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鷹槻れん

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「なんていうか、雰囲気も? 新沼社長補佐の後ろ歩いてるのとか、もう普通に秘書って感じします」
「普通にって……。だって、秘書だもの」
「そうなんですけど!」
何がおかしいのか田貫が笑うので、瑠璃香もつられて笑ってしまった。
とはいえ、今は仕事中だ。
課長席へ目を向けると、すでに晴永と河瀬は机上の資料を広げ、話を始めている。
「じゃあ、私行くね」
「あ、はい。引き止めてすみません」
「ううん」
田貫へ軽く手を振り、瑠璃香も二人のもとへ向かった。
「すみません、お待たせしました」
「ああ。小笹さん、さっきの資料出してもらえるか?」
「新商品の販促計画ですね」
「ああ」
「こちらです」
抱えていたファイルから迷わず目的の資料を抜き取り、晴永へ手渡す。
晴永は受け取った資料を河瀬の用意したものと見比べながら、しばらく数字を追った。
「河瀬課長、ここの販売予測なんだけど」
「はい」
「先月の実績を考えると、少し強気じゃないか?」
「そこは私も気になっていたところです。ただ――」
二人の話を聞きながら、瑠璃香は少し後ろに控える。
やがて晴永が何か思いついたように顔を上げた。
「……小笹さん」
「はい」
「先月分の販売実績なんかは……さすがに持ってきてないよな?」
瑠璃香はにっこり微笑んだ。
「大丈夫です。こちらに」
「……あるのか?」
晴永が驚いた顔をする。
「はい。もしかしたら必要になるかな? と思いまして」
すぐに別の資料を取り出して差し出すと、晴永はそれを受け取りながら感心したように息を漏らした。
「言ってなかったのに……。助かる」
「いえ」
そんな二人のやり取りを見ていた河瀬が、わずかに口元を緩めた。
「さすがですね、小笹さん」
「え?」
「新沼社長補佐が何を必要とするか、よく分かっていらっしゃる」
「……長く部下をしていましたから」
少し照れながら答えると、晴永も手元の資料を見たまま、
「俺より俺の仕事のこと、分かってんじゃないかなって思うことがありますよ、彼女」
と冗談めかして言う。
「それは言いすぎです!」
思わずいつもの調子で返してしまってから、ハッとした。
けれど河瀬は特に気にした様子もなく、むしろ可笑しそうに笑っている。
「以前からお二人はそんな感じだったらしいですね」
「……どこ情報ですか!?」
「さてね」
クスクス笑われて、周りからの視線に瑠璃香が視線をさまよわせれば、企画宣伝課の元同僚たちがサッと視線を逸らせる。
(みんなぁぁぁ!)
情報源を突き止めた瑠璃香は、なんとなく気恥ずかしくなった。
どうやら自分たちにとっては無意識のやり取りも、周りから見れば昔から変わらないらしい。
そのまま晴永と河瀬は、販売実績をもとに話を続けていく。
瑠璃香は二人の邪魔にならない位置へ下がった。
「すごいっすね、小笹さん」
すぐ近くから小声で話しかけられて視線を転じれば、いつの間にか保城がそばに来ていた。
「何が?」
「いや、新沼社長補佐が欲しい資料、言われる前から用意してたじゃないですか」
「あー、……でも、そんなに大したことじゃないよ?」
「いや、大したことですって。俺だったら言われなきゃ絶対用意してないです」
「私も無理です」
近くにいた佐久まで会話に加わってくる。
コメント
2件
最高の秘書(*´꒳`*)
ああ、このエピソード、とても好きです。瑠璃香が晴永さんの欲しい資料を「言われる前に」用意してるところ、さりげないけど彼女のプロ意識と長年の信頼関係がじんわり伝わってきました。河瀬課長が「さすがですね」って笑う場面も、新たな環境でちゃんと評価されてるのが感じられてほっこりします。田貫くんの「普通に秘書って感じします」という素直な言葉も、二人の空気感が周囲からどう見えてるかを自然に描写してて良いアクセントになってましたね。