テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
教室の昼休み、音楽室からピアノの音が聞こえてきた。
「……あれ、ロボロやんな。」
その指の運び、音の強弱、全部覚えとる。
小さい頃、家に遊びに行った時、ロボロの母ちゃんが言うてた。
『この子、音には敏感でな。ピアノだけはスッと入ってくるんよ』
まさか、あれからも続けとったんか。
記憶はなくしても、身体は覚えとるんやな……なんかそれが、余計にこたえる。
ピアノの音が止んだあと、ロボロの大きい声が響いた。
「いや、シャオロン、うるさいわ! なんでピアノ弾いとる横で身長の話すんねん!黙れや!!!」
「いやいやw、ロボロ見てたらついイジりたくなる高さやねんもん」
「高さちゃう! 俺は平均よりちょい下なだけや!」
「ちょい下の定義が低いねん。かわええやろ?」
「誰がかわええねん、シバくぞッ!!」
──そのやりとりが、楽しそうで、 まるで、オレの入る隙間なんか最初からなかったみたいで、
足が自然と音楽室の前で止まった。
「……ま、そらそうか」
ロボロにとって、オレはただのクラスメイトや。
なんでやろな、“懐かしい”って感情だけでも思い出してくれたらええのにって、勝手に期待してまうんや。
⸻
その日の帰り、シャオロンが珍しくオレを呼び止めた。
「ゾム、ちょいええか?」
「んー、なに?」
「……ロボロのこと、まだしんどい?」
一瞬、息が詰まった。
けど、笑って答えた。
「しんどくなんかないで。昔のことやし、しゃあないやん」
シャオロンはじっとオレの顔を見てた。
やっぱコイツ、鋭いな……って思った。
たぶん、オレが嘘ついとるの、バレバレやろな。
「……せやな。けどな、あいつ、ゾムのこと見とる時だけ、ちょっと目の色ちゃうで」
「……は?」
「気のせいかもやけど、なんか“知ってる気がする”みたいな目ぇしてる時ある。あいつなりに、心のどっかで覚えとるんかもしれへん」
オレは何も言わんかった。
その言葉に、どこか期待してまう自分がおって、 期待してまうこと自体が怖かったから。
⸻
その夜、ふと思い出した。
昔の夏祭り、ロボロが金魚すくい失敗してしょんぼりしとった顔。
オレが「ほな、2人でカキ氷でも食おか」って言うたら、笑顔になって、ふにゃって笑った顔。
あの笑顔を、もう一度見たい。
それだけやのに、
それだけが、
なんでこんなに遠いんやろ。