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それから四年後。
談話室のソファで苦手な刺繍と戦っていると、ミレイが入ってきた。
「アイミーお母様」
「ミレイ、どうしたの?」
「今日ね、ほんとうのお母様とお父様の夢を見たんです」
金色の髪はレイロ、ピンク色の瞳はお姉様似で、二人ともに容姿が良かっただけに、とても可愛らしい顔をしている。
ミレイには、本当の父親は戦死、母親は再婚して会うことができないと伝えていた。
写真を見ているから、ミレイは両親の顔を知っている。
だから、夢で見たと言えるのだ。
そんなミレイはもうすぐ5歳になる。
1年後には学園に通うようになるので、心ない子供たちの口から真実を知ることになるでしょう。
それまでに、私たちの口から彼女が理解できる範囲で真実を伝えようと思っている。
私たちが隠しても、他の大人たちは子供に伝えているだろうし、子供は黙っていられない。
真実を他の子供から聞くよりも、私たちから話したほうが良いという判断だった。
ただ、ミレイは思った以上に大人びて育ってしまい、こっちが焦らされる時もある。
「そう。どんな夢を見たの?」
「お父様から家族になろうって言われたので、嫌ですって言いました」
「え? 嫌ですって言ったの?」
「だって、私にはおじい様やおばあ様たち、ヨハネスお兄様にエルファスお兄様、それにアイミーお母様がいますもの」
ミレイは私の隣に座ると、甘えるように腕に頬を寄せてきた。
本当の両親のことをお母様、お父様と呼ぶかわりに、母代わりの私をミレイはアイミーお母様と呼んでくれている。
「どうしたの?」
「あのね、アイミーお母様」
「なぁに?」
「わたし、そろそろエルファスお兄様のことをエルファスお父様って呼びたいわ」
「ええぇぇ!?」
間抜けな声を上げると、ミレイはお姉様を彷彿とさせる笑顔でお願いしてくる。
「ねえ、いいでしょう? お誕生日プレゼントはそれがいいです!」
「エルファスにはもっと良い人がいるから駄目よ。私にはもったいないわ」
「いません! エルファスお兄様はアイミーお母様以外の人とは結婚しないって言っていました」
エルは子供になんて話をしてるのよ。
「おい、やめろ。何の話をしてるんだ」
閉め切られていなかった扉が開き、エルが中に入ってきた。
どうして、このタイミングでエルが入って来るのよ。もしかして、ミレイはエルが来ていることを知っていたのかしら。
というか、ミレイが先に話したいことがあるから、エルにここで待っておけとでも言った可能性がある。扉が少し開いていたのもそのせいね。
というわけで、エルに今の話は聞こえていると思ったほうが良さそうだ。
この5年近くの間に色んな意味でエルは成長した。
だから、結婚を拒む理由もない。
「学園に通うようになったら、家族に授業風景を見てもらう日があるときいたんです。私は二人に来てほしいんです。お父様とお母様として」
ミレイが私とエルの手を握って言った。
ミレイにこんなことを言われてしまったら、すぐに断ることはできない。それに、エルが私しか選ばないと決めたのなら、私も気持ちに応えるべきよね。
「そうね。それまでには」
頷いた瞬間、エルが声にならない声を上げて私とミレイを抱きしめた。
この愛は信じてもいいわよね?
願いを込めて、ミレイとエルを抱きしめた。
******
ミレイの後押しがあり、私とエルは結婚することになった。
エルは私の心が癒えるのをずっと待っていてくれた。
だから、応えられないのなら、そのことを早く伝えなければならないことはわかっていた。
でも、無理だと伝えていなかったのは、私の中でエルの存在が大きくなっていたからだ。
エルと結婚するということは、キスとか、それ以上のことをしちゃうわけよね?
うわあああ。
恥ずかしい。
レイロの時には感じなかった気持ちだわ。
まるで10代に戻ったみたい。
ベッドに寝転んで悶えていると、屋敷の周りに張っている侵入防止の魔法が反応した。
……こんな時間に誰かしら。
もう夜も遅い時間だ。
来客はありえない。
家族や使用人かどうか確かめようと魔力の反応を確かめた時、私は飛び起きて寝間着のまま部屋を飛び出した。
ミレイの部屋の前にいた護衛は何者かによって倒されている。
まだ息があったので回復魔法をかけ、助けを呼ぶように指示をした。
「いやあっ! エイミーお母様、助けてっ!」
「ミレイ!」
ミレイの叫び声に反応して部屋の中に入ると、ミレイのベッドの近くに右腕のない、顔に大きな深い傷を負った男が立っていた。
「……やあ、アイミー。久しぶりだね。俺の娘を返してもらうよ」