テラーノベル
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私にドレスを選ぶ楽しそうな様子から、ロックハート侯爵の優しいお気持ちが伝わってくる。無碍にもできないけど、ここでこれほど豪華なものをいただいては、私の要望をいうにいえなくなる。
着せ替え人形よろしく立ち尽くしかない状況をどうにか打破しようと、ダリアに助けを求めようとして、その姿を探した時だった。
「ロックハート侯爵様、僭越ながら、私も選んでみました」
表情一つ変えないダリアが、ドレスを手に持っていた。
私が着たこともないような、薄紅色のドレスには可愛らしいバラの刺繍が施されている。とても美しくて、ミルドレッドお姉様の結婚お披露目を思い出させるような衣裳だわ。──ではなく、なぜ私の側にいないで、ちゃっかり着せ替えごっこの仲間入りをしているの!?
「さすが、ヴェルヘルミーナ付きの侍女ですこと!」
「お褒めいただき光栄です」
「さぁ、着替えましょう、ヴェルヘルミーナ!」
ご機嫌なロックハート侯爵様の号令と共に、侍女たちが私を取り囲んだ。
ちょっと、ダリア。これはどういう事かしら。遠巻きに見てないで、助けて頂戴。ねぇ、ダリア!
声に出せない叫びを視線に込めたが、その視界を遮るように見知らぬ侍女が「失礼します」と言って前に立つ。
抗う間もなく、私は紺のドレスを脱がされ、花のように美しいドレスへと着替えさせられた。さらに化粧を直された後、鏡の前へと移動させられる。
そうして、そこに映し出された姿を見て、言葉を失った。
「まぁ、とても綺麗よ、ヴェルヘルミーナ!」
後ろに立ったロックハート侯爵様は、手に持っていた宝石を私の首に飾る。それは深紅のバラのようなルビーだ。
「ふふっ、思った通り薔薇のような赤もとっても似合うわ」
「侯爵様、こ、これは!」
「ヴェルヘルミーナ、私の名はローゼマリアよ。そんな他人行儀はやめて欲しいわ」
「……ローゼマリア様、あ、あの、これは一体……」
「言ったでしょ。私は貴女を娘に迎えたいの。これくらいの贈り物は当然よ」
にこにこ笑うローゼマリア様は、ここにある全てのドレスが私のためだと言った。宝石も、レースも、何もかもが私のために買い集めたものだと。
何が起きているのかわからず、言葉を失ってローゼマリア様の微笑みをじっと見た。
「気に入ってくれたかしら?」
深く息を吸い、胸元から腰へと指でなぞってみる。私の寸法を知っていたとしか思えないほどぴったりだけど──ハッとしてダリアを見ると、誇らしそうに控えている。これは……おそらく手紙でやり取りをしていた時、ダリアがサイズを事細かに報告していたのだろう。
「こうして娘を飾り立てて、庭園で花を眺めながらお茶をするのが夢だったのよ。息子たちは華やかさに欠けるんですもの。すぐ、仕事の話ばかりですし」
少し拗ねたようにいうローゼマリア様は、薔薇の花を模した髪飾りを自らの手で私の髪に挿した。その表情には裏なんてない。少し無邪気にも見えて幸せそうだった。
胸が締め付けられる。
私は、継母を追い出すという目的のため、政略結婚を申し出ようと思っているのに……。
「特に、ヴィンセントは小さい時から体が大きくて、十八の頃には威圧感まで出て。顔はクレアに似て綺麗でも、やっぱり男の子よね」
「……クレア、様?」
「ヴィンセントの実母の名ですよ」
突然の言葉に、私は唖然となった。今、ローゼマリア様はさも当然というように、ヴィンセント様の実母だといった。
ヴィンセント様は……庶子だというの?
言葉を失っていると、まるで聖母のように微笑んだローゼマリア様は私の手を引き、場所を変えましょうと言って歩き出した。
ローゼマリア様は、前ロックハート侯爵様の御長女で、フォスター公爵家から入婿を迎え、ご子息は三人いたはず。旦那様は第三魔術師団の長を経て、今は王城に住みながら公務に携わっている。そのかたわら画家としても活躍されていると聞いたことがある。別居をされてはいるけどご夫婦仲はよくて、諸侯の間では愛妻家で有名な方だわ。
第二夫人がいただなんて……。
私が困惑していると、ローゼマリア様はふふっと微笑まれた。
「もう三十年くらい昔のことになりますね。私と夫は五年、子どもを授からなかったのです」
もしかしたら、その時に旦那様が外で女性と浮気をされたのかしら。不躾にも、卑しい想像をしてしまった私は、思わずローゼマリア様の手を握りしめてしまった。
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私はどれだけ不安そうな顔をしていたのだろうか。
驚いた顔をしたローゼマリア様は足を止めると、私の頭をかき抱くように、そっと胸元へと引き寄せた。
「優しいのですね、ヴェルヘルミーナ」
「もっ、申し訳ございません!」
「何を謝るのですか?」
「……不躾にも、旦那様を悪く思ってしまいました」
「まぁ! ヴェルヘルミーナも、女の子ですね。心配しないで。私に跡継ぎが出来ないのであれば、外に作りなさいと夫へ言ったのは、他でもない私ですよ」
にこにこ笑うローゼマリア様は、再び私の手を引いて歩き出した。
踏み入った部屋は、執務室のようだった。
コメント
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第18話、読み終えました……! ローゼマリア様がヴェルヘルミーナに贈ったドレスや宝石の描写が本当に美しくて、まるで自分もその場にいるような華やかさでした。 でも何より、ヴィンセント様の出生の秘密を知った時の胸の詰まるような空気感——ローゼマリア様が「私が夫に外で作りなさいと言った」とさらりと明かす場面には、驚きと同時に彼女の覚悟のようなものを感じました。 優しさと強い芯が同居するローゼマリア様、とても好きなキャラクターです。 次が気になります!