人が話すラストも、じんわり来ました…。おまけのドイツたちの会話も好きです。
注意書き(簡易)
これらの作品に政治的意図は一切ございません。創作物であることを踏まえた上、許すことのできるかのみ先へ進んでください。
不定期更新です!!!!
設定があります。説明をすることはないので自由に解釈してください。
私は史実に基づいた、完全な自己解釈による
“CountryHumans”を綴ります。貴方の心に届く物語でありますように。
真夜中、自然と目が覚めた日本は起き上がり、スマートフォンに触れた。ぽつり、とスマートフォンの画面が光る。
画面に表示された日付は、7月17日。
「……そういえば今日で、江戸から『東京』になって、もうずいぶん経つんですね。」
日本は寝室から出ていき、ベランダから外に出た。そこから見えるきらびやかな夜景と高層ビル群の放つ光はまさに地上の星だ。
にゃぽんは実家に住んでいるけど、今頃は気持ち良さそうに寝息を立てているだろう。静まり返った部屋の中で、日本は少しだけ寂しさを覚えていた。
『——なんだい、相変わらず湿気たツラしてやがんなぁ、日本。』
聞き覚えはない。けれど、胸の奥がぎゅっと締め付けられるような、粋でいなせな声。
「…………まさか、」
ハッとして振り返れば、部屋の隅、闇に溶けるようにして一人の男が立っていた。
着物をだらしなく着崩し、片手には今はもう使われていないはずのキセル。頭に笠を被り、目を隠す黒い布がたなびいている。
「あえ……江戸、さん……? なんで、ここに……」
『さあねぇ。俺にもよく分からねぇよ。』
こちらが動揺する間に、江戸はキセルをトントンと叩き、へらりと笑う。
『ほら、俺たちみたいな「昔の國」ってなぁ、思想やらなんやらでかろうじて形を保ってるだろ? 正直、お前さんは200年もあったはずの俺ん時の記憶なんて今じゃ憶えきれていないだろぉ?』
そう言って、江戸は私の頭を軽く小突いた。
「確かに、有名なことは覚えていても、全ては厳しいですね……」
『だから、同じ場所に居れるんじゃないんかなぁ。もっと知っておきたいなら…………他の國をあたりな。』
江戸さんの言う通り、旧国たちのことも知っておいて損はないだろう。頭の片隅にでも覚えておこう。
『だけどよ、今日はなんだっけか……とか考えていたら、そういや、「東京の日」だったなぁ、と思ってさ。ふらっと足が向いちまったんだよ。』
「……。はい、そうですね。1868年の今日、江戸が『東京』になった日です。懐かしいですね……」
なんてない、7月の17日。時たま思い出したものではあったけれど、こうして一緒に話せるのは新鮮味があって楽しい。
『全くだ。あの日のことは、さすがの俺もはっきりと憶えてるぜ。……ほら、あの時の若ぇお前……日帝のやつ、今のお前みたいにガチガチに緊張してやがってさぁ……』
——1868年、夏の強い風が吹き抜ける中。
まだ大日本帝国と名乗る前、少しあどけなさが残る若き日の彼は、新しく「東京」という名前を背負う重圧に、拳をぎゅっと握りしめていた。
「江戸さん……俺に、この街を、国を背負っていけるでしょうか。名前が変わってしまえば、俺は俺でなくなってしまうような気がして……」
今はもう消え去ってしまった後。そんな祈りは意味がないと思っていた——。そんな青臭い不安を吐露する彼に対し、不意に江戸は現れた。
『まだ、生きとるわ。』
「江戸さ……!?」
江戸さんは豪快に笑って、俺の背中をバチンと叩いた。しかし、その手は薄れていて、背中を押された感覚はなかった。
『馬鹿言えよぉ、名前が「江戸」から「東京」に変わったくらいで、お前さんが培ってきた魂まで消えやしねぇよ。あっはっは。』
「江戸にとっては笑い事かもしれないけどなぁ……俺にとって今は大事な時期なんですよ…………。」
大笑いしていた江戸さんだけど、急に珍しく悲しそうに声を張り上げた。
『……ほら、胸張っていきな。これからはお前さんの時代だ。……よろしく頼むぜ、東の京さんや。』
「…………!はいっ!」
朝日が昇る。振り返ってお礼を言おうとしたときにはもう、江戸は新しく灯る朝日と共に姿を消した。もう、今は新しい時代。「日本」の時だ——
「……なんてことが、ありましたね。」
日本はふっと目元を和らげ、懐かしそうに微笑んだ。
『おうよ。あの時のお前さん、顔真っ赤にして「はい!」って返事しやがってさ。可愛げがあったねぇ。はっはっ。』
表情が読み取りにくいが、江戸は嬉しそうにして、外のきらびやかな高層ビル群を見つめる。
『……ま、確かにこんだけ立派な街になりゃあ、俺の役目はとっくに終わりだ。あいつら……ドイツやイタリア、アメリカのやつもお前さんの周りにいるみたいだしなぁ。』
江戸はキセルを懐にしまい、ふらりと立ち上がった。
『んあ、そろそろ帰ったほうがいいかな。明日も忙しいんだろう、お前さんはさ?』
引き止めようとする日本の心を透かしたように、江戸が優しく微笑む。だが、日本はすっと江戸の着物の袖を、実体がないと分かっていながらも、掴むようにして手を伸ばした。
「……もうすこしだけ、話しませんか?」
『あん?』
「今日は『東京の日』、ですよ。……新しくなった日を、私の始まりの日を、あなたに祝ってほしいんです。」
久しぶりに、誰かに甘えたい。そう思っていた気持ちが現れたのか、いつにない笑顔を江戸さんに見せた。
真っ直ぐな日本の視線に、江戸は一瞬呆気にとられたように目を見張った。
だが、すぐに『やれやれ。』と肩をすくめて、立っていた場所にどっかりと腰を下ろす。
『……わかったよ。お前さんには、どーしても、昔から敵わねぇなぁ。』
東京の夜景が、二人を祝福するように優しくきらめいていた。
おまけええええ
「なぁ、日本。昨日は寝れたのか…………??」
ドイツさんがパソコンをカタカタと鳴らしながら問いかけてきた。絶対、さっきから眠そうにあくびをしていたからだろう。
「すみません……ちゃんとは寝れず…………」
江戸さんと会った、なんてことを言ったら多少なりとも騒ぎになってしまう…………。しっかし、眠い。
「寝たい…………ぅわー寝たい…………、寝てればよかった……」
そんな愚痴を言いながらも、仕方なく手を動かした。
「……日本を放っといていいアルか?」
「どうせなにか言っても仕事仕事、ってくらいのことしか言わないからな……」
「アメリカの言う通りアルね……。」
二人は揃って大きなため息をついた。