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ポタリと垂れた水が、地面を濡らす。
ビートルートの赤が濃く染まっていく。
周りに飛んでいる蝶も鳥も、それを全く気にしない。
怪我をしている。
近付けば目を潤ませて、見上げる。
これは……キツネだ。
そう認識した途端に、赤いそれは地面に広がり、周りにあるのは冷たい壁。
知っている。
ここは……
<ぺいんとside>
弾かれるように目を覚ますと、夢の壁に睨まれて額に汗が滲む。
妙に目の奥に残ったあの情景は、俺の何でもない夢だったのか?
鉄格子の奥は明るく光っている。
これ……絶対外の明るさじゃないよな……。
ふと、周りが酷く静かになったことに気が付いた。
(そういえば……さっきまで何か聞こえてたな)
先ほどまで気にしてなかったが、 いつもの二人にしては低い声だった。
まるで誰かに聞かせないように、内緒を二人で共有するように。
喉まで出かかった「何を隠してるんだ」という台詞は、大きな壁に阻まれた。
二人の間に壁は存在する筈なのに、確実に離れた位置にいる筈なのに。
<リアム>
管理室の椅子を引いて、疲れた身体をドカッと沈ませる。
手元のバインダーとパソコンを並べて、サラサラと文字を書き込む。
長ったらしい文章に徹夜の目が痛むが 、その瞬間に、視界の隅の動きを捉えた。
ra「もう起きたのか。……丁度良いくらいか?」
時計を確認し、画面の様子を眺める。
8番は寝ぼけた様子で欠伸交じりに、何かを話している。
それに答える二人の様子も、寝ぼけているのか動きが鈍い。
何てこと無い囚人の朝だ。
興味を反らして紙に文字を並べていくと、また視界の隅に黄色い頭が映った。
ノソノソと起き上がって壁に寄りかかり、顔を手で覆う8番。
おや?と不思議に思う。
8番がその手を外して、顔が見えた瞬間。
ペンが有らぬ方向へ傾いた。
あの8番─ぺいんとが泣いている。
いや、実際には涙は出ていないが、同じことだ。
動揺して紙に視線を戻せば、この国の字ではない何かが書かれていた。
(何があった、8番……)
6番は先ほどとは打って変わって、元気に立ち上がり口を動かしている。
何かを高らかに宣言するような出で立ちに、二人は笑い出す。
「……空元気だな。目も当てられない。」
その時、扉からノックの音が聞こえた。
気恥ずかしさを隠すように、努めて事務的な顔を作る。
今の今まで、音のない映像を食い入るように観ていたことに気付いたのだ。
椅子を回して扉に返事を送れば、 入ってきたのは予想通りスティーブだった。
sty「リアム看守長。おはようございます。」
ra「おはよう。スティーブ、今日はこれに従って動いてくれないか?」
書き損じたページを素早く外し、その他を手渡す。
sty「……え、はい。あの…これは……」
<??>
電気のついていない部屋に、赤いランプだけが鮮明に色を放つ。
部屋に流れているのは、ラジオのような低い音声。
pn『伝説の剣……ステイサムさんの治療費になったんだよな~』
kr『あ、ぺいんと起きた?おはよう』
sn『あれって、暗に伝説の剣を探せって言ってるようなもんだよねw』
卓上に置かれたマグカップの湯気は、まだ天井に向かって伸びていた。
何枚か走り書きされた紙の文字は、インクが滲んでいる。
pn『…これこそ探偵に依頼すれば良いのに……な。』
sn『バッ!!……それなら!僕たち、すっかり探偵団にお任せ!!』
kr『いや、お話変わっちゃうからw!!』
pn『正直待ってた……w』
明るい声が響くのを他所に、部屋の主が卓上の小さな機械を振り上げた。
sn『でもw、僕探偵の動画一つも探偵してないw』
pn『wぇ、お前、そうじゃん!www』
『お…は#ヨ~※ァーん♪……ザザッ』
──無音。
ノイズ交じりの音は呆気なく消えて、部屋の闇に塗り替えられた。
<ぺいんと>
ヒュッと喉をひくつかせる。
静寂を裂くように、日が差し込んで風が吹いた。
pn「ッ、はよーございま~す、。」
心臓の音が血管を突き破りそうだ。
慌てて出した自分の声が、やけに耳に障る。
しかしご機嫌に頷いている様子から、特に何も気にしてなさそうだ。
先ほどの重さが、嘘のように楽になる。
安堵の色を滲ませて、朝食を受け取ろうとした時だった。
亀裂に水が差し込んだ。
クロノアさんの牢へ不自然に向かった足音に、俺たちは息を詰まらせる。
sty「重いよね。……それ。」
しかし看守の視線は、俺の方を射抜いていた。
頭がハテナで埋まった。
埋まるというよりは、沈んだのか、俺がハテナになったのか!(?)
海もこれには太刀打ち出来ないだろうな、これで「海の水、全部抜いてみた。」してやる!!(??)
とどのつまり、俺は何も持っていない。
日記も本当に何も。
pn「何のことですか?」
現実逃避、ここに極まれり_状態を隠しながら、看守に問いかける。
スティーブ看守はうーん。と唸って、ふるふると首を振った。
sty「喧嘩したなら、お互いに仲直りしないとね」
生易しい視線を感じながら食べる朝食は、少しだけ生臭く感じた。
あ、魚だからか。
食事が終わると、スティーブ看守があのバインダーを取り出した。
「え~っと、じゃあ今日の刑務作業を発表するね。」
……………………
クロノア:農場(不眠。全く眠れない様子)
ぺいんと:畜産(不安定。魘されている)
しにがみ:ポーション(良好。上手く寝付けている)
──上記の健康状態に基づき、本日の刑務作業を決定する。
<しにがみside>
ポーション部屋は静かで、水の落ちる音が定期的に聞こえるくらいだ。
通話越しに何やら声がするけど、 ぺいんとさんの嘆きだろう。
(ニワトリ……居なかったんだなぁ)
そんなこんなで真面目にポーション作りをする訳もなく、僕はとりあえず部屋の中を見て回ることにした。
奥にある扉を開けると、厨房に繋がっている。
sn「ポーション部屋の奥に厨房って看板がありますね!」
《結構移動出来る場所増えそうだな》
ガチャガチャと扉が開くか試すが、当然ながらびくともしない。
「鍵が掛かってますけど、厨房があるなら食堂も近いかもしれないですね!」
僕の声にぺいんとさんが《鍵の回収が先かぁ》と 残念そうに呟く。
他にする事もないので、 簡単そうな説明書に手を出した。
<ぺいんとside>
何も物を言わない豚が、俺を見つめる。
同じく俺も豚を見つめ返す。
pn「名前とか……自分で決める?」
豚は興味を失ったかのように俯くと、スッとまた目を合わせた。
(通じ合っちゃった!)
一人と一匹の間に、恋愛の甘い音楽が流れているように錯覚する。
「…名前…決めなよ☆」
キザなセリフを決めて、一人で最高潮の盛り上がりを全身に受ける。
突然、けたたましいブザーのような音が耳をつんざく。
「ぇ!?何急に?!」
突然の警報に驚いていると、クロノアさんの慌てる声が通話に乗る。
kr《ヤバい……ハシゴ登って入ったら警報が鳴っちゃったw》
<クロノアside>
昨日の晩に聞いた通り、農場から地下貯蔵庫に進む。
息を激しく漏らすと、部屋の様子を眺めた。
クモの巣や埃まみれで気付きにくいが、どうやらここはアイテムの宝箱のようだ。
kr「作業台見つけました!」
pn《お、じゃあ……木のツルハシ作れるんじゃね!》
sn《おお~!メチャ進むじゃん!》
会話をしながら探索を続けると、棚の横に交互に折れるように吊るされた梯子を見つけた。
どうやらしにがみ君はあの時、物凄く急いで探索していたようだ。
通話の奥で、妙に格好つけた声が聞こえる。
誘われるように登った先は、頑丈な扉が設置されている。
力任せにググッと押しやれば、ドアは鈍く音を鳴らした。
鳴らしてしまった。
──そして現在。
内心汗だくのまま、引き攣った作り笑顔を表に出す。
kr「ぇ?ずっとここに居ましたよ?」
目の前に立つ看守に、とぼけた声でさも当然のように嘘を口にする。
ra「そうか……実はな、先程何者かが入った場所は中央管理室と言ってな?」
リアム看守の威圧的な声が低く落ちる。
「監視カメラを管理している場所なんだよ。」
ピラッと目の前にぶら下がった写真を見ると、自分の姿が小さく映っていた。
「……これはお前だよな?」
ニコリと笑って誤魔化そうとする。
ガシャンッッ!!
pn『マジか!そんなヤバイとこ入ったのw?』
sn『恐すぎ……マジ』
そんな仲間たちの声も蚊帳の外に、呆気なく捕まった。
▽
まだまだ加速する脱獄計画、!
「はぁ、問題ばかり起こして……報告書が一向に無くならん。」
クロノアさんの処遇は、一体どうなることやら……
pn《本当に報.連.相をして下さい!》
sn《そうですよ!……ほう゜れん草ダヨ!!!↑》
p.k((何その声??))
次回「未定」
CV:薄汚れた録音機