テラーノベル
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決意を新たにし、外に足を踏み出した私は、そのお屋敷を見上げて息を飲んだ。
馬車が停まった邸宅はバラの蔦に彩られ、まるで絵本に出てくるような美しいお城だった。馬車道を挟んで広がる庭園も、隅々まで手入れが行き届いているし、妖精がひょっこり顔を出しそう。
「やっと、会えましたね。ヴェルヘルミーナ嬢」
美しさに飲まれるようにしていた私に、穏やかな笑みを浮かべたご婦人が声をかけてきた。
優しい声は亡きお母様を思い出させ、どうしようもなく胸が熱くなった。
ドレスの裾をそっと上げ、足を引いてカーテシーを披露する私の心臓は、緊張で早鐘を打っていた。
「お初にお目にかかります。ロックハート侯爵様」
精いっぱい平静を装い、震えそうな声で挨拶をすれば、ロックハート侯爵様は私に顔を上げるよう促した。
「どれほど今日を待ち望んだことでしょう」
「お茶会のお誘いを何度もお断りしてしまい、申し訳ありませんでした」
「いいのよ。私なりに貴女の立場を理解しているつもりです」
「ありがたきお言葉、感謝申し上げます」
「固い挨拶はこれくらいにしましょう」
侯爵様は私の手をとると、さあといってお屋敷に招き入れた。
まさか、手を引かれて歩くことになるとは思っていなかった。その手を払うことも出来ず、侯爵様についていながら、そっとその表情を窺った。
とても楽しそうで、私の視線に気付いたらしい侯爵様は、こちらを見て慈愛に満ちた微笑みを浮かべていらっしゃる。
幼い頃に私の手を引いた母が重なり、お母様と呼びそうになった時だった。振り返った侯爵様が「贈り物を用意しているのよ」といった。
「えっ!? そ、そんな、私なんかに」
「そんな謙遜しないで。せっかく誘いに応じてくれたんですもの。それに……」
私の手を少し強く握った侯爵様は、足を止めると真摯な眼差しになる。
「貴女がお嫁さんに来るのを躊躇う理由、少しはわかってるつもりです」
「……それは」
「大丈夫。貴女だけでなく、レドモンド家とご家族も、ロックハートが守ります」
ロックハート侯爵様は握った手を持ち上げ、もう片手を重ねる。まるで、この手を離さないと言っているようだ。
少しの皴が刻まれた手から、母のぬくもりが伝わってくる。
「私の思いを分かってもらうためにも、贈り物が一番だと思うの! お茶の前に、見てもらいたいわ。今日のために揃えたのよ」
「揃えた?」
不思議な言葉に首を傾げた私に、侯爵様は無邪気に微笑んで「見るまでのお楽しみよ」といった。
そうして連れてこられた部屋の前で、お屋敷の侍女たちが仰々しく扉に手をかける。
「ヴェルヘルミーナ、目を閉じて」
「目を?」
「驚かせたいのよ」
無邪気な子どものように笑うロックハート侯爵様に従い、そっと目蓋を下ろした。
扉が開く音がする。
そのまま手を引かれて歩を進めると、柔らかいカーペットを踏んだのが伝わってきた。ほのかな花の香りがする中、不安とは違う緊張に鼓動が高鳴る。
侯爵様が立ち止まったことに気づくのが一歩遅れ、その腕に少しぶつかりながら足を止めた。
「目を開けて」
言われるがまま、そっと目蓋を上げると──
「ヴェルヘルミーナ、どうかしら?」
燦々と日差しの入る広い部屋に、これでもかと煌びやかなドレスが並んでいた。
「あ、あの、ロックハート侯爵様……」
「美しい薔薇色の髪に、このドレスなんてどうかしら?」
白地に可愛い花の刺繍がほどこされたドレスの前で微笑む侯爵様に、紅のドレスを持ってきたメイドが「こちらはいかがでしょうか」と尋ねる。目をキラキラさせてとても楽しそうだ。
「そうね。紅も似合うけど、もっと可愛らしいデザインでも良いかもしれないわね」
「こちらの深緑のドレスはどうでしょう?」
「それでは、今日のドレスと変わり映えがしないわね。似合うけど……」
「こちらの蜂蜜色はいかがですか?」
上品な銀糸で刺繍があしらわれた蜂蜜色のドレスが私の体に当てられると、ロックハート侯爵様は何か物足りないというように首を傾げた。
侍女たちにドレスを運ばせる侯爵様の前で、私はただ硬直するばかりだ。
「侯爵様、これほも高価なもの、私には不相応かと……」
「遠慮はしないで。せっかくのお茶会でしょ。可愛く着飾って楽しんでも罰は当たりませんよ」
「ですが……」
「私、娘が欲しかったのよ。ほら、息子は飾りがいがないでしょ?」
ふふっと笑うロックハート侯爵様は本当に楽しそうで、その笑顔の裏に企みがあるようには見えなかった。
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コメント
1件
うわああ第17話、めっちゃ可愛いシーンの連続だった😭💕 ロックハート侯爵様が手を握って「守る」って言ってくれたところ、お母様を思い出させる優しさで胸がぎゅってなったよ…! ドレス選びのシーンも侯爵様がすごく楽しそうで、娘が欲しかったっていう本音にキュンときた〜。ヴェルヘルミーナが緊張してるけど少しずつ心開いていく感じ、応援したくなる🥺 次話も絶対読みます!!