テラーノベル
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次に俺達が目覚めたのは、黄楽天の死体の横に立つ見知らぬ男と出会った時だ。
どうやら、俺達の中にもこいつを知ってる奴と知らないやつがいるらしく、知ってる奴によればこいつは第二形態の憶清天。
知らないやつ(俺含め)は非常に困惑している。
目の前に知らんやつがいることもあるが、一番大きいのは黄楽天戦がスキップされている事。
少し前までのおさらいとしては、黄楽天と出会って、矢印を出してくる技を対処することになった。
そこで負傷していた天竺を治すために、小指の能力を魔法を操る能力にする秘策を実行。
その後天竺におとりになってもらったりして、俺のビームで黄楽天を焼き払うと、黄楽天は自爆技を放ってきた。
10分間逃げればこちらの勝ちというルールで戦い、最初の方は平気だったが段々走れなくなってきた頃、指揮が負傷した。
それで指揮に駆け寄った所で、俺の記憶は途切れている。(そういえばあの時の指揮、髪色が変だったような?)
気付いたら黄楽天は死んでるし、タイマーは消えてるし、指揮もけろっとしている。
「一体どういう状況ですか……?」
「知らん……というか、ここにいるやつみんな知らないだろ」
「気付いたら黄楽天の技もなくなってたよな。あ、指揮は?」
「私……ですか?私は……いたって健康ですね。あのケガも治ってるし」
「指揮本人にも記憶ないのか。やべぇな」
「なんらかの能力だろうけど、ネームドの私でもわからんことあるのかよ。ラスボスまで知ってるわけじゃないけど」
「イレギュラーなあれなんじゃないっすかね」「急に過去の味方をイタコするな」
「なんのはなししてるの?(疑)ぼくもまぜてー!(願)」
「……え?」
途端、憶清天と呼ばれる人物が話し出した。
見た目としては背が高めの成人男性……に見えるのだが、声はかなり幼く、幼稚園生くらいの声に聞こえる。
もし仮に俺らの会話を聞いていたなら、彼はラスボスの第二形態という真相に近いポジションだし、多分内容も分かると思うのだが……それでいて理解できていないっぽいのは、知能も幼いからなのだろうか。
「ええと……黄楽天と戦っている最中に私たちの記憶が無くなっていて、気づいたらあなたが立っていて、みんなで驚いていたのですが」
「そうですね。黄楽天の自爆技?もなぜかないことになってますし」
「さっき話してたそこの女(指揮のこと)も負傷してたはずなんだけどな」
「本人も分からんって相当変な状況だな」
「ワンチャンお前の能力なんじゃ……って思ったんだけど、その様子だと違うみたいだな?」
「ぼくじゃないよー。(正)え、じゃあ、みんなはなーんにもしらないの?(疑)」
「まあ……そうですかね」
その答えを聞いた瞬間、憶清天は大きく瞳孔を見開き、子供のような無邪気な笑みで指を俺達に指す。
そして大声でこう言った。
「うそつき!!」
「え?」
「うそつきだー!(決)うそつきはどろぼうのはじまり、っておかあさんがよくいってた!!(思)」
「……その、理由から聞いてもいいでしょうか?」
「急に脈絡なしに嘘つきだーって言われても困るよな。だって本当に知らねぇんだもん」
「あのね、はじめに、このぷろじぇくと?ってやつは、今ひゃくきゅーじゅーよんかいめだよね?(疑)」
「そう聞いたけどな。それで、200回目に到達したらなんかあるんだろ?」
「そうなの!(嬉)にひゃっかいめになったら、おにいちゃんのじっけんのけっかがわかるんだって!!(期)……でもね、ほんとうはにひゃっかいめじゃないの……(落)」
「え、どういうことですか?200回目って話は嘘ってことですか?」
「おにいちゃんはうそつかないから、うそってことはないよ。(確)ほんとうは”ひゃっかいめ”でおわるよていだったんだって(落)」
「100回目で終わる予定だった……?」
「神化人育成プロジェクトは時間の流れを速めて神化人を人工的に作る事業……でしたよね。200回目で終わるとなれば、二回で一年分進んで、200回で100年進むのかと思っていましたが」
「じゃあ、当初は1回で1年、100回で100年……ってことですか。でも、どうして200回に?」
「わかんない。おにいちゃんもわかんないって言ってた。(悲)なぜかわかんないけど、じょうけんがかわってたらしくて、こんなことできるのはさんかしゃのだれからしいよ?ねーむどのひとはおにいちゃんがかんりしてるから(確)」
「だからね、ぼくはそのはんにんをさがしてたんだ!(探)それで、やっとちゃんすがおとずれたよ、だってはんにんは……このなかにいるから!(推)」
「なんで??」
「おにいちゃんがいうには、そのはんにんがしんじゃえば、みんなはひこうせんからだっしゅつできるらしいんだ。でも、みんなはまだひこうせんのそとにでれてないから!(明)」
「まとめますと、本来神化人育成プロジェクトは100回目で終わるはずだった。でも、それを参加者の誰かが引き延ばして200回目までに上限がすり替わった。その犯人が死ねば私たちは脱出できる。まだ私たちは脱出できていないから、参加者の生き残りメンバー……つまり、messiahさんを除く私達の中にいる。ということで合ってますかね?」
「聞き取れない部分もあったから助かる」「いえ、ただ要約しただけですよ」
衝撃の真実が判明した。
本来なら、俺達はもう既に外にいたはずなのだと。
だが、誰かによってその夢は絶たれた。俺達は、今も飛行船に監禁されている。
今まで俺達を縛ってきているのはbloodだと思っていたが、ここにきて新説が登場した。
俺達の中に、真の黒幕がいる……と言いたいらしい。
色々と情報過多なのには多少慣れてきたが、今回は話が違う。
おそらく、黄楽天戦の時のように協力できる感じにはならなさそうだ。
所謂疑心暗鬼。誰が犯人なのか。誰が黒幕なのか。何のために俺達を縛るのか。閉じ込めるのか。
犯人はどうして200回目に向かったのだろうか。
だってネームドだし。で片づけられる時代は終わってしまった。
参加者という味方から黒幕が出てしまった、という事実がただただ恐ろしい。
でも、黄楽天戦は本当に全員で協力していたと思う。
秘策を作った指揮、囮になってくれた天竺、治癒の能力を活用した小指、そしてほぼ一撃で黄楽天をぶっ殺した俺。
この中に黒幕が居るなんてありえない。そう今でも思ってしまう。
みんなが正義のヒーローのように思えた。
そうなれば、犯人も何らかの大義名分のためにそんなことをしているのか?
悪い奴を倒すとか、復讐するとか、もっといい方向で考えれば、誰かを守るとか誰かを幸せにするとか……
だとしたら犠牲を出しすぎだろ、とは思う。よっぽど大きい目的なのか。というか、大きい目的じゃないと許せない。
犠牲と言えば、犯人のせいで今までいろんなやつが死んできたことにもなる。
貴志、花芽、ある意味で言えば天神、音端、小判……
あいつらは死なずに済んだかもしれない。
それを無に帰したというのか。
そもそも敵の言葉なんだから信じなくても、とは思うが、なぜかこういう悪い話程信じてしまう。
それはみんなも同じらしい。
全員、みんなを信じたいような、みんなを信じられないような、そんな気持ちが半分半分になった複雑な表情をしている。
何かを話そうとした。でも、スタートから「みんな信じてるぞ!」も違うし、「おい犯人出てこい!」もなんか違う。
みんなが口をパクパクさせている奇妙な状況に遭遇した。
いよいよおさかな大会に耐えられなかった憶清天から話が飛び出してくる。
「……ねぇ、はんにんははやくなのりでたほうがいいよ!(怒)おにいちゃんが『俺”達”を苦しめて何が楽しいんだ』っていっておこってたよ。おにいちゃんはすごいやさしいから、いまからあやまったらゆるしてくれるよ!!(慈)」
「……」
「どうしてあやまってくれないの!!(怒)みんながきみのせいでくるしんでるの!!(怒)みんなが、きみのせいで、いっぱいしぬことになってる!きみはみんなのくるしみをしらない!ゆるしちゃ……だめだ!!(憤)」
「みんな……しんじゃえばいいんだ!!!」
憶清天はセリフを決め込んだ後、俺達から少し距離を取り、その後黄楽天と同じように四肢が刺々しく変形する。
そして、彼はどっかで見た事ある氷塊を出してきた。
本来ならhappyの第二能力だったはずのもの。
なぜか憶清天が使えるらしい。そういう能力なのか。
俺を話さざるを得ない状況にさせてくる、なんとも嫌な展開だ。
「あー……これはhappyの能力だな」
「happy……そっか、お前戦ってたっけ」
「そう。この氷塊、当たったら普通に痛いから気をつけろよ。あと、当たらなくても毒がピシュって出てくるから、要注意だな」
「ありがとうございます」
「でも、そしたらどうやって避けるんだよ」
「わからん」「は?」
「いや、なんか気合い?」
「気合で避けれるわけないですよ!!」「ですよねー……」
「でも本当に戦ってた時は必死すぎて覚えてないんだよ!最初に毒食らってたし」
「小指くん、毒を治せたりしません?」「えーと……あ、いけます」
「マジ?超有能じゃねぇか」「ど、どうも……」
「じゃあ保険も出来ましたし。やっちゃってくださいよ」
「俺ですか?」「当然星斗君です」「あぁはい……」
「全く……酷使しすぎなんだよ俺の事!!」
氷塊が来るまでにまあまあなスパンがあって助かった。
ギリギリで毒を避けてからビームを溜め始め、氷塊が憶清天の手から発射された瞬間にこちらもビームを放つ。
ドーンという音が鳴る。その後、まあまあダメージを食らってそうな憶清天が出てきた。
黄楽天と違い、そこまで深いダメージは受けていないらしく、前みたいに一撃とはいかないようだ。
それよりも、まだみんなと仲良くできそうなことに安心したが。
それほどまでに擬態の上手い犯人がいる、ということなのか。
「ぼくね、おうらくてんよりもつよいわざをつかえるわけじゃないけど……いろんなのうりょくをたくさんつかえるんだ!たとえば……こんなふうに!」
憶清天はまずどっかで見た事あるバリアを張る。
happyの第一能力、反射。
そして、美術で関節とかを勉強する時に使うみたいな人形が三体出てきて、俺達目がけて襲い掛かってきた。
tearの第二能力、人形操作。
最後の仕上げに、手を自らの火傷跡に当て、緑色のエフェクトに包まれる。
これは、俺だけじゃない、全員が見てきたあの能力。
魔法を操る能力だ。
この厄介な魔法使いに、俺達は苦戦を強いられることになる。
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