「まさか私情でこうやって会ってくれるとは思わなかったよカレンさん。」
「大人はあなた達ほど暇じゃないんだけど?」
「俺らだって忙しいぜ?大学のレポートとかな」
「まぁ、僕はフリーターだから比較的暇だけどね。」
「それで?呼び出したって言うことはこんなクソみたいな日常会話をしに来たんじゃないでしょ?」
「それはもちろん。じゃあ場所を移そうか。」
「…随分と洒落たカフェを知ってるのね?」
「俺の行きつけのカフェで、マスターとは仲良しだからこっちの話の内容についても聞こえたとしても誰にも喋らないよ。」
「雰囲気のあるカフェだけど客足は少なくまさしく隠れた名店って感じね。それで?読んだ理由は何かしら?」
「天使創造計画について少し情報が手に入りました。」
「天使創造計画について?」
「まず結論から話すと天使創造計画とはランダムで手に入るスキルのうち隠されたスキル『覚醒』を意図的に解放し手に入れる計画の事だったみたいだ。暴れていた天使達はその計画によって生み出された『覚醒』を持ってる戦姫達なんだとさ」
「じゃあその天使達を生み出した理由はなんなの?『覚醒』を獲得することで何が戦姫やそのプレイヤーに対して利益を得るものになるの?」
「その辺は俺らも分からないが、パッと思いつくのはやはり戦姫大戦自体をより広めるために覚醒を公開しようと思ったんじゃないのか?」
「実際私はその『覚醒』て言うのをなんか持っててそれのお陰で格上と渡り合えた。もちろん覚醒を使うとその戦闘で消費するENや使ったあとの倦怠感はとんでもないけどね。」
「詰まるところ伸び悩んでる人達を救済する為の措置として研究されてたって訳ね。」
「その研究の名前が天使創造計画だったんだろう。昔暴れた天使達もいわゆる試作品だろうしな。ただ、例外として覚醒を持った戦姫が天狗になってあの事件を起こしたって訳なんだが…。」
「他にはなにかないの?」
「あとはそうだなぁ…。天使はそれぞれ五体いてバランス型、物理とビームの近距離型、物理とビームの遠距離型の計五体がいた事と、その天使を止めるために『悪魔』と呼ばれた戦姫もおりその悪魔達が天使を止め、天使とともに悪魔は姿を消したとかだな。」
「天使の他に悪魔なんて呼ばれてる戦姫がいたとはね…。これも知りえなかった情報よ。」
「あとは軽いオマケ的なのだけどリナの持つ戦姫カナが狙われた理由が今話した天使と関係があると思われてたということだ。その中で聞いたんだが天使を作る過程で大本となった戦姫がおり、その戦姫の二つ名は『堕天使』と呼ばれていたらしい。彼女もまた覚醒を使えたらしいので天使なき現代で覚醒を持ち得るのはその堕天使だけだと思ったらしいのだが、それも当てが外れカナは『第三の覚醒を持つ戦姫』ということらしい。」
「どんどん出てくるわね世に出てない謎が…。」
「僕もカナについて知りたいからそのヒントになると思って天使創造計画を追ってるんだ。」
「なるほどね、まだまだ知りたいことはあるけどそれが知れただけマシか…。私はそれを元にもう一回資料を漁ってみる。役立つ情報が手に入ったらアンタらにも教えてあげる。本当はこんなとこ許されないんだけどね?」
「そういうリスクを犯してまで協力してくれるのマジで助かります。」
「……まぁ、私自身本部にちょっと不信感というかがあるからね。」
「不信感、か。」
「それじゃあこの後の僕らどうしようか?カレンさんがその情報を洗ってくれてる間のやること僕たち無いんだけど?」
「なら丁度いいわ。こっちのお願いをひとつ聞いてくれるかしら?」
「お願い、ですか?」
「外部の人間に頼むのはご法度なんだけど今うちの課はとある事件というかを追っててね。それの協力よ。」
「ものによりますよ?学生とかで何とかなるものなら引き受けますけど…。」
「別に難題をぶつけるわけじゃないわよ。実はここ最近素性の分からない白衣の人間がバトルスポットに現れてはその機械を調べて何事も無かったかのように去る、そういう事があるんだ。」
「点検の人…て訳でもないのか。白衣を着た作業員なんているわけないもんな。」
「その人物は各所で現れているがいずれも同一人物だとされている。」
「特定の場所を中心と言うよりはとにかくバトルスポットがあるとこに現れるって感じなんだね。」
「なので、もしその人を見かけたらそれとなく話してみて情報を引き出して欲しいの。」
「まぁ、そのくらいならやってやるか。」
「でも決してあんたらの後ろに警察の影があると悟らせないでちょうだい。」
「善処はする。でも、相手もそんな事するくらいだから察しがいいと思うよ。」
「その時はその時よ。とにかく彼について偶然居合わせたならそれとなく情報をちょうだい。」
「分かりました。それじゃあ僕達は今日はこの辺で失礼しますね。」
「えぇ、私は少しあなた達から貰った情報をまとめたりすることにするわ。」
二人が店を後にしたあと今聞いた話をノートパソコンにメモをし情報を整理する。そんな時カフェのマスターがコーヒーを持ってきてくれ後対面に腰かける。
「このコーヒーは私からの奢りです。」
「あら、新参者の私に対して甘い対応して下さるのねマスター?」
「アキトさんのお連れの方ですからむしろこれくらいさせて頂かないと私が彼に怒られてしまいます。」
「マスターと彼の関係値は?」
「ただのお店の常連客と経営者ですよ。」
「流石にまだそこまで踏み込んだことは聞かせてくれないのね?」
「いえいえ、本当にその関係値ですから。」
「まぁ、今はそういう事にしておくわ。彼の話を信じてここならさっきのような話も外部に情報が出ないらしいし定期的にここに来てこういった事務的なことをさせてもらっても宜しくて?」
「えぇ構いませんよ。それより盗み聞きするつもりはなかったのですが先程話していた天使創造計画とやらについてですが、ひとつ私に心当たりがあることがございまして。」
「天使創造計画についてあなたが?」
「こんなお店を構えてるものですから不思議と色んな方との縁がありましてね、今はもうほとんど姿を現しませんが私のお店の常連様が居たんですよ。その人は毎回必ず閉店間際に居らして閉店後も私のお店に居たいわゆる変わり者でした。」
「迷惑なお客様とは思わなかったの?」
「そうですねぇ。最初はそう感じましたが彼のおかげでこのお店でも戦姫大戦が出来るようになりましたから今では彼にとても感謝してます。」
「そんな人がこのお店にいたんですね。」
「その彼がある日私に相談があると話してきまして、その内容というのが『天使創造計画』についての相談でした。」
「!?その口振りだとその人って天使創造計画を進めていたうちの一人ってことじゃ!?」
「だと思われます。では、そんな彼が私に対してどう言った相談をしたのかという話ですが、何と彼は『天使創造計画を白紙に戻したい』そう話していたのです。」
「どういうこと?さっきの話では天使創造計画は力の差を埋めるためのものだと…。」
「その辺りは私も聞くことは叶いませんでした。何せ当時の彼はとても深刻そうな顔をしていたので深い部分に触れるのはどうかと思いましてね」
「天使創造計画を反対する者も居たってことですか……。」
「彼についてはこれ以上私からも話すことはできません。彼の名や勤めていた会社などもお聞きしたことはありますがそこは個人情報ですので。」
「まぁそれはそうですね。とはいえ天使創造計画について新たな情報を下さりありがとうございます!」
「いえいえ、天使創造計画なんて懐かしい言葉を耳にして私ももう一度彼に会いたくなりましたからね。もしかするとその天使創造計画を紐解くと彼に近づけるのならば私も微力ながらお力添えはしますのでどうぞ頼ってください。」
「ならお言葉に甘えようかしら。」