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🎼🍵👑 守りたい(後編)
「ん…いだっ…」
腫れた箇所を冷やさせながら、みことは切り傷をひとつひとつ丁寧に消毒していく。
ときどき痛々しく呻くすちを苦しそうに見つめながら手を動かし続け、ようやく最後の頬の傷を治療し終えた。
「おしまい。他に痛いところある?」
「んーん。ありがと」
すちは少しでも動かすと痛むはずの腕をそっと伸ばし、みことの髪に触れる。
ふっと目を細めるすちは、もうすでに以前の穏やかなすちだった。
今更ながら、久しぶりにふたりきりの状況に、みことの胸が騒ぎ出す。
ちょっと気まずいような、嬉しいような、複雑な気持ち。
それでも、愛おしげなすちの視線に気づいた瞬間に心に浮かぶのはすちへの想いだった。
どれだけ離れる時間があっても、自分の知らないすちに突き放されても、変わらない”好き”の気持ち。
溢れて止まらなかった。
ためらいながら、みことはそっとすちの頬に確かに唇を寄せた。
触れたところから伝わる小さなぬくもりに、すちはハッと目を見開く。
と同時に、すちの目から雫がこぼれ落ちた。
ひどいことをしてしまったというのに、それでも側にいてくれる。
こんなにもすちの心を救うものはなかった。
申し訳ない気持ちと、ありがとうという気持ちと___特別な想いが入り混じる。
みことは、自分からやっておきながら、離れるころには恥ずかしさで耳まで真っ赤になっていた。
すちはそんなみことを逆に引き寄せ、ぎゅぅっと、強く強く抱きしめる。
「俺、みこちゃんのこと、傷つけた、のに…」
「…うん…」
「ごめん、ほんとに。怖かったよな…」
「…あのときのすっちーは…ちょっと怖かったな。でも…すっちーがいなくなっちゃいそうっていうくらい傷ついてるのが、いちばん怖かった…」
その言葉を聞いたすちは覚悟を決めた。
謝罪と、感謝と…自分の気持ちを伝える覚悟を。
ぜんぶ話して、またスタートさせる覚悟を。
「ほんとにごめん。…俺を止めてくれて、ありがとう」
みことの目にじわっと涙が浮かぶ。
けれど、それはもうさっきまでとは違い、安堵の涙だった。
すちは一度みことを離し、真正面から見つめた。
みことが視線に耐えられずにちょっとだけ目を逸らしても、すちは逃げなかった。
「みこちゃん。俺…ずっと守ってきてくれたみこちゃんのこと、守れるようになりたくて。強くなりたくて、手、出したんだ」
その告白にみことは目を見開いた。
理由があるとは思っていたけど、まさか自分のためだったとは、思ってもみなかった。
「でも…やっぱ、違ったね。結局みこちゃんのこと、泣かせちゃった。守りたかった笑顔を、俺が壊しちゃった」
すちの目に後悔の色が浮かぶ。
「それでも…ここにいてくれて本当にありがとう。これからも、側にいてくれますか?」
言葉の意味を飲み込んだみことは、ぱっと頬を赤らめた。
「…それって…?」
すちはみことの手をそっと取り、ふわりと微笑んだ。
「みこちゃんが好きです。もう二度と泣かせない、から。これから先も、俺といっしょに生きてください。」
すちなりの、一生懸命な想い。
シンプルだが芯のある言葉に、すちの本気さが滲んでいた。
その告白を受けたみことは、このすちなら、もうだいじょうぶだと確信する。
すっかり元の___いや、前よりも甘くやさしい眼差しは、二度と誰も傷つけない、と。
ほわっと胸があたたかくなったら、素直にすちの言葉が染み込んでくる。
にこっと満面の笑みを浮かべたみことは、きゅっとすちの手を握り返した。
「わたしも、ずっとずっとすっちーがだいすきだよ…!よろこんで!」
その表情は、すちがずっと憧れてきた、守りたい笑顔だった。
「…ま、こんなとこ?」
「そうだね〜」
ひと通り思い出を語り終え、ふたりは微笑みあった。
「すっちーが不良してたとか…信じられなーい!」
「このかんじでな笑」
「結構意外だったなー」
「…話作ってねぇよな?」
みんなの反応が予想通りすぎたすちは、ひとつため息をついた。
「…だから言ってなかったんだけどな」
けれど、すぐにふふっと微笑み、改めてみことに向き直った。
「でもさ。みことがいなかったら俺、いまこんなふうに笑えてないよ。ありがとう。…愛してるよ」
それを聞いたみことはぱっと目を輝かせ、すりすりとすちの胸に顔を埋めた。
テーブルの下で、指を絡ませる。
過去がどうであれ____
“いま”を幸せに生きられている。
ふたりには、それだけでじゅうぶんだった。
Fin.
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