週末の午後、晴れた空の下。いるまとひまなつは、いつもの大学キャンパスとは違う街のショッピングモールにいた。
「なあ、今日は何買うんだよ?」
「別に、服とか日用品とか……色々見たかっただけ」
ひまなつは少し照れくさそうに言いながらも、どこか楽しそうだった。
いるまはそんな彼の横顔を見て、少しだけ嬉しくなる。
「お前さ、買い物とか興味なさそうなのに珍しいな」
「……まあ、いるまが一緒なら、悪くねぇかもな」
手をつなぐわけでもなく、肩が触れ合うくらいの距離で並んで歩く。
ぎこちなくて、でも確かな温度がそこにあった。
最初に立ち寄った服屋で、ひまなつは照れながら試着室に入った。
「……どう?」
鏡の前で首をかしげるひまなつの姿に、いるまはつい笑ってしまった。
「似合うって。もっと自信持てよ」
「……バカ、調子乗んな」
でも、どこか嬉しそうに笑う彼の顔が、いるまの心をじんわり温めていく。
その後、雑貨屋や本屋をぶらぶらと回り、気がつけば夕暮れ近くになっていた。
「おなかすいたな」
「だな。どっかでメシでも食うか」
小さなカフェに入ると、ひまなつは窓の外を眺めながらぽつりと呟いた。
「なんか、こうやってふたりで出かけるのって……悪くねぇな」
いるまはそっと彼の手を握って、小さく微笑んだ。
「俺も。これからも、ずっと一緒にな」
「……ああ」
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カフェでのんびりしたあと、いるまがニヤリと笑いながら言った。
「そういえば、ゲーセン寄るの忘れてたな」
「え、マジで? お前、そういうの好きだったのかよ」
「おう。特にお前となら燃えるだろ?」
ひまなつは少し戸惑いながらも、ついていくことにした。
ゲーセンの入り口で聞こえてくる電子音や歓声に、胸が少し高鳴る。
「……お前、何やる?」
「太鼓? クレーンゲーム? どれでもいいぜ」
「じゃあ、まずはクレーンゲームだな。俺、あれ得意なんだよ」
いるまは自信満々に言いながら、コインを入れてレバーを握る。
ひまなつはじっと見つめていたが、ふと「俺もやってみる」と言って、少し緊張気味に隣に並んだ。
いるまの指先の動きを真似しながら、
ひまなつはなんとか小さなぬいぐるみを掴もうと挑戦する。
「お、惜しい! もうちょっとだぞ」
「っ……くそ、これ難しいな」
「何とかして取りてぇな」
いるまの隣で、ひまなつは真剣な表情になる。
でも、ふと目が合うと、互いににやりと笑った。
「これ、結構楽しいかもな」
「だろ? ほら、もう一回やろうぜ」
その後、二人は射的で勝負をしたり、音ゲーで競ったりして、
お互いに笑い合い、少しずつ距離が縮まっていくのを感じていた。
いるまが取った大きなぬいぐるみをひまなつに渡した。
「これ、お前へのお土産な」
「……ありがとう。大事にする」
照れながらも、どこか嬉しそうに抱きしめるひまなつに、いるまは満足そうに頷いた。
「よし、勝負しようぜ、なつ」
「は? なに急に」
「ゲーセンだし、勝ち負けつけた方が盛り上がるだろ。負けた方は、勝ったヤツの言うことを何でも一つ聞くってことで」
「……何でも?」
「もちろん、常識の範囲内な」
「ふーん……後悔すんなよ?」
互いに火がついた目をして、まず挑んだのはエアホッケー。
スティックを握る手に力が入る。
「おらっ!」
「ちょ、お前強すぎ……っ!」
開始早々、いるまが猛攻を仕掛ける。
ひまなつも応戦するが、次第に点差が開いていく。
「っく……マジで負けそう……!」
「お前、手元甘いって!」
最終的に、スコアはいるまの圧勝。
テーブルに手をついて息をつくひまなつに、いるまが満足げに声をかけた。
「勝ったー。約束な、“なんでも一つ”」
「……っち、わかったよ。なんだよ、言ってみろ」
いるまはニヤニヤしながら、ひまなつの耳元に顔を寄せて、
こっそりと何かを囁いた。
「――えっ、そ、それ本気かよ……!」
顔を真っ赤にして振り返るひまなつに、
いるまはいたずらっぽく笑いながら指を一本立てる。
「一回だけだ。な?」
「……チッ、約束は約束だもんな。後日で……な」
勝負のあとの余韻と、微妙に緊張した空気。
でも、ふたりともどこか楽しそうで、くすぐったいような時間が流れていた。
そのあとのゲームも、笑い合いながら続いて、終わり頃には すっかり仲の良い「恋人同士のデート」そのものになっていた。
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