テラーノベル
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以前までは肉体なんて魂を捕らえるただの邪魔な枷としか思ってなかった。今でもそう思うことは少なくないが、一つ以前と違うことがある。自分を必要とする変わり者が増えたこと。アリウスの皆とは昔から行動を共にしてきたから分かる。しかしその大人は私たちと出会って数年も経ってないのに、あそこまでの事をした私達の事まで生徒として接する。その理由が本当に分からなかった。当番の時に聞いてみると、あの大人らしい答えが返ってきた。
ミサキ「…何で先生は、私達まで周りと対等に接するの?」
彼は面食らった顔でこう語り出す。
先生「突然だね。…まぁ、前も似た事は話したと思うよ?子供の罪は大人が背負うものなんだよ。世間から見て、君たちがどう思われようと、最後まで私は生徒の味方だからね。」
少し照れ臭そうにも見える先生を眺めて私は、この大人が如何に生徒に慕われる存在であり..また、どうしようと彼は皆平等に愛する存在と思い出される。
ミサキ「別にそんな綺麗事みたいな返答求めて無かったんだけど。」
理不尽な返答にも彼は嫌悪感の一欠片も出さない。
先生「あはは、ごめんごめん。..おっと、またこんな時間だね。私はまだここで仕事してるからさ、暗くなる前に帰ってね。」
好きな時にと言われたがまだ寮に帰りたくはなかった。無言のまま先生の隣へ座る。先生は一瞬固まったようにも見えたがすぐ朗らかな笑顔を返し私の頭を撫で返す。
ミサキ「子供扱いしないでくれない?」
そう言いながらもされるがままに頭を撫でられる。
先生「ごめんごめん。何だか道端の猫を見てる気分でさ。」
生徒によくこんな事を平気で言えるものだ。けど恐らく今こんな事を言われて嬉しくない生徒は居ないだろう。
ミサキ「それ人を馬鹿にしてる自覚ある?仮にも教師が。」
嫌味のような言葉を先生に放つ。
先生「仮に訴えられても今が幸せならそれでも良いかなって。」
先生の大きな手の感触を頭に受けながらもその場に動かない。いや..動けない。
ミサキ「はぁ…借りがあるとは言え何でもする訳じゃないんだからね。分かってる?」
先生「やっぱりいちいち生徒に触れるのは良くないかな?」
彼は苦笑いしながらそう呟く。
ミサキ「別に嫌とは言ってないけど。」
先生はパッと私の頭から手を離す。
先生「..さて、帰ろうにもこの時間だしね…うーん..良ければ途中まで送ろうか?」
ミサキ「…それが命令なら。」
そう言いながらシャーレを出た。
外は雨だった。強く吹く雨風が肌を刺す。あまりない機会の時でもこんな目に遭うとは。やはり私にはこの位がちょうど良いのかもしれない。いつも通りのような事を考えていたその時。先生は私に優しく上着を被せてきた。突然視界を失い若干混乱する。
ミサキ「…ぷはっ..何の真似?いやまぁ、有難いけど。」
彼自体も寒いはずなのに。ぽっと出の犯罪者に自分の肉体を無下にする事は、今でも少し理解し難い。
先生「その格好じゃ寒いでしょ。しばらく羽織ってなさい。」
視界を遮る先生のスーツで彼の顔は見えなかったが、恐らく今の彼は甘い..いや、ただの優しい顔をしているのだろう。
ミサキ「別に、私はいいから。そっちだって見てるだけで寒そうなんだけど…」
先生の今の姿では寒さを凌ぐ衣に成れはしないだろう。目は合わせないが、上着は返そうとする。
先生「教師が視界に入るところで生徒が寒そうにしているのを見ていられると思う?」
先生が受け取ることはなくそのまま寮へ着いた。
先生「さて…それじゃまた明日。」
ミサキ「…うん。」
軽く手を振って笑顔で振り返る彼の姿が目に入り、どこか名残惜しく思いながらも寮に入り、暗い部屋を灯し、ベッドに寝転ぶ。
ミサキ「..結局上着返してなかったな..」
まだ自分の肩に掛かったままの上着に視線を移す。今頃彼は上着を忘れた事にも気付かず..と言うか、そもそも上着はハナからこのつもりだったのか。何のために?と言う疑問も今は忘れよう。
ミサキ「…ま、そもそもこの部屋だって先生のお陰で手に入った様なものだしね..今更何言おうが..」
苦く辛い記憶が蘇る。元は自分らの撒いた種だったというのに。
エデン条約破談後
当たり前なのだが、あの件の直後から私達は多少先生に救われた身と言えども先生の居ない場ではただのテロ首謀者。そう簡単にすぐ次の私たちの住居も決まらなかった。
ミサキ「..そこをなんとか…」
大家「駄目さ。何しろテロリストの住むアパートたなんて噂が広がれば..こちらの身も危ういという物だからね。そもそも…食い扶持のない君が、家賃は払えるのかい?」
ミサキ「なっ…それは今の元手から…」
大家「ともかく、無理な物は無理だ。保証人が付く、と言うなら別だがね..」
なんの因縁かそこにたまたま先生が通りかかった。
先生「…ミサキ!?久しぶり。…あの、何か私の生徒が何か不手際を…」
大家「これはこれは..シャーレの先生では無いですか!い、いえですね実は…」
そうして事の発端まで話が済む。
先生「..なるほど…では、その保証人というのは、私に受けさせて貰えないでしょうか?」
大家「そ、そんな..先生がですか!?い、いえ構いませんが…しかし…」
先生「確かに世間体として、この子らは許されない事をしたというのでしょう。..しかし…あの件以降姿も見せず、誰に迷惑を掛けることもありません。それは例の件の前からもです、一般の方に手は出していません。そこまで踏み込んでのお願いです、この子を入居させて頂けないでしょうか…」
先生が大家さんに深々と頭を下げる。
大家「そっそんな先生..どうか頭を上げてください、分かりました、この子は入居とさせて貰いますので!」
大家さんも了承したのだ。
先生「..ありがとうございます!是非、何かありましたらお呼びください。」
そのまま先生は去っていったのだ。
大家「ハァ…噂通りとんでもないお方だった..ミサキさんだね?とりあえず…入居条件だ。これを読んでから、部屋を案内するよ。」
とまぁこんな感じで、今の部屋が手に入ったのもあの人のおかげだった。
ミサキ「それにしても…あの薄着で風邪でも引かなければいいけどね。」
そっと彼の上着を抱え眠りについた。
シャーレ執務室
先生「ふぅ..何とか帰ってこれたな…まさか雨足が更に強まるとは..軽くシャワー浴びてすぐ仮眠室行こう。」
その頃先生は丁度シャーレに戻り、久しぶりに十分な睡眠を取れると思っていた。
リン「失礼します…先生、申し訳ないのですが..この資料をなるべく急ぎで..」
青白い顔の生徒の1人、リンが部屋に入り、資料を受け取る。
先生「あ、あぁうん。そちらもお疲れ様。」
リン「ありがとうございます…では失礼します。」
先生「うわぁ…今からこの量…?いやでもリンちゃんも疲れてそうだし…やるしかないか..」
そうしてシャワーを浴びる前に体を拭いて仕事に立ち向かうのだった。
何時間が経った後、とりあえずは進行をやめにしてシャワーを浴びてもう寝ようとしていた。
先生「うっ寒…何だろう今の..凄い悪寒が…」
予想が当たっているのか分からないがひとまずシャワーをしっかり浴び、仮眠室へと向かう。扉を閉め、布団に飛び込む。
先生「疲れた…まぁ明日は予定も少ないし…当番の子に仕事はあまり要らなそうだね..う〜寒い….」
全身に何となくのダルさを抱えながら彼も眠りについた。
翌日
ミサキは鳥のさえずりで目が覚めた。
ミサキ「…似合わない目覚め。…!」
熟睡したのか時計は既に普段自分が起きる8時より大分遅かった。
ミサキ「今日当番じゃん…」
自分で気付かない楽しみを背に乗せ、準備をして寮を出た。雨は降っていないものの天気はかなり曇っており、また気温も低かった。
ミサキ「…あ、見えてきた。」
シャーレの入口に着き、執務室のチャイムを鳴らす。先生は居るはずだが返事はなかった。
ミサキ「…居ない?」
何度かノックしたがやはり返事はない。どうせ他学園の対応に追われてるのだろうと思い少し待とうと思ったが..
ミサキ「ガチャッ…?開いてる。」
ドアノブは開けっ放しのようだ。勝手に入るのは少々気が引けるが少し待たせてもらおうと部屋に入りかけた時。
ミサキ「..!?」
確かに声が聞こえた気がした。それも呻き声のような。
ミサキ「..先生?居るの?」
声は仮眠室から聞こえた。軽く何度かノックする。
ミサキ「..ごめん、入るよ。」
そうして彼女は仮眠室に入る。まず目に入ったのが
先生「..ゴホッケホッ…」
普段と比べ物にならないくらい衰弱する先生の姿だった。
ミサキ「…先生…?…ちょっと額失礼するから。…!?」
言葉にしなくても分かったのが、先生の身体の火照り。額に触れた際火傷しそうな程の熱を帯びていた。
ミサキ「なっ..昨日まであそこまで元気だったのに..何故今..」
すると少し意識の混濁する先生の視界にミサキの姿が目に入る。
先生「ぅ…ぁ…ミサキ..危ないから帰って..当番は良いから…」
ミサキはそんなこと聞いていないと言わんばかりにこう聞く。
ミサキ「…先生。少し台所と冷蔵庫の中身借りていい?」
先生「..ぇ?全然..いいよ..」
するとミサキは何も言わずその場に立ち上がり、仮眠室を早足で出ていく。ミサキが戻ってきたのは数十分後の事だった。
ミサキ「..コンコン、また失礼するよ。」
ミサキがまた仮眠室に入る。が、先程と違うところがあった。湯気の上がる小さな鍋には、お粥が入っていた。
ミサキ「..卵とお米使わせてもらったよ。..葱は買ってきた。あとこれ…私が貼るから。」
ミサキが手馴れたように先生の額に熱さまシートを貼り、頭の下に氷枕を敷く。
先生「わざわざ..ご、ごめん…」
ミサキ「謝るくらいなら最初から無茶しないで欲しいんだけど。」
先生「そ、そうだね…」
そのまま先生がお粥を食べ進め、時間が経ち、食べ終わる。
先生「ご馳走様でした…」
ミサキ「食欲はあるんだ。…まぁそれはいいか..最近の予定は?..今週の。」
先生が少し迷ったように。
先生「まず月曜に朝トリニティの自警団の子に頼まれてパトロールして..次にゲヘナでヒナの資料仕事を手伝って..次に梅花園の子達の面倒を見させてもらって…遊んだり、迎えを待って…シャーレでシャワー浴びてたくさんの資料仕事して..」
膨大な仕事量にミサキは頭を抱える。
ミサキ「..ちょ、一旦ストップ。分かった。…その仕事は…忙しい時..?」
先生はあっけらかんと答える。
先生「あ〜….こ、この季節は..ビラ関係に..ヴァルキューレの子にも資料運搬頼まれて…だから月曜はまだ少ない方かも。」
ミサキ「…もういい。じゃあ…食事は?普段よく摂っているものでいいから。」
先生「…朝はあんまり食べないし..お昼はおにぎりとか..サラダとか..夜はヴェリタスの子に紹介してもらった栄養ドリンクぐらいかな…まぁカフェイン入ってるけど..」
更にミサキは悩む。そりゃ体調崩す訳だと納得もしてしまう。
ミサキ「…逆によく今まで体壊さなかったね。」
先生「…生徒のためだしね。」
ミサキはその言葉に妙に食いつく。
ミサキ「…生徒の為っていつも言うけど…何で?」
先生は少し迷ってから、
先生「…そうだね…まず私にとって生徒は守るべき存在だし..私自身手伝うのはとても..役立ててると思えるんだ。」
ミサキは完全には納得しない。それは..何故自分の身を犠牲にしてまで生徒に寄り添うのか、そこが肝心だからだ。
ミサキ「….何で自分の体が危ういって分かりながらそれでも生徒を優先するの?」
先生「….大人が子供の為に動くのは何も当たり前の事じゃないかな…?それに、皆が私の手伝いに喜んでくれて…」
そこまで言いかけた所でミサキも我慢の限界が来る。食い気味にこう返す。
ミサキ「…先生は自分の身が危なくても生徒のためなら..みたいなこと言うけどさ。..正直生徒の身からすると..自己犠牲の精神なんてとても褒められるものじゃないから。..自分の大切な人が自分らの為に必死に働いて体調崩して…それが何よりも心配なの。」
先生はそれでも、
先生「私を心配する子は一定数居るだろうけど…それで私がするべき仕事を放っていいはずが無いんだ。..いつでも、私の助けを待つ人がいるかもしれないんだから。」
ミサキ「…..一定数なんかじゃない。」
先生は一瞬息を止める。
先生「…え?」
ミサキ「一定数なんかじゃない。この都市のどの生徒も、仕事が減って笑顔になってるんじやゃない。先生が来てくれるから笑顔になっているんだよ。どんな生徒も先生の来訪を待ってはいる。けど…それで体を壊されると、もっと心配になる。今日のように風邪をひくこともあれば、病気になる可能性だってある。だから私達は、先生に無茶して欲しくない。それだけ。」
先生はようやく理解したようにハッとする。
先生「…そう、だったんだ。……あれ?そしたら..その中にはミサキも含まれる訳なのかな..?」
完全には分かっていなかったようだ、しかしその疑問はかなり意地悪なものだった。答えるのは告白に変わりないからだ。ミサキは何秒か黙った。そして口を開く。
ミサキ「…分かってることわざわざ聞かないでよ。..確かに私は先生を大切に思っているし、上着の件だって有難かったよ。だからこそ..いつも横にいる訳じゃないから、守れないなって思ってる。」
先生は最後に、先程よりも更に意地悪な質問をした。
流石のミサキもその質問には沈黙する。しかし彼女の出す答えはひとつだった。これこそが正解と思った。
おわり
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