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なんだろう、コユキはラマシュトゥに歯を見せて欲しいようである、特殊性癖の類だろうか?
とは言えノーマル属性にとっては歯を見せる事位なんでも無い事だろう。
だと言うのにラマシュトゥは全身を大蛇にクネクネさせながら、ジッと俯いて何やら考え込んだままだ。
「何よ、見せてくれないのね、口だけだったか…… ふぅ、じゃあね、永遠にバイバイ、アルパカシュトゥ――――」
「どうぞ、ご覧あれ!」
コユキの言葉が終わるのを待たずに大きく口を開けて歯を剥くラマシュトゥであった。
上下だけで無く口角を上げる事で左右にも大きく広げられた唇から覗いたその歯と歯茎は、ロバの物と酷似していたのである。
大きく四角い黒ずんだ黄色い歯がびっちりと隙間なく上下に並び、更に前方にこれでもかっ、とせり出した歯茎も口を閉じていた時の容姿からは想像できない個性的な、いや、はっきり言おう、あまりの汚らしさに幻滅させられるに十分な代物だったのである。
かなりの拗(こじ)らせたギャップ萌え嗜好(しこう)者でも、『無い』のでは無かろうか?
コユキはラマシュトゥの個性的な歯と歯茎をじっくりと観察してから口を開いた。
「なるほど聞きしに勝る代物だったわ、こりゃコンプレックス持っちゃうのも頷けるわね! それにしてもラマシュトゥちゃんたら良く見せる気になったわねー、断っても良かったのにこんなに堂々とクパァといくとはね、びっくりしちゃったわよー」
ラマシュトゥが慌てて口を閉じてコユキに返したが、その声は多分に抗議の意思が含まれた物であった。
「だ、だってコユキ様が見せなければ追放だって言ったんじゃありませんの…… だから私頑張ってお見せしたのに……」
コユキは堂々としたものだ。
「言ったけど嫌なら断れば良かったじゃないの、別にリャマシュトゥやアルパカシュトゥが追放されたって困んないでしょ? アンタ別人なんだからさ、ラマシュトゥ」
「は?」
「アタシ一度もラマシュトゥちゃんの名前で追放なんて言って無いわよ、なははは、引っ掛かったなラマシュトゥ、ってやつよ、なははは」
この言葉を聞いたラマシュトゥは人目も憚(はばか)らず涙を流し、大女の姿のままコユキに殴りかかったのである。
「もーっ! 意地悪ですわっ、コユキ様の馬鹿馬鹿馬鹿! くっ、逃げないで下さいませ、このこの、このーっ!」
「スッ!」
必死に両手を振り回してコユキに殴りかかるラマシュトゥを嘲笑うように、回避特化のデブはスッスッ、スッスッ言いながら涼しい顔で避け捲っていた、空気読んで叩かせてやればいいのに、困ったデブだ。
本堂の中を追いかけっこの様に走り回る姉とコユキの姿を横目で見ながらアルテミスは兄達とバアル、アスタロトに聞いた。
「あの、これは…… どう言う……」
いち早くコユキの肩から飛び降りていたモラクスが答えた。
「見たままだ、ここでは常に試されている、そう言う事だぞ、ルティ」
「ソソ、ナハハ」
「へ? 試される? 今のが? ますます分からないわ」
バアルが言った。
「これに善悪兄様が加わると更にカオスになるからね、怒りのスイッチがどこにあるのか掴むまでは苦労するだろうけどさ、まあ、習うより慣れろってヤツだね、頑張ってよ、ベルゼブブ♪」
「は、はあ」
「まあ、善悪は拘(こだわ)りが強い割にコユキの言いなりな所が有るからな、コユキの琴線から覚えれば良いと思うぞ、頑張れ、我やバアルも頑張ったのだ」
このアスタロトの言葉に同意する様に、周囲の兄達は何度も頷いていた。
そうこうしているとアルテミスの前に残像を吸収しながらコユキが移動して来た。
後ろからはラマシュトゥがゼーゼー息を切らしながら追いかけて来たが、普段肉体派でない彼女の足元はヨロヨロになっていて、疲労のせいだろうか、身体に絡みついていた蛇も精度を欠いているらしく色々大切なものが露出していて大変な事になっていた。
「ぜぇーぜぇー、き、決めましたわ、私、次に習得するスキルは、ぐ、神速(グリゴリ)にしましてよ、ぜぇーぜぇー」
「なはは、良いわね! 誰の挑戦でも受ける!」
このやり取りを聞いたアルテミスはハッとした表情を浮かべてコユキに聞く。
「そうだっ! コユキ様、ウチの宿六(やどろく)ってここにいるんですよね? 会えますかしら?」
「おお、そうよね、会いたいでしょうね、バックレられない様にちゃんと捕まえといたから大丈夫よ、今連れて来させるわね! おーいっ! イーチぃ! 口白連れて来てぇ!」
「はーい! 只今ぁー!」