「ど……、どうしてここに?」
昔は短髪だったレイロの髪は腰まで伸びており、前髪も目を隠すくらいに長い。
着ている服は上等な生地に見えるけど、血痕が付いているから、誰かのものを奪ったのかもしれない。
……いや、血が乾いていない。
ということは、さっき私が回復魔法をかけた兵士たちの血かしら。
「アイミーは相変わらずだな」
そんなことを呑気に考えている場合じゃなかった。
にやりと笑うレイロに話しかける。
「……レイロ、あなた、生きていたのね」
「ああ。腕は奪われたけど、エルファスの魔法のおかげで助かったよ」
「……エルの魔法?」
「君が返してくれた指輪に回復魔法が付与されていた」
エルは回復魔法まで付与してくれていたのね。昔は回復魔法なんて使えなかったのに頑張ってくれたんだわ。
こんなことになるなら、レイロからもらった指輪を返すんじゃなくて売っておけば良かった。
そんな考えが頭に浮かんだ時、ミレイがベッドから下りて駆け寄ってきた。
「アイミーお母様!」
「ミレイ!」
ミレイを抱き上げて、レイロに叫ぶ。
「あなた、一体何をしに来たのよ!」
「さっきも言っただろ。娘を返してほしい」
「絶対に嫌よ! あなたに渡したりなんかしたら、ミレイが不幸になるだけだもの」
「実の父親と暮らすことが娘にとって幸せだと思わないか?」
私が言い返す前に、腕の中のミレイが叫ぶ。
「思いません! わたしの両親はアイミーお母様とエルファスお父様です! あなたなんていりません!」
「……エルファスお父様だって?」
レイロの表情が一変し、私に憎悪の目を向ける。
「どういうことだ。まさか、エルファスと結婚したのか?」
「死んだはずの人間にどうこう言われたくないわね」
結婚の話をしたタイミングで来るんだから、エルへの執着は本能的なものなのかしら。
ここで魔法を使うとすれば、水か氷ね。
火を使ったらミレイのお気に入りのぬいぐるみが燃える可能性がある。
……それよりも先にミレイを安全な場所に移さなくちゃと思ったところで、お父様たちが来てくれた。
「生きていたのか!」
「ええ。俺はしぶといんですよ」
レイロはお父様を見て笑顔で頷いた。
「お父様、ミレイを安全な場所に連れて行ってください」
「お前はどうするんだ」
「……レイロ、5年前の決着を付けましょうか」
ミレイをお父様に預け、レイロにそう尋ねた時だった。
何かが爆発したような音と共に屋敷が揺れ、音が聞こえてきた方向から悲鳴が上がった。
レイロから目を離すわけにはいかず、お父様に確認をお願いしようとした時、レイロが話しかけてきた。
「アイミー、報告しておきたいことがある」
「……何よ」
「俺はもうレイロじゃない。それと結婚してるんだ」
「そうだったの、おめでとう。なら、その人とお幸せに。二度とミレイや私たちの前には現れないで」
「それは無理だよ。俺の新しい妻は子供が嫌いでね」
「それなのにミレイを連れて行くつもりだったの? 最低な男ね」
子供嫌いな嫁のところに子供を連れて行くなんて、相手にも子供にも不幸でしかない。
言いたいことを言わせてもらうと、レイロは声を上げて笑った。
「アイミー、妻は俺のことが好きだけど、俺はそうでもない」
「あなたはエルが一番よね」
「女性では君が一番だよ、アイミー」
「こっちは男性で一番嫌いなのがあなたなんだけど」
何がおかしいのかレイロは声を上げて笑った。
「今日は大人しく帰るよ。俺の新しい妻は嫉妬深いんでね」
「逃がすわけ」
ないでしょ。
と言おうと思ったけれど無理だった。
大きな音と共にまた屋敷が揺れた。
その瞬間、レイロは窓から外へ飛び出した。
「レイロ!」
さっきからの謎の攻撃で怪我人がいないか気になった。
でも、レイロを逃がすわけにはいかない。
そう思って窓に走り寄った時、大きな火の球が私めがけて飛んできた。
水魔法で相殺すると、すぐにまた火の球が飛んできた。同じように相殺した時には、レイロの姿は消えていた。
火の魔法を使ったのはレイロじゃなかった。ということは、レイロの妻が援護した?
レイロの魔力を探したけれど、近くにいないだけなのか、全く感じ取ることができなかった。
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