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🎼🍵👑
午後の日差しがやわらかく射し込む食堂で。いつもどおり、6人がひとつのテーブルを囲んでいた。
今日もほのぼのとした雰囲気で笑顔が飛び交う。
「みこと、こっちも食べる?」
「いいん?食べたい!」
「どうぞ」
隣同士に座るすちとみことは、幼馴染らしく特に親密にやさしげな視線を交わす。
それを見ていたこさめがミルクティーを飲みながら話しかけた。
「なんでふたりって付き合ったの?」
当のふたりはきょとんと顔を見合わせた。
「あ〜、幼馴染って付き合う確率低いって聞くよね」
「へぇ!まあ雰囲気似てるし納得感はあるけどな。聞きたいかも、馴れ初め」
らんとひまなつもにこにこと興味を示す。
無言ではあるが、いるまもなんだかんだ視線がふたりから逸れない。
今度は顔を見合せてくすりと笑い合った。
「…それ、きく?笑」
「困ったなぁ…笑」
なにかおかしなことでもあるのか、少しだけ迷うような様子をみせるふたり。
「え、なに、やばい?」
「余計気になるー!」
「いやまあ…いっか。長くなるからね?」
すちはみことの手にそっと自身の手を重ねた。
それからひとつひとつ思い出すように、一度目を閉じ、静かに瞼を開いた。
出会ったのは、幼稚園だった。
小さな頃から穏やかだったふたりは、一度お話ししてから仲良くなるまであっというまだった。
気づけばいつも一緒にいる仲良しペアになり、お互いにいちばん仲良しの友達といえばお互いをあげるほどだった。
「すちくん!なにしてるの?」
「おえかきしてる!」
「わぁ〜じょうず、」
「すちのえっていろがへんだよ!」
「え……泣」
「…へんじゃないの!じょうず!すちくん、もっとかいて!ニコニコ」
「ん…!みことちゃんかく!ニコッ」
「やったぁっニコニコ」
素直すぎる幼稚園生時代では、すぐに涙ぐんでしまうすちをみことが明るく励ます、というのがたびたびあった。
悲しくなる度に笑顔で引っ張りあげてくれるみことに、すちはいつも救われていた。
それは小学校に入ってからもしばらく同じだった。
のだが。
それが少しずつ変わってきたのは高学年あたり。
その頃にはもう、すちもちょっとのことで泣くことが無くなり、それぞれに別の友達が増えてきたことで、一緒にいることが少しずつ減ってきたのだった。
「あ、すっちー…!」
「みこちゃん!…一緒に帰る?」
「うん!」
それでもときどき会えば、一瞬で前のような雰囲気に戻る。
お互いのことが大好きなのは変わるわけがなく、離れる時間が増えるほど再び会ったときの嬉しさは倍増する。
あだ名で呼び合うほど仲は深まっていた。
しかし中学にあがってからはさらに離れることが多くなった。
お互いにお互いの存在を意識しつつも、なかなか以前のようには過ごせないのが当たり前になってきたころだった。
するといつだったか、みことがふとすちのクラスに顔を出したとき、久しぶりにぱちりと目が合った。
そのとき、すちの首筋や額のあたりにうっすらとだがあざができているのを、みことは見逃さなかった。
「え…?すっちー…?」
「…ん?」
「え、いや、あの…」
虐待か、いじめか___
とっさに思い浮かんだが、簡単に触れていいものなのか迷って。
みことは首を振ることしかできなかった。
でも感じた違和感は消えることなく、どんどん大きくなっていくばかり。
すちのことが心配で、こっそり、すちの様子を覗きにいくこともあった。
そんなある日、みことはある噂を聞く。
すちが殴り合いの喧嘩している、と。
「え…、すっちーが…!? ほ、ほんとに?」
「それがほんとらしいんだよ」
みことは信じられない気持ちでいっぱいだった。
あんなにぽわぽわしていてやさしい彼が、喧嘩だなんて___
何か理由があるはずだと思う一方で、すちがいつのまにか倒れてしまうのではないかと焦るのだった。
そしてしばらく経ったある日。
ついにみことは出くわしてしまった。
その目で、すちが殴られているのを捉えた。___すちが反撃しているところも。
「すっちー!!」
自分の身の危険なんて考える暇もなく、思わず駆け出していた。
「みこちゃん…?」
思いがけなく聞こえたみことの声にすちは振り返って___その瞬間、また拳が飛んでくる。
殴ってきた相手を鋭く睨みながら、みことに向けて叫んだ。
「だめだ、こっち来るなっ!!」
初めて聞く強い声に一瞬ショックを受けたみことだが、足は止めなかった。
「すっちーこそだめっ!!」
「来んなって言ってんだろッ!!」
自分の制止を無視して向かってくるみことを、すちは喧嘩相手にするようにキッと睨んだ。
その強すぎる瞳に、さすがにみことも怯んでしまった。
すちはみことが止まったのを確認すると再び相手と対峙し、殴りかかってきた相手を見切って逆に地面に叩きつけた。
それでも、多すぎる相手に対応しきれずにどんどん傷ついていくすち。
すちの仲間もボロボロになっていく。
そんなすちの姿を間近で見るのは限界だった。
「すっちー…!だめ、やめて…!」
みことに背を向けるすちに駆け寄り、ぎゅっと腕を掴んだ。
すちはそれを振り払いながら振り返って___
ハッと息をのんだ。
みことが、泣いていた。
「やめて…すっちーが…こんなに傷ついてて…やだよ…!いつかいなくなっちゃうよ…!」
すちは再び息をのんだ。
みことが泣いている理由が、自分が怖いからではなく、すち自身を想っているものだったから。
すちはどうしたらいいかわからなくなって、戸惑いながらも、一歩みことに近づいた。
「…俺のために泣いてるの…?」
そっとみことの頬に触れると余計に溢れ出す涙に、ずきっとすちの胸が痛んだ。
___泣かせてしまった。他でもなく、俺のせいで。
その思いが、すちを強く揺さぶった。
やさしくて穏やかで、ずっとにこにことすちを支えてきてくれたみことの泣く姿を初めて見た。
その笑顔を守りたくて、強くなりたくて、この世界に足を踏み入れたのに…
「俺、だめじゃん…」
すちは迷いなくみことを引き寄せ、やさしく抱きしめた。
心は決まっていた。
「やめる、俺。もうしない」
その言葉に、みことはぱっと顔をあげた。
抱きしめてくれるやさしい温度とは違い、瞳はひどく冷静で揺るがない意志がある。
それを見て、みことはちょっとだけ安心し、すちに笑いかけた。
「…約束だよ?」
しっかりと頷いたすちは、一度みことを離すと、相手と仲間たちに向きあった。
「俺、もう喧嘩やめます。大事な人を守りたいから。だから…二度と、手は出さない。グループも、抜けます」
まっすぐな目で宣言するが、簡単に許されるわけがなかった。
「っざけんなッ!! 裏切んのかッ!?」
反応してきた仲間にぐっと胸ぐらを掴まれる。
味方につけば頼もしい威勢を、敵として受けなければならない。
それでも、すちは引かなかった。
「…ごめんなさい」
「あっ、そ。簡単に裏切れると思うなよ」
鈍い音を立てて胸を殴られる。
重い一撃をもろにくらってしまい、力が抜けそうになる。
「で?こいつ、お前の女なんだよなぁ?…ふたりまとめて沈めや」
「…は、?だめだッ!!」
みことに向けて拳が振り上げられる。
それが当たる直前、すちはぎゅっとみことを抱き込んだ。
「っく…!」
「す、すっちー!」
「…だめ、ここにいて。動いちゃ、だめ。」
「でも…すっちーが…!」
「いいから。カハッ…みこちゃんには触れさせない…」
みことを抱きしめながら、ふたりぶんの攻撃を背中で受け続ける。
みことは必死にすちの名を呼び続け、すちの腕の中で再び涙を流す。
すちはどれだけ重い痛みを受けても、決してみことを離すことはなかった。
「おわっ、た…」
どれだけ経ったかわからない。
その場にいた人たちは引き上げていき、すちとみことだけが残された。
「すっち…!」
「ん…笑 けが、ない?いたいとこは?」
「無いよ…でも、すっちーが…泣」
すちは今までにないほどボロボロになり、見るに堪えない姿になってしまった。
しかしそれでもすちはみことの無事を確認すると、やさしく笑った。
いつもの、やわらかいすちの笑顔だった。
「…帰って、手当、しよ」
涙を浮かべながらも、みことはすちを支えて立ち上がり、ゆっくりゆっくり帰り道を進んでいった。
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