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翌日。校舎の廊下を歩いていると、昨日の少年が向こうから駆けてくるのが見えた。
「あっ!」
千歌は反射的に視線を逸らし、立ち止まった。
逃げようとした瞬間、目の前に立ちはだかる。
「昨日の!ごめん、急に声かけて驚かせちゃったよね」
「……」
千歌は言葉を返せず、ただ鞄を握りしめた。
「でも、本当にすごかったんだ。あんなに心に響く歌、初めて聞いた。だから……また聞かせてほしい」
「……っ!」
千歌の心が大きく揺れる。
けれど、唇からこぼれた言葉は正反対のものだった。
「……嫌」
自分でも驚くほど冷たい声だった。
凪の笑顔が一瞬だけ曇る。
それを見て、胸が痛んだ。
だけど千歌は、その場から逃げるように立ち去るしかできなかった。
——今まで人の言葉に反抗したことはなかった。
しかし、なぜかこの少年の言葉だけは素直に受け入れられなかった。