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贄に抗う生命体

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贄に抗う生命体

1 - 初期症状

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2022年08月15日

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「あれ、お前目悪かったっけ?」

ウチの部長が誰かに対して言っている。その声は多少の驚きが含まれている。元々メガネをつけているのはうただけど、今日は他にも誰かメガネをつけている人がいるみたいだった。

はるてぃーの視線の方を密かに追うと、そこには若干金髪の青年がソファーに座っていた。

…ん?んん??

思わず凝視してしまった。そのせいでパズルゲームは酷いことになっているけど、そんなの気にすることの無いくらい、視線の先は驚きのものだった。

…そう、あの馬鹿…もとい、ワルガキの山田がメガネをつけていたのだ。

隣にいるこむぎは慣れてしまったのか驚いていないけど、あとから入ってきた皆も驚いて山田の方を凝視していた。

しかし、それにしてもメガネをつけているとだいぶ様になる。いつもと違う雰囲気だからというのもあるんだろうけど、知的に見えて頭良さそうだ。いや、実際は悪いんだけど。

その視線に気付いていたのか、山田が口にした言葉は…

「あー俺のメガネ姿がかっこええのはわかるからそんな凝視せんでもええで??」

…前言撤回。やっばコイツはガキだ。見た目だけで内面が変わることなんてない。

「ちょっと、俺からの質問は?」

「流石にこんな目線来たら答えちゃうわー。まぁ全員に今から全部話すし勘弁して?」

ほら荷物置けよお前ら、なんて言って手で払う山田。その言葉からはいつもと同じように見えて、どこか芯のあって、有無を言わさない力があった。例え何かあったのか心配でも、まずは聞くべきだと判断できる言葉だったし、弄ろうとしていても弄ることも出来ずに黙って座ってしまう、そんな言葉だった。



「そんで、これやろ。

お前らは【視覚失調症】って知っとるか?」

「「「「「「資格失調症??」」」」」」

「テンプレの回答どーも。視覚失調症ってのは、いったら総合失調症の下位互換。総合失調症が幻覚幻聴やらのオンパレードなんやけど、この病気は幻覚が見えるだけ。」

「え、総合失調症ってストレスとかで発症するやつじゃないですか!?」

それを聞いて騒がしさが戻る。

お前ストレス抱えてたのかよ!?とか、早く相談してくださいよ、とか。症状が実際に出ているから、一応心配しているみたいだ。まぁ中にはストレスとは無縁そうな生き方してるのに…?とか言ってるやついたけど。

「あーちゃうちゃう!!別に俺はストレスなんて抱えとらんし抱えとったらとっくに中退しとるから!!むしろ好きやからなこの部活!!」

…なんか、端でめっちゃ嬉しそうにしてるヤツがいるのを見つつ、補足の説明を聞く。

「この病気は遺伝性や。ウチの親父の家系から伝わっとるらしい。親父はかからんかったらしいけど。その他の家系でも色々繋がってるし、昔の日本から伝わっためんどくさいやつ、って覚えとったらええかなぁ。かく言う俺も詳しくは知らんとやけどな。」

「え、山田さんのお父さんから聞けないんですか?」

「あ、いやな。親父から狙われてるから無理。」

「……はぁ?俺それ聞いとらんぞ。」

「いやな…俺の親父さぁ…昔からまともだったのに、その話になると人変わったように狂ってたんよ。そんな奴にこんなの話してみろ。絶対ムリ。俺死ぬ。お前の目はどうなっているとか言われて目解剖されちゃう。」

絶句。なんなんだそれは。症状よりもそっちの方が怖くないか。てかゲームの世界かよ。ヤンデレエンドみたいなの親子でされるの恐怖でしかないが。

その話を聞いた途端1年組は震え上がっている。いや、ゆーまは恐怖ではないと思うけど。サイコだなぁ…

「…ちょっとまて、それって治るものなのか?治らずに親に隠すなんて無理だろ。ここに居たとしてもお前は2年。それが永劫続くんならダメじゃないか。」

「あー…いや、ずっとは続かないって言ってた。1週間がピークで、その後は元の視界に戻ってくらしい。」

「ピーク含めて余裕もったら2週間ってところか…まぁ、なんとか誤魔化せそうかな。」

ウチの頭脳派はやっぱり冷静に考えられていたようで、そこで結論を出したようだった。

「それで、そのメガネはどうしたんですか?幻覚をメガネで抑えられるとか?」

「えー…ん、まあ。ザウルスに当てられてんのはアレやけど、まんま同じ。これで見ると全然前と同じ視界になる。」

無いと地獄みたいやけどな。なんて付け加えて山田は言った。

「てことは、度自体はないってことか。山田裸眼だもんな。」

「そー!俺暗いとこでゲームとかしてねーから頭いいの!!そこのゴミドリとはちがってなあ!!」

「は?別に俺だってスマホから離れてゲームしてるわ。テレビゲームもテレビから離れてやってるし。」

「言い訳幼児アニメのオープニングだろそれww」

「はっ、ぼくドラ”〇も”ぉんってことか!!」

「なんだその汚いモノマネ!!」

「どっちかといえばニャ〇ちゅう…?」

「ここはしょに〇もんにしません?」

「それ別界隈や!怒られるぞ!」

なんとなく纏まりが無くなってきて、統率が取れなくなってきて、いつものバカ騒ぎに戻ってしまった。

でも、さっきの雰囲気は俺らには合わないんだ。

…だから早く治ってくれ。

お前が目を擦ったのが見えた。その後、少し目を瞬きしたのも。度がないのがホントなら、それは本当か疑うためのものだ。

この視界は現実のなのか、確かめるための。結局、そのメガネも全部は防ぎ切れないってことだ。視界の端々に、”何か”が写ってしまうから。それを本当だと信じたくないからそういうことをしてしまうのだろう。

恐らくそうしても視界は変わらないけど、そうして変わってくれたらいいと信じたから。

アイツはなんも無いように振舞っているけど、あれは何かあるだろう。この説明で終わらないくらい、奥深いのが待っている。

それがどれくらい深いのかはわからない。俺にはアイツの視界は見えない。なればこそ、俺は俺に出来ることをすべきなんだろう。

「…おい、山田。」

「なんだよぉうゴミドリ!!」

「お前、これからも正直でいろよ。全部思ったことは口に出せ。誰かに共有しろ。」

「……はぁ!?俺が従うわけねーだろ、ざけんな!!」

なんて、そんなこと言っているが、言いたいことは伝わったようで。少し輪から外れて考え込むような仕草をしている。

なら、それならいい。俺が言いたい事が伝われば。そこからどう動くのはアイツの判断だ。俺がそこに絡む必要は無い。

今まで放置していた落ち物パズルゲームを再起動して、画面を覗き込む。首にかけていたヘッドフォンをかけ直して、ゲームを再開した。

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