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夏休み明けの二学期始業式中、俺は今日の行動予定を復習していた。
朝の登校時、HR五分前に教室に入った時に何人かが俺を見た。
俺はそれを特に気にした風も無く自分の席に着き、耳だけでクラスの様子を窺った。
クラス内の話題の中から、「冒険者」「小野麗尾」の単語をいくつか拾い心の中でイヤッホオオオオオと叫ぶ。
意図した訳ではないが夏休み中の召喚モンスター公開が話題になったのだろう。
一学期と夏休みを代償とした自己研鑽は早くもここに実を結んだ事を確信したのだ。
社会的なステータスに裏打ちされた小野麗尾株の急上昇。
クラスカーストとか心底どうでもいいけど女子(影響)力の大幅アップが確認できれば彼女持ちのリア充高校生活はもう目の前に……(恍惚
短い時間でかつてないほどテンションが上がった。顔には出てなかったと思う。頑張った。
始業式が終わり、帰りのHR終了後。ほとんどのクラスメイトが帰らずに少し残ってダベる様子。
ここからが本番だ。エサは巻き終えている。あとは仕掛けを動かすだけ……!
俺に声が掛けられる。今年のクラスは別だが小学校からの友達二人、三地 池流(さんじ いける)と二路 鍵留(にじ かぎる)だ。
こいつらとの会話の流れで冒険者の話を広げれば、噂と併せて俺に話しかけようとする女子が出るはず。
召喚モンスターの話をきっかけに、そこから俺の将来性をアピールしていけば素敵!付き合って!な感じにだねチミィ!
「よう守、久しぶり。夏休み中に冒険者になったんだって?」
キタ!
「ああ池流、久しぶり。正確に言やぁ準備は一学期中に進めていたんだけどな。なったのは夏休み直後」
「それでここしばらくは付き合いが悪かったでござるか。守殿も水臭いでござるなー」
「はっはっは 悪い悪い。冒険者になってから毎日忙しかったもんでな。せっかくだから夏休み明けにビックリさせてやろうと思ってさ」
正しくは、確実にこの場で会話のネタにするためなんだが。本当にスマン。
「お詫びと言っちゃあ何だが今日は時間あるし答えられる事なら何でも聞いてくれよ」
作戦開始!
「お。この反応、何か面白そうな話を用意していると見たぜ」
「是非聞きたいでゴザルよ」
「よしそれじゃあ……」
「ただ、ここじゃ何だから場所を移さね?」
!? 池流! 何を言い出す!
「そうでござるな。どっかクーラーの聞いているところに移動するのか良かろうと存じますぞー」
鍵留、お前もか……!?
「ん? いや」
別に、と続けようとした時。
鍵留が左手を腰に当てながら右手に持ったハンドタオルで汗を拭いていた。
中学の時に使っていたサインだ。緊急回避を知らせる時用の。
「そうだな、その方がいっか。よし、帰ろうぜ」
二人に同意する。作戦中断は本当に惜しいが、この二人の用件なら天秤に掛けるまでも無い。
何人かのクラスメイトの視線を感じながら、三人で教室を出る。
「……で、場所は?」
「他の生徒に聞かれない場所が良いでござるな」
「そうだな、”あの時”と同じ感じで」
「おけ。んじゃ俺の家で良いかい?」
「らじゃ」
「おけでござる」
帰宅しながら三人で池流と鍵留の夏休みの話を聞く。
高校に入ってから付き合いが減っていたから何か懐かしい。
鍵留は毎年恒例の夏の祭典に二泊三日の出張をした模様。
夏休み前に比べて腹回りがかなり減っているが、毎年の事である。よく病院に担ぎ込まれないなと本気で思う。
「素人ではないのですから熱中症対策は万全に備えておりますぞ」
とは本人の弁。十五歳であそこの玄人とかいろんな意味で大丈夫かね?
高校に入ってバイトを始めて軍資金が増えて今年は大漁だったとか。幸厚そうでよきかなよきかな。
池流の方は鍵留に付き合って向こうに行って一日だけゲーム関係を覗き、あとの二日は秋覇原かと思いきや、
こやつ何とその二日で絵ノ島に足を伸ばしてナンパに挑戦したというのだ。ブレイブ……! おお、圧倒的ブレイブァー……!
戦果ゼロだったけどな、と笑ってのたまわれた大先生のお姿が眩しい。一見隠れオタキスト風に見えて実はアウトドア志向とオタク志向のハイブリットな池流の死力を尽くしたその姿を誰が笑えようか。
「いや、お前ほどじゃないよ」
またまた先生、ご謙遜を。
じゃれあいながら帰宅。
「ただいまー」
「おかえり守。あら、池流くんに鍵留くんも久しぶりね。いらっしゃい」
「おじゃまします」
「ご無沙汰しておりますぞ」
「母さん、飲み物は俺が用意するから良いよ。ちょっと内緒話するから部屋には来ないでくれると助かるよ」
「はいはい、お昼は二人ともどうするの? 家で食べていく?」
「「昼は一旦帰りますんでお構いなく」ですぞ」
部屋に入る。鍵も念のため掛けておく。外から見えにくいように、窓越しの景色を確認する。
我が家に窓伝いに遣り取りできるお隣さんはいない。大変残念な事に、いない。
外で誰かが話を盗み聞きしようとする不審人物がいないことを確認。
むしろ今に限って言えば俺の方が不審人物である。
「クリア」
二人に伝える。
「で、教室の件は一体なんだ?」
もう使う事は多分無いだろうなぁと思っていたサインを使ったのだ。冗談の類ではないだろう。
あれは、俺達が中学生の時に生存戦略のために生み出したサインの一つだ。
「あー、悪いな。あの場で守が自分の事っていうか冒険者の話しようとしていたじゃん」
「正直、拙者達はマズイと思ったので止めに入ったのでござるよ」
少し考える。止められた事に腹が立たないわけでは無いのだが、二人は二人なりの考えがあってそうしようとしたのだろう。
意見の擦り合わせと、状況の確認を兼ねて二人には全て話をしておくべきだろう。
「二人には、この一言で大体分かると思うが…… ぶっちゃけ、俺は彼女が欲しい」
「そうだよな、そうだろうと思っていた。中学の時もそれであんな事になったしな」
「守殿が何か仕出かすなら動機はそれだろうと推測していたでゴザルよ」
動機を推測した上でアレか。二人は何を知っていたというのだ?
「俺が聞きたいのは一つ。何があった?」
二人は顔を見合わせて、池流が録音機を取り出した。
「再生はしない。結論だけ言うと、お前のクラスのカースト大好き連中は男女どっちもガンだ。お前に稼ぎがあれば上手く取り込んで寄生する気マンマンだったぞ。」
「守殿には申し訳ないですが、拙者はまだ調べていない他人は到底信用できないものですので…… はい、勝手な事をして申し訳ないです」
「そっかー…… いや、まずは二人ともありがとう。中学卒業して高校に入れば大丈夫だなんて、俺の気が抜けていただけだ。手間掛けさせて済まない。本当に、ありがとう」
いやいやいや、いやいやいや……
何度か、いや合戦を繰り返した後。
「あー…… 失敗したなぁ。そっか、そういう奴等がいたのかー……」
どないしょ。こうなると今現在はクラス内恋愛が絶望的なようだ。クラスメイトに彼女との仲をからかわれると言う青春の甘酸っぱさをフィーリングハートするイベントフラグが無くなった。
「ていうか、お前がまだ恋愛に興味持っていたのが意外だったんだが」
「ですな」
「何を言い出すかね、チミらは。俺はまだ真っ当な恋愛を諦めてはいないぞ。自分を信じて…… うん。しんじ、て行動すれば俺にもきっと相手の事を思いやる事のできる優しさを心に持った真っ当な彼女が出来ると信じてだね」
「プギャ――m9(^Д^)――!! 」
「丸焼きにするぞ鍵留ゥ!」
「守、落ち着け(笑」
まったく失礼やな!
「で、守殿。カースト至上主義者共はどうしますか?」
鍵留が真面目に聞いてくる。
「結論:どうもしない、関わらない、向こうがじゃれ付く程度なら放置、実害出そうなら対処」
「おけ」
「らじゃ」
そういう事になった。
そんなもんでいい。
もう、どうでもいい奴等だから。
「で、だ。守」
「ですな守殿」
ロクでもない予感。
「「モン娘ってどーよ?」」
ほら来たー!
「シラネーよ。家のモンスに女の子なんて」
心の中からマリィさんの強烈な視線が! 見えないのに見られているって! ああ、窓に!窓に!
「またまたー 隠し事をするとお主の為に為らぬでござるよ?」(ガチトーン
「守、俺達は心の友と書いてシンユウって読む仲だよな? シンユウニカクシゴトナンテアルワケナイヨナ?」(極めて平坦に
おお、神よ。今この場に救いは無いのですか!
《ありませんよ?》
マリィさん、貴女が神か。そうか、神だったのか……
「仕方が無いなぁ、そんなに見たいのならー」
俺は泣いてBASHOKUを斬る心境で親友二人を神の生贄に差し出した。
人は所詮、神の操り人形なんや。許して、許してクレメンス……
なお、この後俺を含めた3人とも纏めて神罰を受けたのは語るまでもなかっただろうか。