元貴 side …
「…元貴、どこにも行かないで」
そう呟く若井の表情は、どこか悲しそうな、苦しそうな表情だった。この言葉はどういう意味を持っているのだろうか。
「…なんで、?」
俺はそう呟く若井に問いかけた。若井は眉間に皺を寄せ、難しそうな表情して話した。
「あれは俺じゃない」
「…は、?」
若井の言葉が理解できなかった。若井が若井じゃない?意味がわからない。そもそもこれは俺が見てる夢だ。全てフィクションに決まってる。
「…ごめん、信じれないや」
少し俯きながら若井にそう告げた。すると若井は焦ったように俺の肩を強く掴んできた。
「ダメなんだよ!元貴!あいつから離れて!!」
若井の瞳に嘘はなく、ただただ真剣さだけが伝わってきた。
「…ねぇ、若井」
俺の肩を掴む若井の手を握る。若井は少し困惑した表情で俺の事を見つめる。
「俺…もうどこからどこまで若井のことを信じればいいのか、わかんないッ」
信じたかった。俺を殴るあの若井はホンモノじゃないって、信じたかった。でも、じゃあ今目の前にいる若井は何?俺の理想が作り出したもの、今目の前にいる若井こそがニセモノなんじゃないのか?
「元貴ッ!あいつは俺じゃないんだよッ、!!!」
若井は必死に俺の体を揺らす。なんだか全てがもどかしくて、面倒くさくて、苛立ちから少し声を荒らげた。
「じゃあ誰なんだよッ、!!!!」
若井はビクッと目を見開いて黙り込んでしまった。白い謎の空間には、2人の荒くなった息が小さく重く響く。
「…全部わかんないんだよッ、泣俺を殴る若井も、今目の前にいる若井も、誰を信じればいいのッ…?泣」
今まで溜め込んでいた若井に対する不満や怒り、悲しみ、全てが涙となって溢れ出た。ひたすら言葉にならない思いを叫び、泣いた。まるで、ぐずる赤子のように。
「…ごめん、元貴」
若井は俺の肩を掴んだまま、俯き呟いた。俺には若井の謝罪の意味が分からない。俺が知ってた若井ってなんだっけ。俺の好きな若井ってなんだっけ。
「…ねぇッ、じゃあ俺を殴った若井は、誰なのッ、?泣」
俯いていた若井が顔を上げる。若井は深呼吸をしてから口を動かした。
「✕✕✕」
「…ぇ、?」
まるで砂嵐がかかったかのように、若井の言葉が聞こえなくなった。次の瞬間、突然立ちくらみのように頭がぐわんっと揺れる感覚がした。
「…ぅ゛ッ、ぁあ゛ッ…、?」
目の前が歪んでいく。体に上手く力が入らない。ついに立つことが出来なくなり、俺はその場に倒れ込み、意識を失った。
コメント
2件
一体誰なんだろな…🤔気になる