さっき彼女に邪魔されてしまったから、僕らはどちらからともなく二回目のキスをした。今度は体を触らなかった。また彼女に見られることを心配したのでなく、なぜか火が消えたみたいに性欲がなくなってしまったから。一回目のときが嘘みたいに下半身も反応しなくなった。
彩寧さんが僕の手を持って自分の胸の辺りに導いてくれた。うれしかったけど、下半身が反応しないのは相変わらず。
だから、
「さっき霊山寺さんに言ったことは嘘じゃないよ。夏梅君、このまま私とホテルに行ってほしい。私の全身の全部の細胞が君のものになりたいと叫んでる。お金なら心配いらない。今日に限らず、毎回私が払ってもいいから」
と夢のような提案をされても、素直にうなずくことができなかった。
「最初キスしたときは僕もその気だったんですけど、映山紅さんの顔を見たら心も体も反応しなくなってしまって……」
「かわいそうに。夏梅君は霊山寺さんに恐怖心を植えつけられて、絶対に逆らってはいけないと思い込むようになっていたんだね。君が陸のような無神経な男ならそんなふうにはならなかっただろうけど、でも君が陸のような男だったら私が君を好きになることはなかった。うまくいかないもんだね」
「今日は無理でも違う日ならきっとできますから」
「気のせいならいいけど、そんな日は来ない気がする」
「まさか」
「分かった。今日は君が私を彼女にしてくれたことで満足するよ。でも一つだけ約束して! 絶対に霊山寺さんと二人で会わないって」
「約束します。僕はもう彼女の言いなりにはなりません」
僕がそう答えても、彩寧さんの顔から憂いが消えることはなかった。
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