コメント
0件
佐川は矢に向けて、拳を振り上げた。
拳の大きさは、縦3m、横5m。
拳の速度は、40km。
恐らく、速度は一定。
壁、対象物にぶつかるまで消えることはない。
対して
尖矢の大きさは、縦横1〜2cm。
矢の速度は、140km。
それはあくまで初速の話。
距離があれば、速度も落ちる。
矢と拳が音を立てぶつかる。
拳の波動は、矢を弾いた。
カラン、カランと2本の矢が地面に落ちる。
2本の矢は拳の衝撃で、折れている。
タールの体で精製されたものだろう、小さく黒い影が上空に消えていく。
「見えない矢を隠していたか」
佐川は満足そうな顔をしていた。
ここまで、タールに対し一方的に蹂躙されてきた。
鷹から逃げる野鼠のように。
攻撃手段を見つけた動物は、鷹を狩る捕食者となる。
「今度は俺が捕食者だ」
タールは驚愕していた。
「私のインジブル・ツインによるタール射撃術が破られるなんて、ありえない」
「こんなこと認めない」
足をジタバタさせながら、テラスの壁を右拳で破壊した。
余程悔しかったのだろう、影の目にも涙が見えるようだ。
佐川は呆れた様子でタールを見る。
「インジブル、射撃術って技名の統一感がないな」
「しかもタールって自分の名前を入れるのか」
少し呆れながらもタールを観察してみる。
身長は195cmくらい、手足は4本。
髪はなく、坊主。
目は黒色でつり目、体型はがっしり。
見た目はケンタウロス。
武器は弓矢。
サーザスと同じくつり目だが、顔の形、体格も異なる。
足をバタバタさせる癖がある。
狩人ぶっているが、意外と小心者なのかもしれない。
タールは激昂した。
「いい気になるなよ、小僧」
矢の数を2本から10本に増やし、2本の右の片腕からそれぞれ5本の矢を発射した。
不思議と矢は、全て佐川を標的としている。
影の力が働いているのか、自分と同じ力が働いているのか原理はわからない。
そんな理屈はいらない。
私は捕食者だ。
ボクシングポーズを取り、テレビの見よう見真似でワンツーを3回した。
左手は意味はないが、無意識というものだ。
拳の波動は瞬く間に、矢を全て弾いた。
タールはまたしても驚いたが、まだ拳の波動が消えないことに気づいた。
慌てて、防御体制を取ろうと試みるも時すでに遅し。
佐川の拳は、タールの全身を捉えクリンヒットした。
「馬鹿なぃぃぃぃえあ」
佐川の拳を受け、タールはテラスから地面に勢いよく倒れこんだ。
佐川はここぞとばかり、タールを追いかける。
1階の工場に窓ガラスはないため、工場入口まで走る。
入口は鎖で封鎖されていたが、この力なら破壊できる。
入口が見えてきた。
右手に力が入る。
左手で勢いをつけ、右拳を飛ばした。
タールは空を見ていた。
「空は青いな」
空を見上げている場合ではない。
起き上がろうとするも脳震盪を起こしたかのようにフラフラしている。
口からは黒い血を吐いた。
「あの小僧め、よくもやったな」
怒りで目の前が黒く、影がタールを取り囲む。
「屈辱だ、怒髪天だ」
高らかに雄叫びを上げると、影の力が右手へ集約されていく。
直後、工場入口が吹き飛ばされた。
佐川が姿を現した。
タールの右腕2本は、1本の巨大な矢へ姿を変えていた。
「力の使い方を知らない、小僧よ」
「ここで、息の根を止めてやる」
食べるのが目的ではないのかというツッコミを我慢した。
佐川も頬を叩き、気を引き締めた。