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第16話
あらすじ
藤澤と若井は大森の傷が、まだ癒えていない事を悟ってしまった。
それでも、生きていて欲しい…
二人の願いは一つだった。
16-1 〜硝子の破片〜
面会の後、二人はタクシーを拾って一緒に乗り込んだ。
座席に座ると、落ち込んでいる藤澤に話しかける。
しかし、藤澤は 抜け殻のような返答しか寄越さなかった。
そんな藤澤の様子に、若井はこの後も一緒に居ようかと提案した。
しかし 藤澤が首を振ったので、若井もしつこくは誘わなかった。
しばらくタクシーに揺られると、藤澤の自宅近くに到着したようだ。
藤澤が口を開く。
「じゃ…また明日」
藤澤が、手を振って降りていく。
若井は少し不安な気持ちで、後ろ姿を見送った。
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若井は自宅から、少し離れた場所にタクシーを停めた。
運転手にお礼を言うと降りる。
そこからは、徒歩で自宅に向かった。
エントランスを抜けて、エレベーターに乗り込むと七階のボタンを押す。
登るエレベーターの中。
ふっと大森の自宅が五階で良かったなと思った。
若井と同じくらいか それよりも高かったらと思うと、ざわっと心が揺らいだ。
エレベーターが到着すると、若井は左側に歩いていく。
見慣れた扉の前で立ち止まると、スマホで扉の鍵を開けた。
若井は玄関で靴を脱ぐと、 すぐに浴室に向かった。
湯船の栓を閉めて、お湯を張る。
若井はその間に、部屋着やタオルを用意しておく。
どうしようもない気分の時は、湯船に漬かりながら涙を流す。
そうすると、少しだけ心が軽くなる気がした。
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若井は湯船から上がると、髪をしっかり乾した。
その後、リビングに向かうと昼ご飯を食べる。
すると早速、用事が全て済んでしまった。
さて明日、大森に会うまでの膨大な時間をどう潰そうか。
若井は、ソファにごろっと寝っ転がった。
じわっと心に、 闇が広がる。
今日の大森は、なんだか変な感じだった。
大森じゃないような、でもやっぱり大森のような
若井は毎日のように面会に行っているが、その度に大森は人が変わったように性格が変動した。
例えば 子供のように良く喋ってくれると思ったら、次の日は 一言も喋らなかったり
そんなことが日常茶飯事だった。
なので若井は、その度に一喜一憂していまう。
でも、今回の大森はどう受け取ればいいんだろう。
あれは大森なんだろうか。
すごく痛かった
そう言った時の大森の表情を思い出す。
若井は、一人で眉を顰めた。
大森が痛かったのは、心の痛みなのか身体の痛みなのか。
いや、どっちもかも知れない。
若井はあの言葉が、大森が落ちた時の気持ちを言っている様に感じていた。
恐らく、藤澤もそうなんだろう。
だからこそ、若井はその意味を考えてしまった。
“何も気づいてくれない” と思わせてしまってるのだろうか
これでも、精一杯 寄り添っているつもりだ。
でも、まだ何か足りないのかもしれない。
大森の大切なサインを見落としているのかもしれない。
そう思うと、急激に気分が落ち込んで行った。
若井は、急かされる様に起き上がるとクローゼットに向かった。
この問に答えはない
もう、出かけてしまおう
若井はクローゼットから、再び洋服を取り出すと着替えた。
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若井が、自宅に帰ってきたのは深夜12時を回った頃だった。
自宅を出た後、寂しさを紛らわすように 手当り次第の友人に連絡した。
結果、5人程度が集まると一緒にお酒を飲んだ。
浴びるように飲んだつもりだが、今日は意外と眠くならなかった。
ライブ終わりの打ち上げでは、少しの量でも眠くなるのに
若井はベッドに倒れ込むように、寝っ転がった。
するとゆっくりと、睡魔がやってくる。
若井は、眠れそうな事にほっとしながらそれに身体を預けた。
意識が溶ける様に、落ちていった。
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再び、意識が浮き上がると耳につく音がする。
なんだ
瞳を薄く開けると、スマホが光っている。
いつもより何倍も明るく感じた。
右手でスマホを取ると、着信がかかって来ていた。
相手の名前をみて飛び上がる。
“涼ちゃん”
若井は今の時刻を確認した。
スマホには夜中の3時と表示されている。
藤澤がこんな夜中に電話を掛けるなんて珍しい。
若井は、急いで応答した。
「おつかれ…どうした?」
一応気を使ったが、やはり寝起きの声が出てしまった。
相手の返答を待つが、微かなホワイトノイズが鳴るだけで藤澤の声は聞こえない。
若井は数秒待ったが、沈黙が続くので電話の向こうに問いかけた。
「…涼ちゃん?」
若井が問いかけても、しばらく沈黙が続く。
若井の中の不安が、急激に膨れ上がった時に藤澤の声が聞こえた。
『…ごめん、起こしたよね』
藤澤の声がいつものより、か細い。
若井はすぐ答えた。
「いや、全然大丈夫
もう、十分寝たから」
すると再び、沈黙が流れる。
若井は、何も言わずに藤澤の言葉を待った。
10秒ほど経っただろうか。
藤澤が再び、話す。
『…なんか』
藤澤がそういうと、こくっと唾を飲み込む音がする。
再び数秒の間が、開いた。
『…なんかさ…あはは、』
藤澤が、乾いた声で笑った。
若井は立ち上がると聞く。
「涼ちゃん、今どこ」
藤澤の泣きそうな声が聞こえる。
『…家』
若井は頷く
「今から行くから
絶対動かないで、約束できる?」
藤澤が向こう側で答える。
『ち、違くて…』
若井は、藤澤の話を聞きながら出かける準備をする。
『…来て欲しいとか、じゃ…』
若井は、靴を履きながら聞く。
「俺が行ったら、やだ?」
藤澤が向こう側で黙る。
若井はドアノブを掴んだまま相手の返答を待つ。
『もちろん…そんな訳…ないけど』
若井は、 勢いよくドアノブを開けながら答えた。
「分かった、 じゃあ向かうから」
藤澤が慌てた様子で言う。
『い、いやそれは申し訳ないっていうか…
ちょっと声聞きたいな…ってくらいで』
若井はエレベーターに乗り込む。
「俺は声だけじゃ嫌だけど」
藤澤が息を飲む雰囲気がした。
若井は続ける。
「俺は会いたい、だめ?」
再び、少し沈黙が流れる。
若井は何も言わず待っていると、藤澤の震える声がした。
『…俺も…会いたい』
藤澤が鼻を啜る音がすると、続けて絞り出すように言った。
『…もう限界かも』
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若井はタクシーに乗り込むと藤澤の自宅に向かった。
その間も、電話で藤澤に声をかけ続ける。
会話だけを聞いてた運転手は、電話相手が恋人だと思っていた。
それくらい若井は、藤澤に愛情を伝え続けた。
藤澤の自宅の前に、タクシーが到着する。
若井はぺこりと頭を下げながら、急いで降りた。
「いま、家の前着いたから」
若井が言うと、藤澤の照れくさそうな声がする。
『本当に…来てくれたんだ 』
若井は笑うと言う。
「そりゃそうでしょ」
若井は扉の前に向かうと、タイミング良く扉が開いた。
家の中から、ひょいと藤澤が顔を出す。
藤澤は 若井を見ると、気まずそうな
しかし、安心もしたような表情をした。
その顔をみて、若井はやっぱり来て良かったと心から思う。
若井は自宅の中に入ると、扉の鍵を閉める。
藤澤が申し訳なさそうに言う。
「…夜中に、ごめん」
藤澤は そわそわと自分の指を触っていたが、若井に腕を引っ張られた。
「う、わ」
藤澤が驚いて、声をあげる。
ぼふっと胸の中に顔を埋めると、若井の腕が身体を抱きしめた。
若井の真剣な声が耳元でする。
「もっと早く電話してよ」
藤澤は胸の中から若井を見上げた。
若井も藤澤を見つめる。
「俺、涼ちゃんの事は絶対守るから」
藤澤の胸が苦しくなる。
大森の事は守れなかったと言っているように感じた。
藤澤も若井の背中に腕をまわす。
ぎゅっと、上着を掴むと呟いた。
「来てくれて嬉しい…ありがと 」
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二人はリビングに向かうと、ソファーに横並びで座った。
若井が、藤澤の手を握りながら言う。
「ゲームでもする?」
藤澤は、手元を見ながら首を振る。
「全然…集中できなかった」
若井は頷く。
「そっか」
しばらく沈黙が流れる。
その間も若井は 藤澤の手のひらを、指で撫で続けた。
藤澤が再び口を開く。
「…まぁ、でも…ゲームやろっか」
若井は藤澤の表情を見る。
藤澤が眉を顰めると、ぼそっと呟く。
「他に…やることもないし」
若井は 藤澤の注意を引き寄せるように、手を握った。
藤澤が顔をあげると若井を見つめる。
視線がぶつかると 藤澤の瞳が、一瞬遠くを見つめる。
そして、泣きそうな顔をして目逸らした。
若井が名前を呼ぶ。
「…涼ちゃん」
藤澤は聞こえなかったように、繰り返した。
「…ゲーム、やろう」
若井は藤澤の腕を引っ張ると、顔を寄せた。
若井の唇が頬に触れる。
藤澤が、息を飲むと若井の胸を押した。
「だ、だめ 」
若井は、すっと離れると言う。
「…ごめん」
再び、沈黙が空間に流れた。
時計の針の音だけが、部屋に響く。
若井は口を開くと沈黙を破る。
「なんか飲み物…飲もうか」
そう言って立ち上がるが、藤澤が若井の腕を離さない。
若井も腕を振り払えずに、前を見つめた。
藤澤の声が後ろからする。
「…朝になったら、」
若井は、ゆっくりと振り返る。
藤澤が瞳を潤ませながら、若井を見つめた。
「朝になったら…忘れるって、約束するから」
若井の呼吸が、だんだんと早くなる。
藤澤の瞳の縁が潤んでいく。
「…だから」
若井は 藤澤に身体を寄せると、ぐっと抱きしめた。
そして、耳ともで囁く。
「いいから、今は俺の事だけ考えろ」
そういうと、藤澤の唇にキスをした。
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二人はソファーに倒れ込みながら、お互いの舌を絡ませた。
若井は上着の中に手を入れると、藤澤の腰を撫でる。
すると、藤澤が甘い吐息を吐いた。
若井は すぐに上着を脱がせると、藤澤のお腹にキスをした。
藤澤が、ふるふると震える。
次は腰に、そして胸に刺激を与えていく。
すると、藤澤が甘えるように言う。
「若井…早く、したい」
若井は顔をあげると頷いた。
藤澤がズボンと下着を脱ぐ。
若井も藤澤だけ裸にさせるわけは行かないと、自分も服を全て脱いだ。
すると藤澤が、若井の膝の上に乗ってきた。
若井は驚いて、藤澤を見る。
藤澤は何かに急かされるように、下の先端を後ろに当てた。
さすがに、若井は止める。
「…涼ちゃん、慣らしてからにしよ」
しかし、藤澤は首を振る。
「大丈夫」
だが、このままではこの行為が自傷の様な物なってしまう。
若井は藤澤の肩を掴むと、ゆっくりと押し倒してソファーに寝かせた。
藤澤に顔を寄せて、キスをすると 優しく言う。
「涼ちゃん… 俺、涼ちゃんの事
大切にしたいから、 お願い」
藤澤が苦しそうに眉を顰めて、若井を見る。
そして、呟くように言った。
「今…そういうのいらない」
若井は驚いて息を飲む。
藤澤が、涙を堪えるように瞬きをする。
「もう何も…考えたくない
優しくしないで、迷っちゃうから 」
若井の心が、ぎゅっとなる。
こう言われても、優しくするのが真っ当なのだろうか。
それとも、そう言う事ならと自分の欲望をぶつけるべきなのか。
どちらにしろ、若井にはきつい役回りだ。
今の藤澤にとって、この行為は大森を忘れるための行為なんだろう。
そう思うと、心の底がチクッと痛んだ。
それでも若井は、藤澤の頬を撫でると言う。
「分かった… でもローションは使わないと
持ってくるね?」
藤澤がこくっと頷いた。
若井はローションの場所を確認する。
「ローション…ベット横の棚?」
再び、藤澤が頷いたので 若井はそれを取りに向かった。
若井はローションを手に持って、リビングに戻る。
すると、藤澤は天井をぼーっと見つめていた。
その表情が大森の電源が切れた時の表情に似ていて、ひやっとする。
若井が声をかけようとすると、藤澤の瞳から涙が零れる。
若井は立ち尽くしたまま、藤澤を見つめた。
藤澤が、天井を見つめながら呟く。
「5階から飛ぶって、どんな気持ちなんだろ」
藤澤の言葉で、 心の底にある泥が巻き上がる。
藤澤は、鼻を啜ると自分の涙を拭った。
「…それってさ」
藤澤の眉が下がると、苦しそうに息を吐いた。
「元貴…全部捨てたって事だよね」
藤澤の喉から嗚咽が漏れる。
「わ、若井とか…俺の事も、 捨てたのかな
俺が…駄目だからかな」
若井の脳が、ぐらっと揺れる。
藤澤は耐えられず、顔を覆うと震えた声で話す。
「な、なんか…そう、思ったら
辛いなぁって」
ソファーに駆け寄ると寝っ転がっている、藤澤の上に馬乗りになる。
藤澤の視線が、 ふらふらと揺れながら若井を見つめた。
若井は顎を掴むと、噛み付くようにキスをした。
コメント
15件
みんな辛いのに助け合ってるのやっぱ泣ける😭😭もっくんもどんだけ辛かったのか、、 文章でここまで物語が成立するの凄いです🥹🥹 続き楽しみにしてます!!
ぴりちゃ続きありがとう✨ 皆、辛いよ😭大丈夫かな?って心配になる、、、 続き楽しみっ!!
うわあありょうちゃんまでこんなになっちゃって、、、😭😭 若井さんも辛いだろうし、でも涼ちゃんのサポートもしなきゃだし、、 大森さんは大森さんでめちゃめちゃ大変だし、、😭 今回のお話も最高です!! ゆっくり無理せず更新お願いします🙇♀️