コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
部活中。
突然平野が帰ってきた。
海人「紫耀せんぱぁ~い!帰ってきたんだ!?」
平野「おぅ、さっき静岡着いた!1度荷物を置きに寮に帰ったんだけどさ、俺の部屋に他の人の荷物が入っててびっくりした!海人の母ちゃんに聞いたら、廉、寮に入ったんだって!?」
廉「おう、そうそう。よろしくなー」
れんれんは、あのまま本当にうちの寮に入ってしまった。(もちろんれんれんのご両親がすぐに追いかけて来て、海ちゃんのお母さんとの話し合いはあったけど)
そして、問題はそれだけじゃない。
なんとれんれんは平野と同室になることになった。去年は平野は一個上の中島先輩と同部屋だったけど、中島先輩が卒業してから1人部屋として部屋を作っていたからだ。
平野とれんれんが同室で、私の隣の部屋にいる…なんか気まずすぎる!( ゚Д゚)
サッカー部員「そうなんだよ、こいつらちょっと前から付き合っててさ、永瀬が転校しそうになったのを、風ちゃんが”れんれん!行かないで!ずっと私のそばにいて!”って泣きながら追いかけて、それで永瀬は、両親よりも風ちゃんを選んでここに残ることになんだよなー!」
別のサッカー部員「で、真っ昼間の道端で熱い抱擁からのキス!まるで映画のワンシーンかと思ったってすっげえ噂になってんの!」
平野「えっ…!?」
風「ちょっ…キスはしてないから(°д°)!!」
なんと、れんれんの車を追いかけているところを学校の誰かに目撃されていたらしく、月曜日、もう学校中の噂になっていた。
でもどうしてこうやって噂って尾ひれがついて話が変わってくるんやろ(。´-д-)。
平野「キス”は”してない…お前ら…付き合ってたんだ…?」
風「えっ…!?平野、あ、あのね…っ」
廉「そういうことでええんよな?俺を選んでくれたってことでええんよね?」
れんれんが私と平野との間に立ちはだかるようにして、私に確認を求める。
海人「えっ!?そうゆうこと!?」
神宮寺「まあ確かに、廉先輩は舞川先輩と離れないために親と離れてまで残る決断をしたんだし、舞川先輩も廉先輩の気持ちを知っていて止めに入ったんだから、そういうことでしょ。今さら”そんなつもりはありませんでした”っていうのはちょっと行動に矛盾ありすぎじゃん」
岩橋「昔いじめられてた時代に支えてくれていた存在だってわかったことも大きいだろうしね」
なんか全部みんなに言われてしまった…。自分は蚊帳の外に置かれ、どんどん話の輪郭が出来上がっていく感じ。
でもみんなが言っていること何も間違ってない。矛盾しているのは私の行動だ。
れんれんが家族と離れて寮に入るというのは予想外の展開だったけど、車を追いかけたあの時に「私が止めれば残ってくれる」と期待したわけでもなければ、逆に「止めたって、親の転勤には逆らえないだろう」と高をくくっていたわけでもない。
ただただ、私たちにとってれんれんは「大切な人だよ、大きな存在だよ」ということを伝えたくて。れんれんに悲しい顔して悲しいことを言って欲しくなくて。それしか考えてなくて。
そうやっていつも後先考えずにその時思ったまま行動してしまうから、後で自分の気持ちと辻褄合わないことになってしまう…。
だけど傍から見たら、あの行動はれんれんの告白への返事と捉えられて仕方ない。今さら「違う、私が好きなのは平野なんです」って言える?
だけどこれじゃ、この一週間、平野がお母さんの看病で不安な思いをしている間に、平野のことなんて完全に忘れてれんれんとイチャイチャしていたみたいやん。
突然のジェシーの来日とか、れんれんがあのrenちゃんだって知ったこととか、またクラスでいじめられそうになったこととか、れんれんの転校とか、一気に色々なことがあって…
風「平野、あのね…」
言い訳しようとして、言葉を呑み込む。
だって、それはどれも平野には関係なくて、全部私側の問題で。
私が私の意志で、れんれんを必要として取った行動やもん。
それが、”れんれんを選んだ”ってことになるんや…。
平野「…俺、舞川はまだ岸くんの事が忘れられないのかと思ってた…」
あ…
ほらね、やっぱりね…。
そもそも、そうやん。平野が好きなのは、岸くんを一生懸命好きだった私。心変わりしたら軽蔑される。
それはれんれんと付き合うことになったとしても、「平野を好きになった」と告白しても同じこと。
どちらにしたって、私には平野と結ばれる未来はなかったんや…。
平野「おめでとう…」
平野はそう言って、顔を上げた私と目を合わせることを避けるように、ふいっと背中を向けて行ってしまった。
完全な拒絶…。平野の背中を追いかけることはできなかった。
母親の容態も安定してきて、一週間の休校を終えて静岡に戻れることになった。本当は明日から学校に復帰する予定だったけど、静岡についてすぐに学校に向かった。
早く舞川に会いたかったからだ。
部活に行くと、舞川の姿が見えた。
嬉しくて、駆け寄る。
だけど、1週間ぶりに会った舞川は、廉の彼女になっていた…。
たった1週間会わなかった間に、何があった?
頭の中が真っ白になる。
何か言い訳があるなら言ってほしい。そう思って舞川の方を見てみたけど、何も言ってくれなかった。それが舞川の答えなのだと思った。
舞川が俺を追って名古屋まで一緒に来てくれたこと、一日中手を握ってくれていたこと、なんとなく舞川も俺と同じ気持ちでいてくれるんじゃないかと自惚れていた。
静岡に帰ったら気持ちを伝えようなんて、余裕こいてないで、どうしてあの日気持ちを伝えなかったのか死ぬほど後悔したけど…でも本当に後悔すべきはそこじゃないと悟る。
俺は約1年間ずっと舞川のそばにいて、きっとずっと前から舞川のことが好きだったのに、その気持ちをごまかしていた。
岸くんがいなくなった頃には、自分の気持ちは確信に変わりつつあったのに、それでも気持ちを伝えなかった。
だって、それは
平野「…俺、舞川はまだ岸くんの事が忘れられないのかと思ってた…」
岸くんを一途に思っていた舞川のことを好きになったのは事実だし、舞川の気持ちを尊重してあげたかった。
舞川が俺に対して”何でも相談できる友達”を求めているなら、そういう存在でいてあげたいと思った。
だけど舞川は廉のことを好きになっていたんだ。全然気づかなかった。
ずっとそばにいたのに。
舞川が新しい恋に進みだせるほど立ち直っていたのなら、どうしてもっと自分の方に強引に引き寄せなかったのか。死ぬほど後悔する。
でももう遅い…。
祝福しなきゃ。ずっと辛い恋をしてきた舞川が、やっと幸せな恋を手に入れたんだ。廉はいいやつだ。
平野「おめでとう」
ちゃんと笑えているだろうか?
好きな女の幸せも願えないような男にはなりたくない。
でも、自分が今どんな顔をしているか、全然自信がなかった。少なくともうまく笑えている気がしない。
そんな顔を見られたくなくて、舞川が俺の方を向こうとした瞬間、とっさに背を向けた。
舞川は追いかけてこなかった。
どうしよう、平野が行っちゃう…。
追いかけようとしたその瞬間、
「紫耀くんいたー!」
平野「桃!?なんでお前ここに!?」
桃と呼ばれた女の子が、平野の腕にまとわりつく。
「誰!?めっちゃかわいいんじゃん!」他のサッカー部員がざわつく。
桃「だって~、久しぶりに名古屋に帰ってきたと思ったのに、なんですぐ静岡帰っちゃうのぉ~?今週末の約束はどうなっちゃったの~!?」
平野「週末はまた名古屋に帰ろうと思ってたんだよ!だからってなんでお前静岡にいんだよ!」
桃「紫耀くんのこと追いかけてきたんだよぉ~」
平野「わざわざ静岡まで来るか!?」
母母「だって、週末の約束、忘れてるんじゃないかと思ってぇ~!」
平野「忘れるわけねーだろ!俺たちにとって、どれだけ大切な日だと思ってんだよ!」
岩橋「何?名古屋の知り合い?」(ヒソヒソ)
神宮寺「会話の内容からすると、そうみたいだね」(ヒソヒソ)
しかも名古屋で久しぶりに会ったってことよね?それで今週末にまた名古屋で会う約束を?
海人「紫耀先輩の地元の友達ですかぁ?」(← 2人の世界で入りづらくなっていたところに、無邪気に入っていく海人)
桃「友達っていうか…中学の時、ね?」
サッカー部員「あーっ!もしかして、平野が中学の時に付き合ってたって言う彼女!?」
他のサッカー部員「唯一平野が付き合ったっていう、あの伝説の彼女!?」
他のサッカー部員「今でも忘れられないって言う!?だからスゲェモテるのに高校で一切彼女作らないって言う!?」
彼女が目をぱちくりする。
桃「えーそうなの!?紫耀くん、まだ私の事…?えぇ~!やだ~!どうしよう~!私たち、同じ気持ちだったんだねぇ~!」
彼女が両手を顔に当て、照れながらもうれしそうにクネクネする。
うそ…平野の元カノ?
この子のことが忘れられないから、ずっと彼女作らなかったの?
今回の帰省中に再会して、お互いにまだ気持ちが残ってて…?
風「平野…、週末また名古屋帰るん?何か予定あるん?」
思わず、私も怖いもの知らずの海ちゃんに続き、聞いてしまった。
平野「それは…ごめん、言いたくない」
拒絶…。
今までキャピキャピと騒がしかった彼女も、突然押し黙る。
2人だけの秘密…?他の人には入れない、何か2人だけの太い絆のようなものを感じた。
なんだかまっすぐ寮に帰れなくて、部活が終わった後、公園のブランコに1人座っていた。
ポタリと膝に水が落ちる。雨が降ってきた。すぐに雨はどんどん本降りになってきた。
あ、今なら泣ける。
そう思ったら、どんどん涙が流れてきた。
なんでこんなに涙が出るんやろう?平野に拒絶されたことも、平野がずっと忘れられなかった元カノと元サヤになりそうなことも、こんなにショックだなんて、私、平野に好きだって言って、受け入れてもらえるとでも思ってたんやろうか?
もともと無謀な恋だったのに…。
打ち付けていた雨が、ふわりとなくなる。顔を上げると、れんれんが立っていた。
廉「どしたー?こんなところでずぶ濡れになって」
答えられない。違う人を思って泣いてたなんて。
廉「紫耀のこと思って泣いてた?」
えっ…。
廉「何びっくりした顔しとんの?気づいとったわ、風ちゃんが紫耀に惹かれ始めてんの。風ちゃんのことをどれだけ見てきたと思うとんの?…って、何か言わせんのや!?」
私だって、平野への自分の気持ち、つい最近気づいたのに。
多分この人は、私以上に私のことを知ってる。それくらい、いつも見守ってくれていた。
廉「風ちゃんが紫耀を追って名古屋に行っちゃったときは、マジでやばいなって思うたよね。それで、ちょっと焦って告白した。モタモタしてたら紫耀に取られるー!思って。
紫耀がいない時に勝負かけたんはちょっと男らしないなぁ思ったけど、それは狙ってたわけやないで?たまたまタイミングが…」
うん、確かにこの1週間、予期せぬことが、たくさん起こった。
廉「でも、そんな悠長なこと言ってられないくらい、俺、風ちゃんのことが好きで。好きで好きで、どうしようもなかった」
れんれん…。
れんれんは最初からずっと私を見てくれていたのに、私は全然気づかずに岸くんを好きになって、そして今度は平野に惹かれて、それを全部知ってて、まだ私を好きだと言ってくれている。
廉「紫耀への気持ちが0になってなくたっていいよ。少しでも俺に気持ちが傾いてくれんのなら、俺のほうに来てくれへん?俺は絶対に風ちゃんを泣かせたりせぇへんから」
こんなに何もかもすべて受け入れてくれる人って、他にいる?
吸い寄せられるように立ち上がる。
私のほうに傘を差し出してくれてるから、れんれんの背中はびしょ濡れになっていた。
風「れんれん、背中びしょ濡れやん」
廉「じゃぁもっと俺のほうに来てよ」
れんれんがぐっと私の体を引き寄せる。
廉「もう俺にしときな。後悔させへんから」
背中に回されたその手を、振り解くことなんて、できなかった…。