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#4 消えない声が夜を駆けるとき
町の外れにある古い団地には、不思議な噂があった。
夜中に子どもの声が聞こえるというのだ。
「だいじょうぶだよ、ピーポー」
「すぐ来るからね、ピーポー」
その声を聞いた人は、必ず誰かを失う——。
僕がその団地に引っ越してきたのは、妹が行方不明になってから一週間後だった。警察は「家出の可能性が高い」と言ったが、妹は約束を破る子じゃない。
団地の階段で、僕はその子に出会った。
赤いワンピースを着た、妹と同じくらいの年の女の子。
「おにいちゃん、さがしてるの?」
「……妹を。知らない?」
少女はにこっと笑った。
「しってるよ、ピーポー」
「ちゃんと、まもってるからね、ピーポー」
なぜか語尾が気になったが、優しそうな笑顔にそれ以上聞けなかった。
その夜、僕は夢を見た。
暗い部屋。床に座る妹。
その隣で、あの少女が手を握っている。
「だいじょうぶ、ピーポー」
「おやくそく、したもんね、ピーポー」
目が覚めた瞬間、外から音がした。
――ピーポー、ピーポー。
サイレンだった。
団地の前に、救急車が止まっている。
翌朝、警察から連絡が来た。
団地の空き部屋で、妹が見つかったと。
低体温症だったという。
暖房は壊れ、窓は開いたまま。
現場写真を見た僕は、息を呑んだ。
妹は、誰かと手をつないだままの姿勢で、凍えていた。
その指の跡は、小さく、冷たく、
まるで——
あの少女のものだった。
後日、団地の管理人に聞いた。
赤いワンピースの子どもがいないか、と。
「ああ……その子か」
「昔、火事で亡くなったのよ」
「寒い寒いって泣いててね」
「救急車が来るまで、一人だった」
最後に残っていた記録には、こう書かれていた。
――発見時、声を発していた。
「だいじょうぶだよ、ピーポー」
「すぐ来るからね、ピーポー」
その声を、
誰かに聞いてほしかっただけなのに。
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