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折西がゆっくりと目を開けると
そこには闇の中にぽつんと少年が
体育座りで泣いていた。
「ど、どうしたの?」
折西が慌てて駆け寄ると闇の中から
屋根裏部屋のような場所へと変わる。
「お兄ちゃん…だあれ?」
「僕は…折西って言うんだ。君は?」
「…ヒグレ。」
「ヒグレくんか!素敵なお名前だね!」
そう言うと少年、『ヒグレ』は
パッと表情が明るくなる。
「そうなの!お父さんとお母さんが
考えてくれた名前なんだ!」
素敵でしょ!と自慢気に話す。
この子が紅釈さん?
けれどお父さんもお母さんも大好きそう…
違う人なのかな?と思っていた。
するといきなり下の階から足音が聞こえた。
「あっ!お母さんだ!!」
そう言うとドアから鍵を開ける音が聞こえた。
「ヒグレ」
お母さんらしき人がそう言うと嬉しそうに
ヒグレは駆け寄る。
と
お母さんはいきなりヒグレの胸ぐらを掴む。
「あんたなんか居るから!!!!!!!
こんなクソガキ産まなきゃ良かった!!!
弟はあんなに賢いのに!!!!!
今日だって近所の人に馬鹿にされて!!!」
そう言うとお母さんはヒグレを地面に
叩きつけ、殴り続けた。
「ごめんなさいごめんなさい!!!!!!
何も出来なくてごめんなさい!!!!!」
「ヒグレくん!!!!!!」
折西はお母さんに全身でぶつかり
怯んだタイミングを見てヒグレを
覆い被さるようにして庇う。
「返せ!!!!!!!」
お母さんはヒグレを抱き抱えて庇う折西を
引き剥がそうとした。
が、母親に大人を引き剥がす力はなく
諦めた母親は折西を殴り始めた。
「折西兄ちゃん!!!!!
折西兄ちゃん!!!!!!」
「僕は大丈夫。」
自分は身体が痛むだけだから。
と折西は不思議とと我慢ができた。
意識内とはいえ痛覚があるらしい。
けれど、この子の痛みの方が遥かに大きい。
するとドア方向から大きな足音が聞こえてくる。
入ってきたのは父親だった。
「どけ、若造が。」
そう冷たく言い放ち、いとも容易く
折西を引き剥がす。
目の前でヒグレを殴る両親を止めようと
手を伸ばすものの視界は暗転していくのだった。
数分後、視界が明るくなる。
カラスの鳴き声、異臭を放つ空間、
ゴミ袋のバリバリとした音。
青い空。
どうやらゴミ置き場のようだ。
「ヒグレくんは!?」
折西が辺りを見渡すとゴミ置き場で
ぐったりとしているヒグレを見つけた。
慌てて駆け寄り、触れようとする。
「えっ」
何度触れようとしても触れられない。
手をすり抜けるのだ。
どうしよう…と慌てていると
1人の少年が遠くからやってきた。
見た目はヒグレと同じ年齢位の子で、
左目が髪で隠れている。
服もボロボロだ。
「…なんだコイツ?」
そう言うと少年はヒグレの前髪をつかむ。
するとヒグレは意識を取り戻した。
「う、うーん…」
「おっ、生きてんのか!珍しい!
ここに来るやつ大半死んでんのに!!!」
死んでたら火を通して食おうかな〜とか
思ってたのに…と
とんでもないことをブツブツとぼやく。
意識がハッキリしたヒグレは
「…君は誰…?」と聞いた。
「は?俺の名前か???」
いきなり起きて現在地の事を
聞かずに見ず知らずの者の名前を聞く
ヒグレを見て少年は呆れた顔をする。
はあ、とため息をつき、少年は
仁王立ちをする。
「俺はヒデキ!!!テメェは?」
「僕は…ヒグレ。」
「なんだそれダセェ名前だな!!!!!」
「そ、そんな事ないもん!!…ない…よね?」
と不安がるヒグレを見て何かを
察した『ヒデキ』は
「…なるほどねぇ」
と言い、手を差し伸べる。
「ついてこい!!!お前の新しい家に
案内してやる!」
そう言うとヒグレの手をグイッと
引いてどこかへ行く。
折西はそれについて行った。
たどり着いた先は子どもの頃なら
誰しも夢見るであろう秘密基地のような
場所だった。
土に穴を開けて作った秘密基地の中には
フライパンなどの調理器具、
火の抜ける通気孔、寝床から小道具まで
沢山あった。
「す、すごい…!」
ヒグレは
「だろ!!!」と
にやにやしながら腕を組んでいる。
「もしかしてヒグレって何でも屋さん…?」
「何でも屋さんっつーか作るか
盗むかしねぇと手に入んねぇからな〜…」
「ぬ、盗む!?怒られないの!?」
「バーカ、怒られねぇ訳ねぇだろ!」
そう言うとヒデキはギャハハ!!!
と笑いながらヒグレの背中をバシバシと叩く。
「いたい!!!もう!やめてよ!!!」
その様子を見ていた折西はふと、
今の自分と紅釈の関係性となんだか
似てるなぁと思った。
ただ、紅釈の少年期であろうヒグレが
今の折西で、ヒデキという少年が
今の紅釈みたいな性格だ。
先程の両親からの虐待の後に見たからなのか
2人の仲睦まじい光景を見て折西は
心が癒されていった。
ヒグレはヒデキと話したり
遊んでいると空が暗くなった。
「あっ、そろそろ帰らなきゃ…」
ヒグレがそう言うと折西はゾッとした。
捨てられても尚親元に帰ろうとする姿は
純粋で報われなくて…
「おい…!やめとけって!!!」
ヒデキはバッと立ち上がり引き止めた。
「でも少しでも帰るの遅くなると
怒られちゃうから…」
「バカ!!!お前は…」
捨てられたんだよ
なんて言えなかったヒデキは言葉を
探すように目をそらす。
「お前は…お前はビビりだろ?
暗いしユーレイ…とかなんか出てきたのか
わかんねぇけど!!」
「俺の仲間で元の家に帰って行ったやつは
一人もいねぇんだよ!…だから」
「ヒデキくん」
ヒグレがそう言うと小指を差し出した。
「…はぁ?な、なんだそれ?」
突拍子も無く小指を差し出され訳が
分からないヒグレは気の抜けた声が出た。
「約束する時のゆびきりげんまんってやつ!」
ヒグレは話を続ける。
「僕ユーレイに襲われずにお家に帰る!
それでヒデキくんのお家にまた来る!
その約束だよ!」
小指を出して!と真剣な顔のヒグレを見て
ヒデキはよく分からないまま小指を出す。
「…そ、それならさ!約束守るって言うなら
あともう1つ守って欲しいことがあるんだ!」
「…なあに???」
「俺の!!!友達になってください!!!!!」
ヒデキは恥ずかしさに顔を俯かせる。
「…!もちろん!!!」
ヒグレは満面の笑みで小指を絡ませ
指切りげんまんをしたところで
また視界が暗転した。
次の視界はヒグレの家の玄関前だった。
折西は接触を試みようとしたがどうも
人や物に触れられないらしい。
ヒグレがドアを開ける。
するとヒグレの兄らしき人とばったり出会った。
「!!!」
ヒグレの弟『アサ』はスーッと青ざめる。
「ただいま!アサ!」
「…!ヒグレ兄さん!なんで帰ってきたの!?」
「えっ…」
「ダメだよ!今度こそお父さんとお母さんに
殺されちゃう!2人とも家にいるのに!!!
早く隠れて!!!!!」
声のボリュームを抑え、そっととドアを
閉めようとする。
…そんな弟の努力は水の泡になった。
「アサ、何を隠している?」
「…!父さん…」
お父さんは弟の横を通り過ぎ、
ヒグレに掴みかかる。
「なんで帰ってきた?」
「…暗くなると怒られるから…」
「捨てられたのが分からないのか!!!!!!
お前なんか家族じゃない!!!」
そう言うとお父さんはヒグレを突き放し、
殴り始める。
「もうやめてよ父さん!!!!!!!
ヒグレ兄さんは何も悪くないでしょ!!!」
アサがヒグレを庇おうと父親の着物の
裾を引っ張って止めようとする。
気味の悪いほどにスっと父親の手が止まった。
「…お前はこいつの肩を持つのか?」
そう言うとアサの方へとゆっくり歩みより
殴り始める。
「アサ!!!!!!」
ヒグレが庇おうと近づくがお父さんに
突き飛ばされてしまった。
この騒動に気づいたお母さんがやって来る。
「…!アサ、大丈夫!?お父さんもやめて!!
…お前のせいか!?」
そう言うと今度はヒグレまでお母さんに
殴られる。
そんな地獄を見ながらまた暗転するのだった…
視界がヒデキの家に切り替わる。
「おい!ヒグレ!!!大丈夫か!?!?!?」
ヒデキの隣にはお粥と水の入った容器、
布があった。
よく見るとヒデキの着物の裾が破られており、
傷口を縛ったり保護するための布として
使われていた。
「う、うーん…ここは…」
「おっしゃ!目を覚ました!!」
「…!ヒデキ!」
ガバッと起き上がるヒグレ。
だがヒデキは思いっきりヒグレの頭に
自分の頭をぶつけた。
ガツン!!!!!!
「いっっっっった!!!!!!何すんだよ!!」
「約束すっぽかそうとしたバツでーす。」
ヒデキはムッとして話を続けた。
「大体なぁ!!!!!ゴミ捨て場に捨てられた
奴らは皆帰ったら親に殺されちまうん
だよ!!!!!」
「!!!」
「お前が約束したのは!確実に負けの戦に
行って素っ裸で『生きて帰る』って
いうものなの!!」
ヒグレは帰宅後の記憶が蘇り目に涙を浮かべる。
「まったく…こっそり後をつけてて良かったわ…」
どうやらヒデキは過去に元の家に
帰った友人が殺されてたことが
殆どらしく不安で後を追っていたらしい。
話を聞いているとヒグレが気絶した後、
お父さんが家の外に放り投げたのが
唯一の救いだったらしくヒデキが
上手いこと救い出したらしい。
「マジで、家の中で殺されてるやつが多いんだよ。周囲に知らせないためにさ。」
「…」
俯くヒグレ。そんな重々しい雰囲気に
耐えられなかったヒデキはパン!と手を叩く。
「…まあいいや!今回のは許してやる。
約束通り生きて帰ってきたしな!」
そう言うと暖かい卵粥を折西に差し出した。
「おら、食え。負け戦に勝った記念だ。」
「…ありがとう」
少し表情が和らいだヒグレは卵粥を食べる。
「あ、温かくて美味しい!!!
これヒデキが作ったの?」
「ま、まあな…得意料理だし…」
ヒデキは照れ隠しで鼻の下をかいた。
「すごいねヒデキくん!!!なんでも出来る!」
「へへへ…ヒグレにある優しさは無いけどな」
「そう?優しいと思うけど…」
不思議そうにしているヒグレを見て
ヒデキは苦笑いをする。
「優しくは…ないかな…」
そう言ったヒデキの顔はどこか悲しい顔だった。
ーーー
ご飯を食べたあと、2人は寝床についた。
ヒグレは温かいものを食べてぐっすりと眠り、
朝日が昇る頃にスっと起きれた。
「ヒデキくんおはよう…」そう言うと
隣で寝ていたヒデキを見る。
…そこには誰もいなかった。
代わりに置き手紙が置いてある。
文字が書けないためなのか絵が描いてある。
…どうやら
「外に出る」、「お昼には帰る」
ってことらしい。
傷も大きいのでヒグレはヒデキの家で
今日はゆっくりすることにした。
「来ないなぁ…」
既に夕方になり空も暗くなっていた。
…探しに行こうかな。
そう思い外に出ようとする。
すると
「よっしゃ俺の勝ち!!!」
という大きな声が聞こえた。
「ヒデキくん!!!!!」
ヒデキは片手に猪、肩に掛けてた
カゴの中に沢山の木の実が入っていた。
「ちょっと森ん中で猪追っかけてたら
遅くなった、悪ぃな…」
カゴと猪をドン!と置く。
猪はあらかじめ皮を剥ぎ、内臓を抜き、
血を洗ってあった。
カゴの中の木の実は何やら甘い香りがする。
「大丈夫だよ!無事帰ってきて良かった!
…けどどうして猪と木の実を?」
「…昨日飯うめぇって言ってたろ?
だからこれも美味かったよなって
夜中思い出してさ。」
そう言いながらヒデキは近くにあった
水の入った鍋の中に調味料を入れる。
そして火にかける。
その間に猪を切り分ける。
「ヒグレは塩水作ってそん中に
木の実を入れといてくれ!」
「わかった!」
そう言って家から出てすぐ近くの
湧き水を容器にすくって家に戻り
塩をパラパラと入れて木の実を入れる。
「ねえ、ところでこの木の実はなあに?」
「そいつはヤマモモってやつだな!
甘くて美味いけど虫もいるから
塩水につけて虫を殺すんだよ。」
「ええっ!?殺しちゃうの!?」
「俺はそのまま食うんだけどお前
家っ子だから嫌がるかなって…」
「腐ってないしお腹壊さなければ
いいかなって思ってたんだけど…」
「まあ楽しい気分の時に虫が口ん中にいるのも
なんだし、しばらく塩水につけとけ!」
お互いが作業している間に鍋から
ポコポコと音がし始めた。
「そろそろ頃合いだな。」
ヒデキはそう言うと切り終えた
猪肉と野草を中に入れ、味噌を溶かす。
フワッと味噌のいい香りがした。
「さてと、あとは完成を待つだけだ!」
同じタイミングでヒグレも下処理が終わった。
「これ全部食べるの?」
塩水に浸かったヤマモモを指さし
ヒグレは首を傾げた。
「いや、半分食って半分シロップにする。」
「いいねいいね!!!美味しそう!!!」
目を輝かせるヒグレを見てヒデキは
嬉しくなった。
「だろ!?本当はジャムとか作ってみてぇけど
砂糖たくさん使わなきゃいけないからな…」
「調味料は貴重だもんね…」
ヒデキの持っている調味料は盗みで
手に入れたものがほとんどだ。
命懸けで取ってきたものを
大量に使うのは2人とも抵抗があった。
その後も色々話をした。
好きなタイプだとか大人になったら
何になりたいかだとか、
大好きなアサの話だとか。
あっという間に時間が経ち、
頃合いを見計らって鍋の中を確認し、
ヒグレの方を見て無言で親指を上に立てた。
完成した猪鍋を2人で食べる。
「んま…!」
「うめぇ…!」
しっかり煮込まれた猪肉は柔らかく
濃厚で野草の爽やかさとバランスがとれている。
育ち盛りの2人が大きな鍋を中身を
空にするのは容易であった。
デザートのヤマモモも甘酸っぱくて美味しい。
「!」
1つ酸っぱい実に当たったのかヒグレは
顔に力がはいった。
「アハハ!!!!!酸っぱいのに
当たってんじゃん!!」
「もう、笑わないでよ!!!」
「アハハ!!ごめんって!
ほら、紫色のが1番熟れてっから甘いぞ!」
そう言ってヒデキが渡した紫色の実を
口に含むと甘かったのかヒグレは
ぱあっと明るくなった。
2人で談笑しているとヒグレは
フワッとあくびが出た。
「眠いのか?」
「うん、温かいの食べたら眠たくなってきた
…けど…シロップ…作ら…なきゃ」
今にも寝そうなヒグレを見てヒデキは
「俺が作っとくから先に寝とけ!」と
言い食器をまとめてくれた。
ヒグレはお言葉に甘えて寝ることにした。
翌日。ヒグレが起きると横には
置き手紙があった。
昨日と同じ内容だ。
今日もゆっくりヒデキを待とう。
そんなことを考えていた。
が、ふと弟であるアサが殴られていたのを
思い出す。
そして、家の中で殺される奴が多い、
というヒデキの言葉が重なる。
「そうだ、アサが!!!」
ヒデキをのんびりと待とうなどと
思っていた自分に腹が立つ。
ヒグレは急いで外に出てアサの家へと走った。
今度は見つからないように
アサの家に着いたヒグレはそう思いながら
そーっと家の扉を開ける。
人気がない。
今なら入れる。
なるべく物音を立てないように部屋に入る。
そして屋根裏へと向かう。
怒られた時よく自分が入れられた部屋だから…
屋根裏部屋の扉を開ける。
けれど誰もいなかった。
リビングは?
いない。
アサの部屋は?
いない
いない、いない…
「…どこにも居ない。」
屋根裏部屋に戻ったヒグレは冷や汗をかいた。
お父さんに殺されたのか?
それともたまたま出かけているだけ??
「…危ないけど、ここでアサが
帰ってくるのを待とう。」
そう思い息を潜めて待つことにした。
数時間後、
ガタン!と大きな音がした。
「…来た!」
そう思いそっと屋根裏部屋の扉を
数センチ開けて下を見る。
が、誰もいなかった。
階段を駆け上がる音もない。
…?
違和感を感じる。人気はないのに物音はする。
パチパチッ!!!!バキッ!
ドスン!!!!!
「な、なに…??」
そして、煙の臭いがすると共に
熱風が襲いかかる。
「ひっ」
扉を閉めようとするが熱風で
ドアが壊れてしまった。
そして炎が一気に押し寄せてきた。
ヒグレは後ずさりした。
後ろに置いた足が沈む。
下の階の柱が燃えて折れたのだろう。
沈んだ後ろ足の床が抜け、
そのままヒグレは下まで落ちていった。
ガラガラガラッ!
「痛い…」
下に叩きつけられたヒグレの腰には
重厚感のあるタンスが乗っかっていた。
その光景を見ていた折西も家具を
動かそうとするが触れられるわけでもない
その手がどうにかすることなんて出来なかった。
「ここから出なきゃ」
ヒグレはそう思い腕だけで前に進もうとする。
しかしそれを重厚感のあるタンスは
許さなかった。
更に後ろからドン!!!!!
という爆発音と共に後ろから強い熱風が
ヒグレを襲う。
刹那、目の端に見えたものに血の気が引いた。
「あ、足…」
木材に衝突した足のようなものを見る。
あの足は間違いなく自分のものだった。
左足…感覚が…
途端に鋭い痛みが走る。
「ッ!!!!!あああああ!!!!!!」
グラつく視界に自分の片足が切断される
苦しみが襲いかかる。
そして足から大量出血しているのか悪寒がし、
目眩がする。
「…れ…ヒグレ!!!」
どこからか声が聞こえる。
すると目の前の瓦礫が少しずつ崩れ始める。
「ヒデキくん!!!」
崩れた瓦礫から顔を覗かせたのはヒデキだった。
「ヒグレ!!!!!なんでお前がここに!?」
「アサを助けなきゃってお家に…」
「バカ!!!早くここを出るぞ!!」
そう言いヒデキは瓦礫の隙間から手を伸ばす。
その手をヒグレが掴もうとした瞬間。
ヒデキの手は遠のいた。
「押さえろ!!!!!こいつだ!!!」
ヒデキの後ろから人の声が聞こえた。
「中に人がいるんだ!!!助けてくれ!!」
ヒデキが町奉行に押さえられる。
「こいつが連続放火魔の犯人だ!!!」
「…え」
「ああっ、クソ!!!!!!違う!!!
こんなはずじゃ!!!!!!!」
抵抗するヒデキに爆風が襲いかかる。
髪の毛で隠れていた左目が見えた。
火傷跡だった。
「…そんな」
連続放火魔の犯人だろうが盗人だろうが
別にどうでもよかった。
だけど、その炎をつけた理由は?
アサを殺すため?
アサは可愛い弟だとヒグレは
初めてヒデキの家に泊まった時に
話したことがある。
こっそり温かいごはんを持ってきてくれたり
一緒に遊んでくれたり、誕生日に
ご飯をケーキみたいに盛り付けて
持ってきてくれたりした大切な弟だと。
僕に他に仲間がいたのが許せなかった?
この時間帯はアサがお留守番を
よくしている時間だともヒデキには話していた。
お母さんやお父さんに恨みがあるなら
夕方に仕掛けるはずだ。
「…もういいよ、ヒデキくん。」
「…!違うこれは」
「お友達やめよう。」
「!!」
青ざめ力の抜けたヒデキは町奉行に
押さえ込まれ、どこかへと連れ去られて行った。
しばらくしてヒグレは意識が薄れていった。
ここで死ぬのだろうな、
と思いつつ特に生きる理由もないし。
とぼんやり考えていた。
「アノ…」
ふと黒い鯨の影が見える。
可愛い幻覚だなぁ、とそっとヒグレは
鯨を撫でる。
「エヘへ…クスグッタイヨ…ジャナクテ!!」
デレデレの鯨はゴホン!と咳払いの
ようなものをする。
「ボクハ、キミヲ タスケルコトガデキル…カモ」
どんどん自信が無くなっていく鯨を見て
「大丈夫だよ。どっちにしても僕は無理かも。」
と笑った。
「…イタミ ヲ ボクガ タベテ、ソレヲツヨサニ
カエレル!キズモ ナオセル!
…ココロノイタミハ ムリダケド…」
「ケレド!イツカキット!!ステキナヒトガ!!
タスケテクレルカラ!!!
…ケイヤク シテホシクテ…」
「…契約しないと君は死んじゃうの?」
「…ママニ オコラレル…」
お母さんに怒られるからという正直すぎる
理由にヒグレはふふっと吹き出した。
「ふふふ!!!」
「アッ!ワラッチャダメ!!チガデチャウ!」
鯨は足元へ駆け寄り、傷口をおさえようと
しているのか密着してくる。
「わかったわかった、いいよ契約して。
だけどお友達じゃなくて『相棒』だよ。」
そう言うと
「アリガトウ!」と嬉しそうに
誓いの言葉を交わし、
優しい光に包まれていった。
そして視界は暗転し、
折西の目の前に鍵が現れた。
「…大丈夫です、紅釈さん。僕が解放します。」
折西はギュッと鍵を握りしめたのだった。