TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

シェアするシェアする
報告する

  メリルは優雅に椅子から立ち上がると、僕のシルクハットの縁を人差し指でツン、と叩いた。


「じゃあね、マジシャンさん。お肌のケア用に薬草を買いに行かなくちゃいけなくて。……あ、そこのスープ、冷めないうちに飲んだ方がいいわよ。このお店は何十年も前から変わらず美味しい味を出してくれるの」


  彼女はひらひらと手を振りながら、雑踏の中へと消えていった。その姿が見えなくなった瞬間、ルーシーが「ぷはぁっ!」と、止めていた息を吐き出した。


「し、心臓が口から出るかと思った……。なんであんな伝説の魔女がこんなところに……」

「ルーシー、失礼だぞ。一応、肌の調子が悪いだけの繊細な女性らしいからね」

「どの口が言ってるのよ! あ、でも、スープ……本当に美味しいわ」


 毒を食らわば皿まで、ではないが、僕たちは出されたスープを飲み干した。

 ルーシーが震える手でスープ皿を置き、真剣な目で僕を覗き込んできた。


「繊細な女性、なわけないでしょ! あの人はメリル。王国中の子供がその名を聞いただけで泣き止む、『終焉の魔女』よ」

「終焉ねぇ。マジックの演目にするには、ちょっと物々しすぎる名前だな」


 僕がのん気に答えると、ルーシーは「これだから異世界人は!」と机を叩いた。


「いい? 彼女が歴史の表舞台に現れたのは約二十五年前。隣国との戦争の真っ只中だったわ。当時、劣勢だった王国に突如として現れた一人の魔女が、たった一人で敵国の軍勢を……それこそ、文字通り『塵』に変えたのよ」


 ルーシーが語る「伝説」は、僕の知る戦争映画よりもずっと凄惨なものだった。

 矢を射かけられても、剣で貫かれても、彼女は血の一滴すら流さずに微笑み、指先一つで戦場を地獄に変えたという。


「問題は、敵国を倒してくれただけならそれでよかったけど、なぜか彼女はこちらの王国の軍隊にも攻撃を加えた。被害は甚大だったって、お父さんから聞いたし、調査団の記録にもある。それからよ。彼女が『不老不死の呪い』を得たという噂が広まったのは。王国の調査団が彼女を危険因子として追跡したけれど、結局誰も手出しできなかった。だって、何をしても死なないんですもの」

「不老不死……。いったいどんなタネが」

「タネじゃないわよ! 本物の呪いなの! そんな人が、どうしてこんな田舎にいるのか……。もしかして、次の『生贄』を探しているんじゃ……。ショウ、あなた食べられちゃうかもよ!?」

「マジシャンを食べるなんて、お腹を壊すだけだと思うけどね」


 僕は笑って受け流した。


「ま、伝説の魔女様の話はこれくらいにしよう。今の僕に必要なのは、生贄の心配より、こっちの世界での暮らし方だ」


 僕は燕尾服の袖を払い、立ち上がった。

『種も仕掛けもありません』――異世界転移した天才マジシャンが手品で魔法の世界を欺く

作品ページ作品ページ
次の話を読む

この作品はいかがでしたか?

15

コメント

0

👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!

チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚