あれ、なんだろう? 身体がフワフワする……
おかしいな? 確か私は実家の田植えの手伝いをバックレて、近くの駄菓子屋でキャベツ二郎を食べていたはずじゃ……
「てか、マジで軽いな――安い駄菓子ばっか食ってないで、ちゃんと米と肉を食え」
大きなお世話よっ! ひと袋、税込み24円というコスパ最高のキャベツニ郎をバカにするなっ!
って、あれれ? 何でトモくんの声が、こんな近くから? しかも、身体が宙に浮いているような……
ああ、もしかして私、寝ちゃってたのか?
まあ、そうよね。実家の両親は、もう農家を辞めてるし。しかも、田んぼを売ったお金で、結構優雅な暮らししてるし。
てことは、このふわふわと天にも登る様な、嬉しい恥ずかしい感覚は何なのだろう……?
私は状況を確認すべく、薄目を開け――
「!?」
開けた薄目をすぐにキツく閉じる私。
な、なにコレ……も、もしかして、お姫様だっこ再びっ!?
ヤバッ! どうしよ!? どうしよっ!! メッチャ顔が熱いんですけど~っ!!
起きてるとか、気付かれてないよね? てか私、どこに連れて行かれるの?
突然のお姫様だっこに、動揺しまくりの私。
しかし、その至福の時間はすぐに終わりを告げてしまった。
背中に伝わる柔らかな感触と、嗅ぎ慣れた柔軟剤の香り――
そう、私が毎晩お世話になっている、使い慣れたベッドへと寝かされたのだ。
「後で、服がシワになったとか文句言うなよ――」
仰向けに横たわる私の上に、フワリと掛けられる掛け布団。
ああ、そうか……
トモくんの背中を眺めながら聞いていた、彼の面接失敗エピソード。子供の頃、毎日眺めていた懐かしい背中と、穏やかな声……
その、あまりの心地良さにウトウトとしていて、そのまま寝落ちしてしまったようだ。
そしてトモくんが、そんな私をお姫様だっこで寝室まで運んでくれたのだろう。そう、お姫様だっこでっ!
これ、大切な事なので二回言っておく。
でも、話の途中で寝落ちとか、トモくんに悪い事したなぁ……
後で、お詫び代わりに何か――
「まったく……コイツも、変にツッパってねぇで黙ってれば可愛いツラしてんのに……」
「――――――――――!?」
か、かかかわ、かわ、可愛いっ!?
なになにっ!? どゆことっ!? もしかして、まだ夢の中にいるの?
いや、夢でもいいっ! 夢の中でも、トモくんに可愛いとか言ってもらえるなんて、もうっ! 我が生涯、一片の悔いなしっ!!
「ヤバ……もう限界かも……」
げ、限界……? な、ななな、何がっ!?
「ダ、ダメだ……もうムリ……我慢できねぇ。少しだけ……少しだけならいいよな……」
が、我慢出来ないっ!? もしかして、限界ってアッチの事っ!?
いやいやいやっ! 別にダメって言うワケじゃないよっ! むしろ、少しなんて言わずに最後までっ!!
微かに聞こえる彼の息づかい……
トモくんの顔がゆっくりと近付いてくる気配に比例して、どんどんと大きく、そして早く脈打つ私の心臓。
私は目を閉じたまま顎を上げ、唇を少しだけ開いてトモくんを待ち構えた。
ああ……トモくんの為に、ずっととっておいた私のファーストキ――って!? いきなりそっちっ!?
予想に反してトモくんの顔は、私の唇ではなく胸へと押し付けられた。
お、落ち着け私……
トモくんは我慢の限界って言っていたワケだし、若い男の人は余裕がなくなると、色々と手順をすっ飛ばすって薄い本やレディコミで読んだ事がある。
私とて、実地はともかく学科の知識は充分に持っているのだ。これぐらいのイレギュラーは、臨機応変に対応して見せるっ! 何より先日の失敗を教訓に、今日は上下揃いの勝負下着。恐れる事など何ひとつないのだっ!
さあっ、バッチコイッ!!
……
…………
………………
………………って、あれ?
私の胸に顔を乗せたところで、ピタリと動かなくなったトモくん。そして、待てど暮せど、続きが始まる気配がない。
さすがにコレは、想定外だ……
状況を確認すべく、私はキツく閉じていた目を恐る恐る開いてみた。
「なっ!?」
視界に飛び込んできたあり得ない状況に、目を見開き言葉を失う私……
そしてその状況は、私が盛大に勘違いしていたという現実を、まざまざと見せ付けるモノだった。
え、え~と……
我慢の限界って、もしかして………………睡魔?
そう、そこにあったのは、ベッドサイドから私の身体の上へ上半身を突っ伏し、スヤスヤと安らかな寝息をたてるトモくんの姿……
………………
…………
……
「なんなのよっ、もおぉぉぉおおぉぉぉ~~~~っ!!」
その、屈辱的な現実を受け入れるのに要したタイムラグを経て、慟哭にも似た絶叫が六畳の寝室へ響き渡った。
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