テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
応接間に足を踏み入れた瞬間、空気が変わった。
(……人、いっぱい)
そこにいたのは、兄――ユリウスとレオンハルト王子。
そして、その後ろに並ぶ、見慣れない男の子たちだった。
「ルクシア、紹介する」
ユリウスが一歩前に出る。
「ヴァレンティス公爵家の双子だ」
よく似た顔立ちの二人が、同時にこちらを見る。
先に、穏やかな微笑みを浮かべた方が口を開いた。
「エリオス・ヴァレンティスです。はじめまして、ルクシア様」
落ち着いた物腰で、静かに会釈する。
続いて、もう一人が身を乗り出した。
「セレス・ヴァレンティス! 本当にちっちゃい! かわいい!」
(近い……!)
同じ顔なのに、雰囲気は正反対。
エリオスは一歩引いて見守り、セレスは興味津々といった様子だ。
「次は、ローディア伯爵家のカイだ」
呼ばれた少年は、背筋を伸ばして一礼する。
「カイ・ローディアです。お会いできて光栄です、ルクシア様」
言葉は少ないが、真面目で誠実そうな印象を受ける。
少しだけ、耳が赤い。
「それから――」
最後に前へ出てきたのは、柔らかな笑顔の少年だった。
「ノア・フェルミナだよ。よろしくね、ルクシアちゃん」
(優しそう……)
全員の視線が、自然と私に集まる。
(あ、これ……私も挨拶した方がいいやつだ)
私は小さく息を吸い、前に出ようとした。
「る、ルクシア・ノクティスで――」
その瞬間。
「……あ」
足が、もつれた。
「ルクシア!?」
視界がぐらりと揺れた次の瞬間、誰かが駆け寄る音が重なる。
「大丈夫か!?」
「転んだ!?」
「どこか痛くない!?」
気づけば、私は複数の手に囲まれていた。
「ほら、無理するな」
ユリウスがすぐに私を抱き上げる。
「……怪我してない?」
レオンハルト王子は、真剣な顔で覗き込んでくる。
「だ、大丈夫……」
そう言おうとしたけれど。
「本当に!?」
「頭打ってない?」
「歩ける?」
エリオスは冷静に周囲を確認し、
セレスは完全に慌てて私の手を握り、
カイはおろおろと立ち尽くし、
ノアは今にも泣きそうな顔をしていた。
(……ちょっと、大ごとでは?)
私は瞬きをしながら、全員を見回す。
「……だいじょうぶ、です」
そう言うと、ようやく空気が落ち着いた。
「もう、自己紹介なんてしなくていい」
ユリウスがきっぱりと言う。
「そうだよ。ルクシアはそのままでいい」
レオンハルト王子も、同意するように頷いた。
(いや、まだ名前しか言ってないんだけど……)
けれど、誰もそれを気にしていない。
ただ、私が無事であることだけを確かめるように、
みんながほっとした表情を浮かべていた。
――嫌われないように、なんて思っていたはずなのに。
気づけば私は、
守られて、囲まれて、心配されて。
また一つ、この世界での居場所が増えた気がした。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!