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数日後
「やっといた!」
ふと聞こえた声に思わず肩が跳ねた。
顔を上げると、このまえの少年がにこにこと立っている。
「……また、あなた」
「うん!昨日も探したんだけど、見つけられなくてさ」
悪びれる様子もなく隣に座り込んでくる少年に、千歌はため息をついた。
「なんで……そんなに」
「なんでって、決まってる。君の歌が、また聞きたいから」
胸が熱くなるのを必死に抑えて、千歌は顔をそむける。
「……嫌って言った」
「うん、聞いた。でもさ、嫌って言う顔じゃなかったよ」
「っ……!」
図星だった。
千歌は返す言葉をなくし、膝の上で手をぎゅっと握った。
すると少年が、思い出したように手を差し出してくる。
「そうだ、まだ自己紹介してなかったよね。俺、瀬戸凪。二年」
「……羽柴、千歌。三年」
「へえ、千歌っていうんだ。いい名前だね」
——と言った直後、凪の表情が固まった。
「……え?三年って……先輩……!?」
急に慌てて背筋を伸ばす凪に、千歌はぽかんとしてしまう。
「な、なに……?」
「い、いや、だって俺、ずっと同学年くらいだと思ってて……!は、初めまして、羽柴先輩!」
不器用に頭を下げる凪。
その真面目な仕草が妙に可笑しくて、千歌は思わず小さく笑ってしまった。
——こんなふうに、人と笑い合うのなんて、久しぶりだ。