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「はい、これお弁当」

登校準備をしていたボクの後ろから、南雲さんの声が降ってきた。

手には、ラップで包まれた手作り弁当。


「いらないって言った……」


ボクは溜め息まじりにぼやく。

朝は食欲がないし、昼もパン一個あれば十分だった。


なのに──


「コンビニ飯ばっかじゃ栄養偏るでしょ〜?」


キッチンからひょこっと顔を覗かせて、南雲さんはニコニコしている。

今日のシャツはゆるくボタンが開いてて、まだ髪も乾いてない。たぶんボクの弁当を優先して、自分の身支度は後回しにしたんだろう。


「……いらない」


「はいはい、そう言ってカバンに入れるんでしょ?」


……言い返せなかった。

実際、いつもそうしてるから。

捨てられないくせに、拒絶したふりをする。


それでも、南雲さんは怒らない。

呆れたように笑って、「素直じゃないな〜」と頭をくしゃっと撫でるだけだ。


―気づけば、それが“普通”になっていた。


ごはんがあること。

洗濯物が乾いてること。

朝起きると、誰かが「おはよう」と言ってくれること。


こんなにぬるくて、あたたかくて、優しいものがこの世に存在するなんて、

昔のボクは知らなかった。


「ただいま」


「おかえり〜、ほら弁当箱出して。今日も完食してくれたかな〜?」


「……べつに」


玄関先、上着を脱ぎながら答えると、南雲さんは満足そうに笑ってた。

ほんの少しだけ、悔しい。

いつも全部見透かされてる気がする。


でも―


「……ありがと」


背中を向けたまま、小さな声でつぶやいた。


南雲さんは、聞こえなかったふりをした。

いつもと変わらない声で、


「はいはい、お風呂先? ごはん先? それとも……僕?」


「うるさい」


ぺしっと背中を軽く叩いて、そのまま居間へ向かう。


これが、ボクの“普通の生活”。

守られてるのか、縛られてるのか。

まだ自分でも分からないけど……


それでも、今日も生きてる。

あの人のそばで。


南雲さんの気まぐれで拾われた男の子

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