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モウセンゴケ、所謂(いわゆる)ハエトリソウの仲間である。
支配者(バシリアス)の効果を乗せた蹂躙(カリンマ)の命令に従って、地下茎を限界越えで伸ばしたのであろう、元より土塊(つちくれ)に生息していた見事に葉とピンクの粘毛(ねんもう)を広げていた数株は腐り落ち、代わって数万の小さな幼い苔達が僅か(わずか)に周辺の地面から顔を出しているのであった。
「ププッ! 笑わさないでよアヴァドン! こんな小さな苔が何の攻撃になると言うのよ? アンタも随分『馬鹿』になった様ね、それもその太った聖女のせいなんでしょ? 今、目を覚ましてあげるわ! お兄ちゃん、ケヒヒヒ、今度こそヤルヒボール(太陽神)としての務めに励む事ねぇ、ケヒヒヒヒィ」
「モラクス兄者!」
「『強襲(エピドロミ)』『変形(アラージ)』『限界突破(オーヴァーリミット)』」
モラクスの周囲にお馴染みの黒々とした魔力の球体が浮かぶ、いつもより一つ一つは小さかった、いや小指の先ほどの極小であったが、驚いたのはその個数であった。
優に万を超える魔力の球がモラクスを囲むように浮遊していたのであった。
「『暴爪弾(アサルトバレット)』」
「ヒっ!」
モラクスが口にした瞬間、アルテミスは人を馬鹿にしたようなポージングを止めて、思わず頭を抱えて蹲る(うずくまる)のであった。
だが、モラクスの周囲の球体はアルテミスやその身を構成した蝿達に襲い掛かることは無く、周辺の地面を打ち抉り(えぐり)続けていたのである。
数秒後、全ての弾が自身になんら影響を与えていない事を確認したアルテミスは姿勢を尊大な物に戻し、声を張って自身の次兄に向けて言い放ったのであった。
「け、ケヒヒヒヒぃ! 一発も当たらないじゃなーい! ああ、モラクス兄上も衰えた物ねぇ~! 一瞬驚いたけれど、まさかこれ程精度を失っているとはねぇ~、可哀そうだわぁ! ね、そう思うでしょ? お姉ちゃん!」
言葉を向けられたラマシュトゥは一切相手にしないままで、スキル発動の言葉を叫ぶのである。
「『強靭治癒(エニシァシ)』」
「は?」
アルテミスの疑問の声に答える者は一人も居らず、ラマシュトゥがスキルを施したモウセンゴケ、一瞬前にモラクスの弾丸に撃ち抜かれたハエトリソウ達が凶悪な進化を遂げたのであった。
先程迄、地面からチョコンと数ミリの幼体を覗かせていた苔ちゃん達は、今や二メートル程迄大きくなって、真っピンクの粘毛もそれぞれ四十センチ程に伸ばしてウネウネ蠢き捲り、羽虫を惹き付ける為の物だろうか、ドリアンみたいな強烈且つ濃厚な甘い香り、フェロモンを周囲に漂わせていたのである、それも余裕で万を超えるのだ。 ※大事な事なので二回目です。
ポワァ~ン~♪
蝿用だろうに人間である(筈の)善悪やコユキ迄うっかり惹き付けられそうになってしまう蠱惑的(こわくてき)な香りは、アルテミスを構成していた蝿達から冷静な判断力を奪い去った様であった。
次々と粘毛に飛び込んでいく蝿達を美味しそうにムシャムシャと咀嚼(そしゃく)しながら溶かして吸収していくモウセンゴケ(化け物バージョン)の姿は、最早植物や苔類では無く、食欲だけが突出した終末期を感じさせる狂気そのものである。
アヴァドンがニヤリとしながら言葉を発する。
「やはりな、僅かに三体の分身のみか! アジ兄者は既に八体分身を出せると言うのに…… 情けない」
元々アルテミスが居た場所には四体の十センチ程の大きな蝿が飛んでいるだけで、あの逞しいマッチョメンは消え失せていたのである。
四匹の蝿の中心をキープしていた、美しく輝く銀色の蝿から悔しそうな声が聞こえた。
「動物の扱いでは私の方が上なのにぃ! い、いつの間に植物や苔類までっ! ひ、卑怯よ! アヴァドンの癖に!」
アヴァドンは冷ややかに笑って告げた。
「幾千年経っても馬鹿な奴だ、その古代から使っている依り代が余程愚かなのだろうな、コユキ様! あの大きな銀のヤツが愚妹(ぐまい)、アルテミスお気に入りの旧世代の虫、シルバーティンバーフライです、どうぞ例のヤツ、サクッと行っておくんなましっ!」
「ヒっ!」